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介護福祉士とは?その行動規範(倫理基準)から読み解く

介護福祉士とは?その行動規範(倫理基準)から読み解く

介護福祉士の責任は上がっていく

介護福祉士とは、介護の専門職であることを示す国家資格です。心身になんらかの障害を抱えている人に対して、その障害の状態に応じて支援を行います。また、そうした人に対してはもちろん、そうした人を介護する介護者(家族であることが多い)に対して、介護に関する教育指導も実施します。

国は、介護職の不足を受けて、こうした資格がなくても介護の仕事に従事できる方向に、規制を緩和してきています。しかし、そうした規制緩和とはうらはらに、介護福祉士に求められる専門性は、年々上がってきているのです。

たとえば、喉(のど)や口にたまった分泌物を、専用の機器を使って吸い取るという「たん吸引」は、医療行為とされます。医療行為ですので、2012年4月以前には、看護師が担当してきました。

これが2012年4月以降、介護福祉士にも認可されています(介護福祉士以外の介護職員の場合は、特別な研修への参加が必要)。これに伴い、2016年1月以降の介護福祉士の養成課程においては「たん吸引」のカリキュラムが追加されています。

今後は、国の医療費も介護費も枯渇していくので、現場にいる医療職、介護職への負担が上がっていきます。要するに、少ない人数で、高い品質の医療・介護行為をしていくことが求められるため、これまで医師に限定されてきたような医療行為も、どんどん、看護師や介護福祉士のほうに移管されていくということです。

当然、介護福祉士の社会的な役割と責任も上がっていくことになります。それにも関わらず、こうした介護職の待遇が十分でないということについては、これまでなんども記事にしてきました。そちらも参照いただけたらと思います。

介護福祉士の行動規範について知っておきたい

こうした中、日本介護福祉士会は、介護福祉士の倫理綱領に基づいて、行動規範(倫理基準)を定めています。この具体的な中身について知っておくことは、家族(介護者)にとっても、介護職のサービス品質を考える上で、非常に重要です。

介護福祉士に期待できること、また、介護福祉士にはお願いしてもどうにもならないことを判断するためにも、以下に、介護福祉士の行動規範について、日本介護福祉士会の資料より引用しておきます。

(利用者本位、自立支援)
1.介護福祉士は、利用者をいかなる理由においても差別せず、人としての尊厳を大切にし、利用者本位であることを意識しながら、心豊かな暮らしと老後が送れるよう介護福祉サービスを提供します。
2.介護福祉士は、利用者が自己決定できるように、利用者の状態に合わせた適切な方法で情報提供を行います。
3.介護福祉士は、自らの価値観に偏ることなく、利用者の自己決定を尊重します。
4.介護福祉士は、利用者の心身の状況を的確に把握し、根拠に基づいた介護福祉サービスを提供して、利用者の自立を支援します。

(専門的サービスの提供)
1.介護福祉士は、利用者の生活の質の向上を図るため、的確な判断力と深い洞察力を養い、福祉理念に基づいた専門的サービスの提供に努めます。
2.介護福祉士は、常に専門職であることを自覚し、質の高い介護を提供するために向上心を持ち、専門的知識・技術の研鑚に励みます。
3.介護福祉士は、利用者を一人の生活者として受けとめ、豊かな感性を以て全面的に理解し、受容し、専門職として支援します。
4.介護福祉士は、より良い介護を提供するために振り返り、質の向上に努めます。
5.介護福祉士は、自らの提供した介護について専門職として責任を負います。
6.介護福祉士は、専門的サービスを提供するにあたり、自身の健康管理に努めます。

(プライバシーの保護)
1.介護福祉士は、利用者が自らのプライバシー権を自覚するように働きかけます。
2.介護福祉士は、利用者の個人情報を収集または使用する場合、その都度利用者の同意を得ます。
3.介護福祉士は、利用者のプライバシーの権利を擁護し、業務上知り得た個人情報について業務中か否かを問わず、秘密を保持します。また、その義務は生涯にわたって継続します。
4.介護福祉士は、記録の保管と廃棄について、利用者の秘密が漏れないように慎重に管理・対応します。

(総合的サービスの提供と積極的な連携、協力)
1.介護福祉士は、利用者の生活を支えることに対して最善を尽くすことを共通の価値として、他の介護福祉士及び保健医療福祉関係者と協働します。
2.介護福祉士は、利用者や地域社会の福祉向上のため、他の専門職や他機関と協働し、相互の創意、工夫、努力によって、より質の高いサービスを提供するように努めます。
3.介護福祉士は、他職種との円滑な連携を図るために、情報を共有します。

(利用者ニーズの代弁)
1.介護福祉士は、利用者が望む福祉サービスを適切に受けられるように権利を擁護し、ニーズを代弁していきます。
2.介護福祉士は、社会にみられる不正義の改善と利用者の問題解決のために、利用者や他の専門職と連帯し、専門的な視点と効果的な方法により社会に働きかけます。

(地域福祉の推進)
1.介護福祉士は、地域の社会資源を把握し、利用者がより多くの選択肢の中から支援内容を選ぶことができるよう努力し、新たな社会資源の開発に努めます。
2.介護福祉士は、社会福祉実践に及ぼす社会施策や福祉計画の影響を認識し、地域住民と連携し、地域福祉の推進に積極的に参加します。
3.介護福祉士は、利用者ニーズを満たすために、係わる地域の介護力の増進に努めます。

(後継者の育成)
1.介護福祉士は、常に専門的知識・技術の向上に励み、次世代を担う後進の人材の良き手本となり公正で誠実な態度で育成に努めます。
2.介護福祉士は、職場のマネジメント能力も担い、より良い職場環境作りに努め、働きがいの向上に努めます。

介護福祉士の待遇改善を応援することの意義

世間的には、介護職というのは「下の世話」をしている人々といった、かなり偏った認識があります。しかし、こうした認識だと、介護職は「我慢さえできれば、誰でもできる仕事」といった誤解が広がってしまいます。

ですが、ここで紹介した行動規範からも明らかなとおり、介護職(特に介護福祉士)は、かなりの知力と、その知力を前提とした勉強が求められる仕事です。また、相当高いコミュニケーション能力も必要になります。そして、介護職に求められる能力は、年々高まっているということは、先に述べた通りです。

それにも関わらず、介護職の待遇は、全産業平均から、年収ベースでは100万円以上安いという状態です。実質的に、毎月の手取りで20万円を下回るような人も多数います。これは、介護職が生み出している社会的な付加価値に対して、公平な条件とは言えません。

介護職の待遇は、結局のところ、国の介護に関連する財源に依存してしまっています。ここが根本的に大幅に増やせないにも関わらず、介護職は不足しているという状態なのです。そう考えると、今と同じ介護保険制度をベースとしていては、介護職の待遇改善はできないことになります。

具体的には(1)介護福祉士を公務員にする;デンマークなどでは実現されている(2)介護現場にITを導入して効率化し、少ない人数でも多くの仕事ができるようにして、1人あたりの給与財源を確保する(3)地方議員の給与をゼロとして介護福祉士の手当て財源とする;諸外国では地方議員はボランティアであることが多い、といった対応が求められます。

※参考文献
・日本介護福祉士会, 『日本介護福祉士会 倫理基準(行動規範)』, 2012年

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