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小規模多機能型居宅介護(小規模多機能)の可能性について考察してみる

小規模多機能型居宅介護(小規模多機能)の可能性について考察してみる

ICFの実務的な意味

ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)とは、人間の置かれている状態を把握するために、世界保健機関(WHO)が定めた分類手法です(ICFに関する詳細はこちら)。

これは、自分自身のことはもちろん、要介護者の状態を把握するのに非常に有効な分類です。ICFの分類は、実務的にはチェックリストとして使用することで、見落としなく網羅的に全体像をつかむことに役立てられています。

ICFの分類のうち、もっとも大きい枠組みは(1)心身機能(2)社会参加(3)日常活動(4)環境因子(5)個人因子の5つです。実は、ICFはこうした個人の状態の把握にとどまらず、情報整理の枠組みとして、政策や制度の評価・立案に活かすこともできます。

今回は、このICFの視点から、今の介護保険制度における介護サービスの問題点について考えてみます。また同時に、そうした問題点の解決になる可能性をもった小規模多機能型居宅介護についても、簡単に述べてみたいと思います。

介護保険制度で受けられるサービスの限界

実は、介護保険制度で受けられるサービスは、ICFにおける「社会参加」の部分が制約されています。具体的には、ICFの「社会参加」で設定されているセルフケア、家庭生活、対人関係、主要な生活領域、コミュニティライフ・社会生活・市民生活などは、今の介護保険制度では、十分にカバーすることができません。

これに対して、介護福祉士の専門性は「利用者の生活をより良い方向へ変化させるために、根拠に基づいた介護の実践とともに環境を整備することができること」と、日本介護福祉士会は明文化しています。

利用者(要介護者)の生活をより良い方向に変化させるためには、当然、ICFの全ての要素へのアプローチが欠かせません。ところが、介護保険が適用される範囲内では、どうしてもアプローチしにくい要素があるのです。

しかし、そうした要素にアプローチできない限り、利用者の活動が低下し、それが心身機能の低下につながってしまいます。結果として、利用者の生活の質が低下することは避けられなくなります。

デイサービス(通所型サービス)の限界について

デイサービス(通所型サービス)は、基本的に、所定の施設内で、介護サービス提供することが原則です(例外としての施設外でのサービス提供もあります)。こうしたデイサービスには、身体のトレーニングや特定のレクリエーションなど、様々なものがあります。

デイサービスは、利用者の心身の健康維持・回復にとって、非常に重要なサービスを提供しています。しかし同時に、デイサービスへ通っているからというだけで、ICFにおける「社会参加」としてしまうことはできません。

当然ですが、要介護状態になる前からデイサービスに通っていた利用者はいません。デイサービスでも新たな「社会参加」が生まれることは疑えません。しかしそれは、利用者が、要介護状態になる以前から大切にしてきた「社会参加」とは異なるものです。

本来は、要介護状態となった人が、それ以前の「社会参加」を、少しでも継続できるようにすることが大事です。たとえば、長年、陶芸を趣味としてきた人がいたとします。その要介護者にとっては、馴染みの陶芸教室に通えるかどうかが重要でしょう。

「陶芸が趣味だから、陶芸がやれるデイサービスを探す」という行動は、ICFの視点からは、理想的とは言えません。その要介護者にとっては、陶芸そのものも大事だと思われますが、馴染みの陶芸教室で、馴染みのメンバーと交流することも大事なはずなのです。

ヘルパー(訪問介護)の限界について

では、こうした要介護者を、馴染みの陶芸教室に連れていくために、ヘルパー(訪問介護)を使えるでしょうか。結論から言えば、それは、今の介護保険制度では、非常に難しいのです。

そもそも、介護保険制度で提供される生活援助においては、要介護者の「散歩の同行」というレベルでも、それに介護保険が適用されるかどうかは、厳密に審査され、簡単には通らないようになっています。

残念ですが、馴染みの陶芸教室に通うためのヘルパーの同行には、介護保険は(まず)適用されません。これを実現するには、介護保険外の高額なサービスを、全額自己負担で利用するしかありません。

この背景には、高齢者が増え、それに伴って要介護者も増えた結果として、介護保険サービスを提供するための国の財源が枯渇しつつあるという現実があります。なんでもかんでも介護保険を適用していたら、お金がもたないのです。

障害者総合支援法ではカバーできないのか?

障害者総合支援法とは、障害のあるなしに関わらず、基本的人権のある個人として、その人らしく生きていくことを支援するための法律です。要介護者の多くは、障害者として認定される可能性があります(自治体によって基準が異なりますので注意してください)。

この障害者総合支援法では、同行援護、行動援護といったサービスが規定されており、介護保険法では手が届かないところがカバーされる可能性があります。外出の支援はもちろん、労働の支援もあるのです。ただ、障害者総合支援法に準じて適用されるサービスは、総じて金額が高いというデメリットがあります。

お金に余裕があれば、介護保険で提供されるサービスと組み合わせて活用することで、ICFの観点からも理想に近い生活ができるかもしれません。ただ、富裕層だけが助かるような社会は、私たちが目指すものではないはずです。

こうした現状へのアンチテーゼとしての小規模多機能

このような現状を打破する可能性があるのが、小規模多機能型居宅介護(小規模多機能)です。小規模多機能は、他の介護サービスよりも提供できるサービスの柔軟性が高く、基本的には、安価な定額制になっています。

具体的には、小規模多機能では、通い、訪問、泊まりといった基本的なサービスが、包括的に提供されます。「社会参加」も、十分に可能です。それこそ、要介護者の希望次第ではあるものの、馴染みの陶芸教室に定期的に通うために、介護職が同行してくれたりもします。

課題は、小規模多機能は、他のデイサービスやヘルパーと併用することができないという点です。小規模多機能を使うと決めた場合、それまでお世話になってきたケアマネ、ヘルパー、デイサービスなどを同時に使い続けることはできない仕組みになっています。

また、小規模多機能の事業所数が、まだまだ少ないというのも問題です。運良く、要介護者の居住する地域に小規模多機能があったとしても、満員ということもよくあります。

今後は、小規模多機能が増えていくことが予想されるものの、小規模多機能ではない既存の介護事業者との間で、要介護者の取り合いのようなことも起こってしまう可能性があります。全体として、日本の介護をどうしていくのか、建設的な議論が求められています。

※参考文献
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 『デイサービスにおけるサービス提供実態に関する調査研究事業 報告書』, 平成23年度老人保健健康増進等事業, 2012年
・厚生労働省, 『適切な訪問介護サービス等の提供について』, 2009年
・厚生労働省, 『指定訪問介護事業所の事業運営の取扱等について(老振第76号)』, 2000年
・須加美明, 『利用者による訪問介護評価尺度案の交差妥当性と関連要因の検討』, 社会福祉学48(1):92-102, 2007年
・上田敏, 『ICFの理解と活用—人が「生きること」「生きることの困難(障害)」をどうとらえるか』, きょうされん, 2016年
・WHO, 『国際生活機能分類—国際障害分類改訂版—』,中央法規(2007年)
・厚生省老人保健福祉局企画課長, 『指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準について』, 老企第25号, 平成11年9月17日

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