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あなたの「ため息」の中にこそ、次の優れたサービスがある(奥田浩美さん)

奥田浩美さん奥田浩美さん(中央)
撮影:本田正浩(肝付町にて)
写真の使用に関しては撮影者および被撮影者の許可を得ています

奥田浩美さんを知っていますか?

奥田浩美(おくだ・ひろみ)さんは、主にIT系のイベントを企画・運営する会社である「株式会社ウィズグループ」の代表です。IT業界では「女帝」とも呼ばれ、日本におけるITの発展に対して、大きな影響力を持っています。

そんな奥田浩美さんは、2012年ごろから、鹿児島に暮らすご両親の介護と戦っています。同時に「株式会社たからのやま」という会社を立ち上げ、介護をはじめとした様々な社会課題の解決を目指すテクノロジーの開発に投資をしています。

当然ですが、現代のテクノロジーでは、介護の課題の全てを解決することはできません。それでもなお、奥田浩美さんは、とにかく失敗を前提として、どんどん投資を進めているのです。実際に、大きな成功の背後には、失敗も多くあります。

失敗を前提とするのは、言うのは簡単ですが、実際に実行するのは困難を極めます。人間は、勝ち馬を探しているのであって、その確率について敏感に反応します。優れていて、失敗の可能性の少ない事業に賭ける人は多数いますが、失敗を前提としている事業に賭ける人は少ないのです。

しかし、失敗をしない人が、新しい事業を生み出すことはできません。新しい事業がなければ、新しい雇用もありません。既存の事業だけで世界が回っていけばよいですが、実際には、世界はまだ理想的な場所にはなっていないことは、言うまでもないことです。

次々と事業を起こす人は嫌われる?

アントレプレナー(起業家)の中でも、特に、次々と新しい事業をおこす人のことを特に、シリアル・アントレプレナー(連続起業家)と言います。奥田浩美さんは、典型的なシリアル・アントレプレナーでもあります。

たくさんの事業を生み出すとはいえ、1つ1つの事業に対して、強い思いがあるのは、アントレプレナーとして当然です。その周辺にいる人の多くは、こうした強い思いに惹きつけられて、事業を共にします。

しかし、シリアル・アントレプレナーの場合は、生み出した1つの事業だけに全力をかけることはしません。うまくいかないと思えば、そうして生み出した事業を閉じることもあります。そうすると、周囲にいる人は「この間と言っていることが違う」と感じるでしょう。

過去に言ったことを、愚直に守る人は、信頼を得やすいものです。しかし、愚直という言葉の中に「愚(おろか)」という意味があるとおり、それは、行動の結果が生み出すことに無頓着であってはじめて成立する態度でもあります。

シリアル・アントレプレナーは、どんどん事業を生み出すのと同時に、玉砕が見えている事業を続けられない人々なのです。こうした人々は、朝令暮改(=朝に命令を出しても、夕方にはそれを変えるような行為)を、むしろ「当たり前のこと」としています。

もちろん、シリアル・アントレプレナーだけでは、本来は上手くいく事業も、上手くいきません。一度決めたら、しっかりと物事を進められるようなパートナーがいてはじめて、事業は飛躍します。しかし、こうしたパートナーの多くは、朝令暮改を嫌うという点が難しいのです。

しっかりと物事を進める人が事業を生み出すときのヒント

こうした意味からすれば、本当は、しっかりと物事を進める人々たちも、事業を生み出せたらよいのです。ただ、こうした人々は、毎日複数件の事業アイディアを生み出すようなシリアル・アントレプレナーほどには、効率的に、アイディアを生み出すことには慣れていないのも普通です。

そこで、ヒントにしてもらいたいのが、奥田浩美さんが推奨する、自分の「ため息」に注目するという方法です。一生懸命生きて入ればこそ、誰もが「ため息」をもらす瞬間というのがあります。そのとき、その「ため息」は、世界で自分だけが発しているものでしょうか。

おそらく、同じような環境にある人が、たくさんいるはずです。自分が「ため息」を発してしまうようなところにこそ、自分がなんとかすべき改善ポイントがあるのです。誰かが、それを改善してくれるのを待つという態度をやめないと、事業は生み出せません。

自分で、その「ため息」にチャレンジすると決めたら、次に行うべきことがあります。それは、周囲の説得ではなくて、同じ「ため息」が共有できる仲間を探すということです。

大きな会社であれば、社内でも、そうした人が見つかるかもしれません。しかし一般的には、仲間は、組織の外にいることが多いようです。自らの「ため息」が生まれる課題についてGoogle検索をすれば、すでに、その問題について具体的なアクションを起こしている人がきっと見つかります。

その課題解決は収益性がないことが多い

そうして、仲間に出会えたとしましょう。しかし、仲間とともに悩むことになるのは、その事業の収益性です。そもそも、収益性が高い場合、その課題は、他の誰かが解決していることがほとんどです。

収益性がないからこそ、世界中の人が、その課題に対して「ため息」をもらすことしかできていないのです。ですから、その事業の収益性が低いからといって、そこであきらめてしまう必要はありません。それは、多くの新しい事業にとって、デフォルト(初期設定)です。

奥田浩美さんのようなシリアル・アントレプレナーの場合は、収益性のあるなしで、事業を立ち上げるかどうかを決めません。事業を回していく中で、収益性を見つけていきます。仮に、いつまでも収益性がないのであれば、NPOやボランティアとして組織すればよいだけです。

そうした意味では、自分の「ため息」を見つけ、仲間に出会ったからといって、簡単に今の職場を退職してしまったり、転職をしてしまうことは、あまりよい判断とは言えません。奥田浩美さんが、どんどん事業を生み出せるのは、背後に安定した収益源を持っているからです。

「ため息」からはじめた事業の着地が、収益性のない事業だとしたら、私たちはそれを止めるのでしょうか。本当は、続けたいと思う場合が多いはずです。であれば、それを続けるためにも大切になるのが、安定した収益源(一般の人の場合は給与)です。

副業解禁の時代だからこそできること

日本は、副業解禁の時代に突入しました。この背景には様々な理由がありますが、基本的には、優秀な人材の確保を考えている場合が多いのです。優秀な人材には、社外から、たくさんのオファーがあります。

そこで副業が禁止されていると、優秀な人材は、容易に別の会社に転職してしまいます。特に、転職先のほうが副業を許している場合は、優秀な人材からすると、かなり魅力的に映るのです。

副業が許されている環境において、期待されるのは、自分で会社を立ち上げるという起業です。先にも述べたとおり、優秀な人材からしても、自分の給与を安定的に確保できてこそ、自らの「ため息」をなくすための活動に突撃しやすくなるからです。

社会的な意味において、副業解禁が成功したかどうかは、起業がどれくらい生まれたかが、大切な測定ポイントになるはずです。個人レベルでは、複数の事業に関わっていることにより獲得される知識やスキルの幅も、測定ポイントになると思われます。

そうして関わった事業では、もしかしたら、奥田浩美さんに会うことになるかもしれません。奥田浩美さんからは「その時は、朝令暮改でも許してね」というコメントをもらいました。変化に怯えるのではなく、ワクワクして生きていくためにも、上手に副業を活用したいものですね。

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