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花を愛でるのは、どうしてだろう?

花を愛でる

お花見のシーズンも終わりに近づいてきました。最近のお花見ブームでは、桜そのものを喜ぶという面もありますが、仲間とワイワイ楽しみたい感じが強いようにも思います。とはいえ、やはり花を愛でるという行為には、我々の心を穏やかにする効果もあるようです。

最初に花を愛でた人々(The First Flower People)

人類がこうして花を愛でるようになった歴史は、学問的には6万年前にまでさかのぼることができます(ということは、実際にはもっと古くからあったということでもあります)。

コロンビア大学のソロッキ博士は、1951年から1960年の間、イラク北東部のトルコ国境に近いシャニダール洞窟において、ネアンデルタール人6体の化石骨格の調査を行いました。

この調査の中で特に注目を集めたのは、骨格の周辺で見つかった大量の花粉です。つまり、この骨格の主たちは、花とともに埋葬されていたのです。死者を手厚く埋葬し、花を手向ける文化を持つネアンデルタール人を、ソレッキ博士は「最初に花を愛でた人々(The First Flower People)」と呼びました。

死者に花を手向ける行為は、人間が古代より花に対して特別な感情を抱いてきたことを指すでしょう。ネアンデルタール人は現代人(ホモ・サピエンス)の直接の祖先ではないとされており、約3万年前に絶滅したと考えられています。しかし最近の学説では、両種間の交雑が認められ、きわめて近い種として再認識されています。

古代から、ヒトに繋がる私たちの祖先は、何が特別で、何が特別ではないかという文化的な価値観を築いてきました。その中で、花に代表される植物は、私たち人類にとって特別なものです。現代にまで残るお花見の文化も、長い歴史を通して、少しずつ積み上げられてきたものなのです。

日本における園芸文化の発展

御神木や鳥居の例を紐解くまでもなく、日本では、古くから「神が依り憑く対象物」として、常緑樹や花木を「立てる」という行為が行われてきました。日本の伝統芸術である生け花の背景にも、こうした「立てる」という行為があるわけです。

桜を愛でる文化としては、平安中期の『枕草子』には、青い瓶に桜の枝を挿して鑑賞したことが記述されています。遅くとも、この頃までには、日本人と桜の関係が成立していたと考えられます。

芸術性の高い絵画や、和歌といった世界で、花に代表される植物がモチーフとなっていきます。さらに、食器や家具といった日用品においても、植物はデザインの中心として配置されてきました。和服(着物)のデザインとしても、室町時代の「辻ヶ花(つじがはな)」に代表されるように、花は大活躍をします。

そして、都市の発展にともなって、切り花や鉢植えを購入し、屋内を彩るという行為が、一般の家庭にも普及していきます。「ガーデニングブーム」や、個人の庭を一般に公開する「オープンガーデン」といったムーブメントを経て、日本において植物を愛でるという文化は、より広く堅固なものになりました。

近年では、ビルの外壁に、意図的に植物を配置するような建築も増えてきています。未来の都市デザインも、SFの世界に出てくるような無機質なものではなく、きっと、春夏秋冬、植物とともにあるようなものになっていくでしょう。

園芸療法の効果とは?

植物との関わりを、なんらかの疾患を抱えている人の治療に活かすという発想を特に「園芸療法」と言います。治療分野やリハビリテーション、職業訓練等で活用されてきました。

私たちが植物と触れ合う場合には、観賞するといった受動的な関わりと、土を耕し、種を植え、水を与えるといった能動的な関わりがあります。

まず、植物は見ているだけでも、情緒を安定させ、穏やかにし、疲労を回復させるといった効果を発揮します。この変化は、血圧を下げたり、筋肉を弛緩させたり、心拍数を減少させるといったリラックス効果です。

また、自ら植物を育てるという能動的な関わりには、リラックス効果以上の意味があります。植物は生き物であり、一定の速さを超えて成長することはありません。ですから植物を育てる場合、種をまいて、ゆっくり水をやりながら、芽が出てくる日を待つことになります。

そして芽が出れば、鉢を変え、毎日じっくり手間をかけ、花が咲く日を待ちわびるのです。そして花が咲いた時、あるいは実をつけたときの感動は、自らが積極的に関わった分、大きいものとなります。この達成感や満足感は、人間が健康に暮らしていく上で、とても大切なポイントになります。

園芸という行為は、コミュニケーションの活性化にもつながっています。庭先で植物を育て、毎日水をやっていると、家族とはもちろん、通りかかった人々とも会話のきっかけになります。花が咲くのを心待ちにする仲間ができると、良好な人間関係の構築も期待できるでしょう。

もちろん、土を耕したり、水をやったり、一つ一つの動きは身体機能を維持させることにもつながります。なかなか運動する機会がない高齢者でも、植物を育てるという行為にともなう自然な運動であれば、続けやすいでしょう。

介護の文脈においても、園芸療法は注目されています。植物との関わりが、認知症の周辺症状の軽減や、脳梗塞の後遺症による高次機能障害の改善につながったという報告も多数あります。介護に悩んでいたら、ちょっとした園芸を始めてみることも、考えてみてください。思わぬよい効果を実感できるかもしれません。

※参考文献
・土橋 豊, 『暮らしの彩りとしての園芸文化』, 農業および園芸, 第88巻, 第1号(2013年)
・吉本 雅彦, 『メンタルヘルスに役立つ園芸療法の実践プログラムについて』, J. Natl. Inst. Public Health, 49(2000年)

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