KAIGOLABの最新情報をお届けします。
日本の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)は年々上がり続け、2015年で26.7%となっています。すでに4人に1人は高齢者です。内閣府の推計によれば、2060年には高齢化率が39.9%に達し、2.5人に1人が高齢者になります。
高齢化率の上昇とともに、社会保障費は伸び続けており、このままでは財源の確保もままならないという日を迎えることは間違いありません。医療費については、高額療養費制度が見直されるなど、個人へ負担がのしかかるように徐々に改悪され始めています。
もちろん国としても、ただ国民に負担を強いるわけにもいきません。何とかして医療費を抑える手を打とうとしています。その一つが、治療から予防への転換です。そもそも病気にならなければ、医療費はかかりません。同じようにお金をかけるのであれば、少しでも予防医療にお金を使おうという動きが積極的に進められています。
その中でも比較的、昔から行われているのが、歯に関する疾病の予防です。11月8日は「いい歯の日」ということで、歯の大切さを啓蒙する数多くのイベントが行われていました。「8020運動」という言葉は、一度は耳にしたことがあるでしょう。80歳まで自分の歯を20本キープしようという運動です。20本揃っていれば、だいたいどんな食事にも対応できるそうです。
脳血管系や心臓といった循環器系の疾患や、筋肉・骨・関節のダメージなど、直接介護に繋がってしまうような問題に比べると、口腔に関わる問題は軽視されがちです。しかし、最近では「オーラル・フレイル」という言葉が注目されています。
フレイルとは健康な状態と、介護が必要な状態の中間を表す言葉です。かつては虚弱という言葉が使われていましたが、その不可逆なイメージを避けるためにフレイルという言葉が用いられるようになりました。
「オーラル・フレイル」は直訳すれば「口腔機能の虚弱」です。一般的には歯周病などの歯に関するトラブルが想像されます。しかし、口腔の問題にとどまらないのが「オーラル・フレイル」の恐ろしいところです。
口腔機能の低下は、握力や身体バランスなどの身体能力に影響を与えることが分かっています。また歯のケアを怠ったことにより、噛みづらくなって、柔らかいものばかり食べていると、唾液の分泌が低下して、さらに口腔機能が阻害されてしまいます。
口腔の問題は栄養の摂取や、運動のケアとのバランスも重要になります。たとえば、ビタミンDの摂取不足はカルシウム不足を生み、骨量が減ってしまいます。骨粗鬆症の原因の1つになるということです。骨粗鬆症は転倒による骨折など、様々な問題に直結してしまいます。
また歯が抜けたり、歯周病になったりすると、咀嚼する筋力が低下し、食べることが億劫になります。そうするとまた悪循環になります。こうして、口腔以外の部分にまで影響を及ぼしてしまうことを考えれば、やはり日頃のケアが重要です。
どれだけ気をつけて、口腔内のケアを行っていても、加齢とともに歯周病になるリスクは高まっていきます。実際、厚生労働省の発表によれば、2014年度の歯肉炎及び歯周疾患の患者数は331万人にも上りました。さらに歯周病の有病率でみると、30代から50代については約8割、60歳以上については、なんと約9割にも上ります。
予防に失敗して歯周病に感染してしまっても、しっかりと処置をすれば完治することができます。しかし、日頃からのケアが徹底してない場合は、取り返しのつかない状態になるまで放置してしまうことも少なくありません。原因となった歯だけでなく、周囲の歯まで失うことも十分考えられます。
かつては歯を失ってしまった場合、完全な入れ歯を装着するか、両サイドの歯にブリッジをつけて対応するのが一般的でした。しかし近年では、インプラント治療が主流になってきています。インプラントとは、歯を失ってしまった部分の骨の中に、人口の歯根をいれる方法です。
インプラント治療であれば、周囲の残っている歯を削ることなく、失った歯だけの処置で済ませることができます。周りの歯の負担も軽減され、治療自体も非常にシンプルです。
しかし、インプラントにはデメリットもあります。まずは外科処置が必要だということです。親知らずなどを抜くときにもしばしば起こりますが、腫れや痛みはもちろん、内出血がひどい場合もあります。神経を傷つけてしまった場合は、麻痺が残ってしまう可能性もあります。
また処置自体には非常に時間がかかります。歯茎の定着などを考えれば、最低でも3カ月程度はかかります。さらに保険は適用されないので、多額の料金がかかります。現在では一本あたり30~40万円程度が相場です。
そして、インプラント治療において、もっとも危惧されるのが、処置したあとのメンテナンスについてです。インプラント治療を行うと、人工歯根をいれているために、感染とは無縁だと勘違いしてしまうパターンが多いようですが、実際はもとの歯よりも菌に対する防御力は低下しています。メンテナンスをしっかりとしなければ、結局また歯周病になってしまうので注意が必要です。実際、インプラントを行った人の約10%が3年後にインプラント周囲炎に悩まされているそうです。
介護の場面でも口腔に関することは非常にデリケートな問題です。先述したように「オーラル・フレイル」はそれ自体が多くのトラブルに繋がります。介護者は、要介護者の口腔ケアについて、常に気を付けていなければなりません。
危険なのは、まだ介護が必要ではなかった時に処置をしたインプラントについて、介護者(介護のプロや家族)に伝達されていない場合です。一見すれば、インプラントは実際に本物の歯と見分けがつきません。本人が自ら申告しない限り、定期的なクリーニングやメンテナンスを受けるのは難しいでしょう。
本人が申告できれば問題ありませんが、認知症などを患っている場合は、インプラント自体を忘れてしまっている場合もあります。施設等での介護の場合は家族からの引継ぎなどが重要です。また受け入れる側としても、要介護者の口腔状態について、しっかりと情報を得る意識が大事です。インプラント自体があだになってしまわないようにしなければなりません。
※参考文献
・日本歯科医師会HP, 『オーラル・フレイル』
・内閣府, 『平成28年版高齢社会白書』, 2016年5月20日
・厚生労働省, 『平成26(2014)年患者調査の概況』, 2016年
・東京大学高齢社会総合研究機構, 『東大がつくった高齢社会の教科書』, Benesse, 2013年
KAIGOLABの最新情報をお届けします。