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私たちは皆、同じように歳をとり、少しずつ衰えていきます。歳を重ねれば、そのスピードに差こそあれ、思うように体を動かせなくなっていくものです。出来れば歳はとりたくないものですし、アンチエイジングが流行するのもわかります。
もちろん、歳をとることは、悲しいことばかりではありません。歳を重ねることでできるようになることもあります。たとえば適切な判断や、新しい理論の構築など、高度な精神の働きは、豊富な生活経験や知識に裏打ちされています。
また、メジャーリーガーのイチロー選手や、Jリーガーの三浦知良選手は、一般には現役とは言えない歳になっても、大活躍しています。彼らの活躍に私たちは勇気づけられもします。
しかし、私たちが彼らの活躍を見て、涙を流して感動するのは、その裏にある想像を絶する努力を思い描くからでしょう。私たちは経験的に、加齢が自分の身に及ぼす影響の大きさを知っているのです。
以前にも記事にした通り、高齢者はいずれ「老年症候群」と向き合うことになります。老年症候群は、簡単に言えば、老化にともなって現れてくる様々な症状のことを指しています。
より厳密には(1)特に外傷や疾患などがなくても発生する生理的老化に伴う症状;難聴、視力低下、夜間頻尿、物忘れなど、と(2)外傷や疾患などによって顕在化する症状、の2種類があります。
高齢者にとって、老年症候群は、生活の質(QOL)に害を与える大きな問題です。なかでも、夜間頻尿などの排尿に関する問題は、QOLの低下に直結する、デリケートな問題です。
過活動膀胱(かかつどうぼうこう)という症状をご存知でしょうか。近年では、その患者数の多さから、かなり注目され、早期の検査や治療を勧めるテレビコマーシャルも流されています。
過活動膀胱の主な症状は、尿意の切迫感です。つまり実際に尿がたまる前に、急激に尿意をもよおしてしまう病気です。我慢して止められるうちは大丈夫ですが、年齢が上がるにつれ、この我慢も効かなくなっていきます。
また1回の排尿量は少ないものの、何度もトイレに行くことになります。特に、夜中に何度もベッドから立ち上がり、トイレまで向かうことは誰にとってもつらいことです。室内の移動等にも介護が必要な人の場合はなおさらです。24時間の介護が必要になってしまいます。
実は、排尿の問題を抱える人は40代から増えていきます。少し古いデータ(2003年)になってしまいますが、日本排尿機能学会誌によると、過活動膀胱の症状を抱えている人は、40歳以上で見ると810万人にものぼります。当時の40歳以上の人口が約6,710万人だったので、実に12.4%(8人に1人)が過活動膀胱の症状を抱えていたのです。
また尿失禁の経験がある人は、2,100万人、尿の勢いの低下を感じている人は2,500万人もいます。日本の人口の5人に1人は、何かしら、排尿に関わるトラブルを抱えているのです。
そもそも尿は、血液中の不要物や有害物、新陳代謝の老廃物などを体外に捨てるために出されるものです。腎臓でろ過され、生産されます。よく入院中の高齢者が末期を迎えた時、尿が出せなくなり、全身に毒素が回ってしまったり、むくんでしまったりするということがあります。尿は、生命維持にとっても、非常に大切なものなのです。
これだけ多くの患者がいるにも関わらず、これも当時の数字ですが、日本の泌尿器科医は7,000人しかいません(2015年のデータでは6,471名)。過活動膀胱の810万人だけを見ても、これだけの人数では明らかに医師不足といえるでしょう。
ということは、泌尿器科医ではない、内科医などにもその対応を求められるのはもちろんです。さらに、医者のみならず現場の看護師や介護職がしっかりとこの病気を理解し、対処法を学んでいることが求められるのです。
さらに患者自らが対策を知ることも大事ですし、要介護者の家族などが、この病気について深く理解していることも必要でしょう。以下、こうした背景から、過活動膀胱への対応の基本を、3つ(生活習慣の是正、行動療法、薬物療法)のポイントから簡単に解説します。
生活習慣について、まず簡単に出来るのは、15時以降に摂取するお茶(水分)を控えることです。また利尿作用があるようなカフェインやアルコールの制限をすることも大事です。とはいえ、QOLの維持という観点で考えれば、これを個人に強制することはできません。晩酌を楽しむことと、夜トイレのために起きなくてよくなること、どちらが幸せかは本人の希望によって決めてもらうしかありません。また、便秘の解消に向けて努力することも必要です。便が直腸に停滞すると、尿失禁や排尿困難が起きやすくなります。これについては、下剤などを飲むよりも、食事療法で改善できるのが望ましいと言えます。
膀胱を訓練するという発想も大切です。医師、看護師や介護職との連携をとりつつ、排尿と排尿の間隔を広げていくという訓練を行うことが可能です。また、骨盤底筋体操という専門的な体操などを行って、蓄尿能力を高めるといったことも大事です。行動療法については、自分で勝手に行わず、専門家に相談しながら行うようにしてください。ここまで見てきたとおり、尿に関することは、一般に信じられている以上にデリケートで大事なことです。いかなる訓練であっても、コーチとなる人がいるのといないのとでは、結果に大きな差が生まれるのは当然です。
薬に関することは、しっかりと医師に相談をして、正しい処方を心がけないとなりません。特に高齢者は、複数の目的の異なる薬を日常的に服用していることが多く、薬の飲み合わせなどについても配慮する必要があります。こうしたところは、専門家でも難しい領域であるため、素人判断が危険であるばかりか、そもそも、プロでも失敗することがある世界です。なかには、簡単に手に入る市販の薬物(解熱鎮痛剤など)もありますが、使い方を間違えれば大きな問題にもなりかねないので、本当に注意してください。
※参考文献
岡村 菊夫,et al., 『一般内科医のための高齢者排尿障害マニュアル』, 国立長寿医療センター泌尿器科, 2007年3月1日
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