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日本の介護を取り巻く現状はそう甘くなく、人材不足や財源不足など、様々な課題を抱えています。その解決の一助となることを目指して、このサイト(KAIGO LAB)を運営していますが、どうしても介護にまつわる話は、課題に関するものが多くなってしまうことも事実です。
しかし、少し俯瞰して世界に目を向けてみれば、少し違った考えもできます。いま目の前の介護を必死で頑張っている方々の努力や、介護業界で働く皆さんの苦労や経験は、これからの世界に大きく役に立つ可能性を秘めているということです。
よく、地方創生を語る時に、人口減少に立ち向かう地方の人々の今の苦しみは、都会にも数十年後に必ず訪れる問題だと言われます。町から若者が減り、新たな命が生まれてこなくなると、少子高齢化がどんどん進みます。働く場所や学校が減っていき、さらに住み続けるのが難しくなってしまいます。
そんな中、地方の人々は「課題先進地域」に生きるものとして、ひとつになってこの課題に立ち向かおうとしています。それは今、自分たちが直面している問題を解決することができれば、それが未来の日本の課題解決や、世界の課題解決につながるからです。
日本は戦後、目覚ましい経済成長を遂げ、アジアのトップを走ってきました。1970年代の高度経済成長期には、合計特殊出生率(=1人の女性が生涯で産む子供の平均数)が2.13となり、まさに人口ボーナス期(=15歳から65歳までの生産年齢人口が増加から減少に転じるまでの期間)に入っていたと考えられます。
しかし残念ながら、現在は完全に人口減少のフェーズ(少産少死の時代)に入っています。作る人もいなければ、消費する人もいないという時代に突入しているのです。そして、私たちが直面しているもっとも大きな問題の1つが、高齢化による介護問題です。どんどん増え続ける要介護者を、どう支えていくかが問題になっています。
人口ボーナス期が終わると、特殊出生率が下がります。2010年の統計では、日本は1.39にまで下がり、現在の政府はこれを1.8にするという目標をかがげています。しかし、先の杉並区での保育所建設問題などを見ても、容易なことではなさそうです。
アジアの国々の状況を見てみましょう。2010年の時点で、日本が1.39であるのに対し、香港は1.11、シンガポールは1.15、台湾は0.90、韓国が1.23で、なんと、いずれも日本より低くなっているのです。実は、東アジア全体における高齢化、つまり、少産少死の時代が始まっているのです。
お隣の韓国の事例をみてみましょう。韓国では高齢化率が7%を超えたのが1999年です。このころは、日本にくらべると、まだ高齢化が進んでいませんでした。しかし、韓国の場合は、ここから一気に高齢化が加速していきます。
2007年には10%を超え、2017年には14%になろうとしています。この韓国の高齢化の速度は、日本よりもハイペースです。そして2050年には、韓国では、3人1人が高齢者となります。日本の場合、3人に1人が高齢者になるのは2035年ですから、日本よりも15年遅れということになります。
韓国は、日本よりも儒教的な考えの根強い国です。その影響もあり、高齢者の面倒は、基本的には長男をはじめとした家族が見るという文化があります。実際に、多くの高齢者が、家族の介護をあてにしています。
しかし、韓国でも女性の社会進出が進み、核家族化が進行しています。結果として、儒教的な発想(孝=親への服従)の実行は困難になります。それでも、韓国における高齢化は、待ったなしに進んでいきます。
このため、韓国でも「介護の社会化」の気運が高まっています。2008年には、日本の介護保険制度にあたる、老人長期療養保険制度ができました。ただ、この韓国の制度には、様々な課題が指摘されています。
まず、日本では要介護度が(要支援も含めて)7段階に分かれているところ、韓国では3段階にしか分かれていません。分類される段階が少ないと、要介護者の状況に合わせた、きめ細かな対応ができません。
また韓国の療養保護士(日本のヘルパー資格に相当)で、実際に働いている人は、2010年6月末の段階で、19万人しかいません。これは、資格取得者の約2割にしか満たない数です。資格を取得しても、賃金が安く、割に合わないのです。
韓国の療養保護士も、日本の介護職と同じように、かなり厳しい労働環境です。それにもかかわらず、1カ月の給料は平均で131.7万ウォン(約10万円)にしかなりません。物価の違いもありますから(韓国の物価は日本の50〜80%程度)一概には言えませんが、それでも日本よりも厳しいイメージがあります。
日本がいかにして介護職の待遇を改善していくのか、足りない人数をどう効率化によって補っていくのか、そうしたノウハウが、将来の韓国にも適用されていく可能性が高いのです。
韓国に限らず、アジアはこれから急激に少子高齢化に向かいます。そうしたアジアの国々の中には、日本のノウハウによって助けられるところも出てくるでしょう。日本の介護職は、遠くない将来、アジアにも活躍の舞台を広げていける可能性があるのです。
もちろん、まずは日本の介護がしっかりやれてからの話にはなります。しかし、日本が介護職の待遇改善に失敗した場合は、優秀な介護職から、より高い待遇を保証された形で、グローバルな環境に向かうことになります。
日本の介護現場に積み上がっている介護のノウハウは、いずれは、日本の輸出産業にしていかなくてはなりません。私たちの苦しみは、ただ過ぎ去っていくものではなくて、世界中の人々の役に立つものに昇華されていくものと信じて、日々の介護に向き合っていきましょう。
※参考文献
・石田 路子, 『これからの東アジア諸国における高齢者ケアについて 日本における高齢者ケアシステムの先行事例を参考に』, 城西国際大学研究論文, 2013年
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