閉じる

介護の現場には適応機制(自我防衛機制)があふれている?望ましくない行動を押さえつける前に

適応機制(自我防衛機制)

人間は脳によって考え、脳によって世界を捉える

人間の脳がどのくらいの重さかご存知でしょうか。成人ではだいたい体重の2%程度だと言われています。日本人の男性だと平均体重が70kgぐらいなので、脳はだいたい1400gぐらいでしょうか。ちなみに人間よりもっと体重の重いゴリラの脳はだいたい500gぐらいです。ワニの脳に至っては20gしかありません。この比較だけでも、いかに人間の脳が大きいかが理解できます。

大脳は大きく分けて、大脳辺縁系と大脳新皮質に分かれます。大脳辺縁系は、主に、生物として生きていくため必要な本能や情動を司っています。生きていくための欲求とは、食欲、睡眠欲、性欲です。一般的には、生理的欲求とか3大欲求と呼ばれる欲求です。これは人間のみならず、どんな動物にも発達している部分です。

一方、人間の大脳新皮質は、他の動物に比べて圧倒的に発達しています。大脳新皮質は、判断、理解、推理、想像などを司る部分で、人間の脳の中枢でもあります。いわゆる理性や知性を管理しているところです。「慌てるな」とか「がまんしろ」という具合に、大脳辺縁系の欲求に対してブレーキをかける時に働く部分でもあります。

成長とともに多様化していく欲求

先に述べたように、どんな動物にも生きていくために必要となる本能的な欲求があります。これはどの動物にも生まれながらにして備わっている欲求です。誰に教えられなくても、赤ちゃんは呼吸をし、母親のおっぱいをのみ、眠くなったら睡眠をとります。

このベースの上に、人間には2つの欲求があります。独立した個人としての自分を維持していくための欲求(=自我欲求)と、個人が社会の中で生活していく上で必要な欲求(=社会的欲求)です。

自我欲求は、たとえば「自分にしかできないことを成し遂げたい」といったようなものです。一方、社会的欲求は「社会的に他者から認められることをしたい」といったものです。これらを合わせて心理的欲求と呼びます。これは、人間として生まれた後、成長する過程の中で身につける欲求で、二次的欲求とも呼ばれます。

人間の欲求に関する研究は複数の学派があり、ここで示したものは、そうしたものの中の一つの考え方にすぎません。とはいうものの、人間の欲求は、生まれた直後から備わっているものだけでなく、成長とともに多様化していくという点については、比較的広く合意されているものです。

欲求不満を解消するために起こる適応機制とは?

これらの欲求が全て満たされていれば、人間は穏やかな毎日を送ることが出来ます。しかしながら、社会の一員として生活する中で、全てが思い通りになるようなことはあり得ません。「本当は○○したいけど、できない」といった状況は、日々の生活の中で、間違いなく起こり得ることです。これを欲求不満と呼びます。

欲求不満が続くと、人間の心には怒りとかいらだちが現れます。あるいは不安、悩み、緊張といったような状態にもなり、心は不安定になります。この不安定さを放置しておくと、心は爆発してしまいます。

ですから人間には、こういった緊張状態や不安が起こった時に、無意識にそれを回避し、心の安定を保とうとする働きが備わっています。この働きを適応機制(自我防衛機制)と呼びます。

いくつか例を挙げてみましょう。

たとえば、テストでうまくいかなかった時に「腹痛のせいで集中できなかった」と考えたり「この失敗のおかげで成長できた」などと考えたりするのは「合理化」という適応機制です。もっともらしい理由をつけて、不都合な事実を正当化してしまうことにより、心の安定を図るのです。

サッカー部に所属しているけど、技術的に力がなく、チームに貢献できず苦しい時に「僕には音楽があるさ」といってドラムの練習に励むのは「補償」という適応機制です。自分の弱点や欠点について抱く劣等感を、得意な能力を伸ばすことで補おうとしています。

今まで一人っ子だった子供に、弟や妹が生まれた時も適応機制は起こります。親の愛情を取られてしまったと感じる欲求不満を解消するために、赤ちゃん返りしてしまって、おねしょをし始めたりするのです。これは「退行」という適応機制です。

怒られたり、嫌なことがあったりして、イライラしている時に、他人を傷つけたり、モノを壊したりして欲求不満を解消したりするのも「攻撃」という適応機制です。よくスポーツの試合などで、審判の判定に対して納得できない選手が、物に当たり散らして警告を受けることがありますよね。

このように、人間は様々な適応機制を用いて、心の安定を保とうとしています。他者を傷つけてしまう場合を除き、心が壊れてしまうのを防いでいるならいいような気もしますが、注意すべきなのは、その安定は一時的なものに過ぎないということです。根本的な欲求不満の原因は解消されていないからです。

介護の場面で起きる適応機制にどう向き合うか

介護を受けている高齢者にも、このような適応機制が見られる場合があります。施設での介護であれば、環境の変化だけでもストレスがあります。そもそも加齢による老化により、思うように体が動かないことへのストレスもあります。要介護度が高くなればなおさらです。

なかなか満たされない欲求のために、どうしても攻撃的になってしまったり、ふさぎ込んでコミュニケーションをとれなくなってしまったりもします。逃避や退行といったような適応機制もよく起こります。

本人が意図的にやっている場合は別として、基本的には、適応機制は脳が勝手に起こしているものです。一時的な解消では本当の意味での心の安定は得られませんが、高齢者の欲求不満の根本原因を解決するのは、簡単なことではありません。

まずは、好ましくない高齢者の行動を見つけたとき、それを直接的に力で押さえ込もうとするのではなく、その行動は適応機制かもしれないと1つクッションを置くことからはじめてみてください。

そのクッションが、もしかしたら、高齢者の真の欲求の発見につながり、それが、なんらかの方法で、ほんの少しでも満たせるものであれば、真の意味での介護環境の改善につなげられる可能性もあるからです。

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由