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介護には、国から10兆円以上のお金が導入されています。この内訳としては、税金以外にも、40歳以上の人から徴収される介護保険料なども含まれています。とはいえ、こうして徴収される介護保険料も、ある種の税金です。
もちろん、介護保険の適用外となるような各種サービスも利用されています。また、自己負担部分も1〜2割はありますから、介護の全てが税金で支えられているということにはなりません。とはいえ、その大部分において、税金が使われているのは動かせない事実です。
ですから、介護事業者から見たとき、売上の出元のほとんどが税金ということになります。そこから、人件費などのコストを引き算したものが利益になります。安定した売上があるので、コストさえおさえることができたら、儲かる事業にできるのです。
しかし現実には、介護事業者の倒産が続いています。ここ数年は、過去最悪の倒産ペースが続いているのです。その理由は様々ですが、一番大きな理由と考えられるのが、経営力の欠如です(もちろん、個別には優れた経営者もいます)。
介護事業の多くは、介護業界での実務経験を積んだ人が起業することで生まれています。介護事業の空白地帯での起業を、自治体からお願いされるような形での起業も少なくありません。
しかし、こうした起業家には、介護に関する知識はあっても、経営経験があるわけではありません。介護の現場は、人間的で暖かい感情でできていますが、経営は、むしろその逆ともいえるドライな合理性でできています。この2つは、もともと、なかなか相容れない組み合わせなのです。
これと同じことが、介護事業者だけでなく、病院のような医療機関についても言えます。病院の倒産も相次いでいますが、その背景にも、経営力の欠如があると考えられます。
投資ファンドの仕事は、投資家からお金を集めて、そのお金をなんらかの事業に投資し、大きなリターンを生み出すことです。特に、特定の会社(事業部)を買収し、経営改善し、その会社を高値で売り抜けるというバイアウト・ファンドは、花形です。
こうしたバイアウト・ファンドが、今、介護業界を狙っているようです。経営の苦しい介護事業者を買収し、そこに得意の経営力を注入して事業価値を高め、上場させたり、または売り抜けたりすることで利益を生み出そうとしているのです。
バイアウト・ファンドによる介護事業者の買収に関する動きについて、以下、日経デジタルヘルスの記事(2016年11月19日)から、一部引用しながら考えてみます。
欧州大手ファンドのCVCキャピタル・パートナーズは2016年9月26日、「イリーゼ」ブランドで有料老人ホームなどを展開する長谷川介護サービス(株)(東京都豊島区)などを傘下に抱える長谷川ホールディングス(東京都豊島区)を買収したと発表した。(中略)
10月には、関東を中心に高齢者住宅「ふるさとホーム」や通所介護事業所などを122施設運営する(株)ヴァティー(東京都港区)の親会社である(株)SCホールディングス(東京都港区)が、投資会社の(株)日本産業推進機構(東京都港区)によって買収された。(中略)
このほか、三菱UFJリース(株)(東京都千代田区)と(株)日本政策投資銀行(東京都千代田区)が病院・介護施設を対象とする最大700億円規模のファンドを組成。投資ファンドのマネーが医療・介護分野に流れ込む動きが目立つ。
こうした動きは、介護業界全体の経営力を高め、結果として、より安定的な介護サービスにつながります。完全に合法的な活動ですし、それはそれで、良い面もあります。しかし、無視できない課題もあります。
バイアウト・ファンドが買収をして、その経営力によって大きな改革の手を入れるのは、コスト削減です。ICTの導入などによって効率を高めつつ、要介護者(利用者)1人あたりの介護職の人員数を減らすというのが、活動の根幹になると思われます。
では、この結果として生まれる大きな利益は、どこに行くのでしょう?それは、投資家のところです。こうした投資家の中には、当然、外国人も多く含まれています。投資ファンド自体が、そもそも、日本企業ではない場合も少なくありません。
すると、そこに生まれてしまうのは、日本の税金が、外国に流れてしまうという構図です。介護業界の経営力を高めるコストが、国内にとどまることなく、外国に流れてしまうということでもあります。これは、国家の経営という視点からは、問題が大きいと言わざるをえません。
本来であれば、既存の介護事業者の経営力を高めることが理想です。結果として、税金も、外国の投資家のところではなくて、介護職の給与改善などに向かいます。それが、あるべき姿でしょう。
経営力というのは、巨大な付加価値なのです。であれば、そうした付加価値を生める人材の育成こそ、最高の投資ということになるはずです。介護業界の若手向けに無料で経営学を教える KAIGO LAB SCHOOL の狙いは、ここにあります。
とはいえ、バイアウト・ファンドも合法的な活動ですから、否定することはできません。間違いなく、良い効果もあります。問題視したいのは、介護業界の経営力の改善という巨大な付加価値に対して、いまのところ、国が動けていないというところです。
※参考文献
・日経デジタルヘルス, 『国内外の投資ファンドが介護事業者を相次ぎ買収』, 2016年11月19日
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