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親を捨てるしかない?宗教学者でさえ、匙を投げる現状(ベーシックインカムの未来は来るか)

親を捨てるしかない?宗教学者でさえ、匙を投げる現状

宗教学者の島田裕巳氏による提言

宗教学者の島田裕巳氏が、新著『もう親を捨てるしかない』(幻冬舎新書)の出版に合わせて、インタビューを受けています。Livedoor NEWS(2016年6月6日)の記事から、以下、一部引用します(改行位置などは KAIGO LAB にて修正)。

島田氏は新著『もう親を捨てるしかない』(幻冬舎新書)の冒頭で、2015年11月に起きた「利根川心中」に触れている。埼玉県内を流れる利根川で81歳の妻と74歳の夫の遺体が発見され、47歳の三女が「母親に対する殺人、父親に対する自殺幇助」の疑いで逮捕された事件だ。三女は認知症の母の介護に疲れ果て、病気で働けなくなった父から「一緒に死のう」といわれ、一家心中をはかったと供述した。

この事件がテレビや新聞で大きく取り上げられることはなかったが、そのことに島田氏は強い危機感を抱いている。「同種の事件があまりにも頻繁に繰り返されていて、しかも解決の目処が立たない。だから世間は見て見ぬふりをしている。この事態は極めて深刻です。

家族という単位が資本主義社会の中で相当に疲弊していることが原因で、その歪みが介護殺人、介護心中という“親殺し”として現われている。そんななかで、いくら家族主義を唱えたところで無駄。人類は家族を形成することで生きてきましたが、今の私たちは歴史的な岐路に立たされている」(島田氏)

島田氏がいう通り、介護殺人の問題は、世間が見て見ぬふりをしていると感じます。介護殺人のニュースは、ほとんど毎日のように流されています。しかし実際の介護殺人は、ニュースになる以上に発生しているはずです。

日々、介護をしていれば感じられることですが、誰でも、介護殺人の実行者になりえます。介護の現実は、それほどに厳しいものであり、そうそう簡単な解決策のある話でもありません。本当に難しい問題です。

介護殺人は、いつ起きてもおかしくない

毎日新聞とインターネットインフィニティー(東京都)の共同調査の報道(2016年2月28日)によれば、アンケートに回答した730人のケアマネの55%が、介護家族と接する中で「殺人や心中が起きてもおかしくないと感じたことがある」と答えています。

島田氏は、こうした現状に対して、親を殺すくらいなら、いっそ、自分が主体的に介護をするという状況から逃げるべきだと主張しているのです。これはかなり過激な提案ではありますが、現実に苦しい介護の中にいる人からすれば、自分でも考えたことのある提案だと思います。

どのみち、このまま、介護殺人が増えていくのを、ずっと見て見ぬふりでやり過ごすことはできなくなっていきます。なんらかの社会的な合意とルール作りが必要な段階にきていることは間違いありません。

この話題では、決まって「地域のサポート」が必要というあたりに落ち着きます。KAIGO LAB でも、いろいろな記事にしてきました。しかしもはや、こうした議論の落としどころとしての「地域のサポート」では、どうにもならないところまできています。

未来は、ベーシックインカムにつながっているか?

社会の不安定化にともなって、親との同居は、これから増えていく可能性があります。たとえば、人工知能(AI)の発達によって職を失った人は、親元に戻って生活を立て直す必要も出てきます。

親と同居すれば、一時的には、親の年金や財産を頼って暮らすことも可能です。しかし、それはいずれ、親の介護問題というところに行き着き、運が悪ければ、介護殺人に至ってしまうでしょう。

島田氏の主張としては、世帯として、親と子供はしっかりわけて、それぞれに独立して、介護は公的なサービスに任せていく方向にあります。このとき、親は、公的な介護サービスを利用するのに十分な財産がなく、子供も独立するのに必要な安定した経済基盤を持たないとしたら、どうなるのでしょう。

ここで、唯一の希望と言えるのがベーシックインカム(Basic Income)という発想です。ベーシックインカムとは、無条件で国から個人(世帯ではない)に給付される一定額のお金のことです。これがあれば、親と子供は、それぞれに独立して生きていくことが可能になります。

スイスで先週末に行われた国民投票では、このベーシックインカムは賛成が23.1%%、反対が76.9%となり、否決されています。ただ、スイスが国民投票をするまでに、この仕組みの導入を真剣に検討していることは、これから、世界中に波及していくでしょう。

失業者が増え、介護に苦しむ人が大変な状況になっていけば、いずれは、このベーシックインカムは、日本でも導入の機運が高まるはずです。逆に、ベーシックインカム以外の方法で、介護殺人を根本的になくす方法は、そうそうないように思われます。

※参考文献
・Livedoor NEWS, 『「介護殺人」の予備軍にならない方法とは 宗教学者が衝撃的な提案』, 2016年6月6日
・湯原悦子, 『介護殺人の現状から見出せる介護者支援の課題』, 日本社会福祉大学社会福祉論集, 第125号(2011年)
・NHK NEWS, 『スイス 国民投票で「ベーシックインカム」導入否決』, 2016年6月6日

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