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介護職の人材不足が、日本の格差社会をさらに進めてしまう

介護職の人材不足が日本の格差社会を進める

介護職は全国で80万人も足りなくなる

現在、介護業界の現場を担う介護職は、約180万人います。これが、2025年までに約80万人足りなくなるという予測が出されています。特に不足しているのは、自宅に来て介護をしてくれる、在宅介護を支えるヘルパー(訪問介護員)です。

実際に介護をしていればわかることですが、介護施設は、安くて安心なところはどこも満室です。特に、公的な介護施設(自治体や福祉法人が運営している)である特別養護老人ホーム(特養)は、公式には50万人以上が待ちの状態で、現実には100万人規模で待っていると言われます。

そうなると、ほとんどの人は、在宅介護を選択しなければならないのです。しかし、そこに、圧倒的な介護職の人材不足が重なってきます。さらに現在の介護職は高齢化してきており、この退職も重なると考えられています。そうなると、どういうことが発生するでしょうか。

経済原理で考えれば当たり前のことですが、介護職の取り合いが発生していきます。すると、介護保険の適用外であっても、優秀な介護職を雇えるお金持ちが、他の人よりも高い報酬を提示して、介護職はそこに集まるようにもなります。

するとますます、普通の人のところには、在宅介護のためのヘルパーが来なくなってしまいます。これは、介護施設でも同じことです。より大きな待遇を提示できる介護施設のところに人材が集中するようになるので、結果として、安くて安心な介護施設というものは、なくなっていくでしょう。

介護職の人材不足が、日本の格差社会をさらに進めてしまう

自宅に来てくれるヘルパーがいない、介護施設にも入れない(民間の介護施設は現在でも平均で月額25万円程度)となると、もはや、自分で全ての介護を行うしかありません。

もしかしたら、親の介護が必要になったら、妻に介護を任せようと思っている男性もいるかもしれませんが、これは無理です。今は昔とは違い、兄弟姉妹が少ない時代であり、また、妻も仕事をしていることが多いのです。そして妻にも両親があり、そちらの介護もあります。

現代という時代の特徴は、仕事をしながら、主たる介護者として親の介護をしなければならない人が対多数になるというところにあります。本来は、そうした事態に備えるために、私たちは、40歳のときから介護保険を支払って来たのです(その自覚がない人も多いのですが)。

しかし、このまま行けば、在宅介護には、ヘルパーが確保できない時代がやってきます。そこには経済原理が働き、保険適用外であってもヘルパーを雇えるお金持ちだけが、仕事と介護の両立ができるという状況が生まれてしまいます。

結果として、お金持ちだけが、さらに充実した仕事を進められるようになります。逆に、一般の人は、ヘルパーも雇えない状態になるので、仕事を続けられるにしても、非正規やパートに近い仕事しかできなくなって行きます。

これが、日本の格差社会をさらに進めてしまいます。介護ロボットなども、これからどんどん出てくるでしょうが、当然、安くありません。結局、ベストセラー『21世紀の資本』でトマ・ピケティーが指摘した「金持ちは、ますます富む」という世界が維持・拡大されてしまうのです。

できることはないのだろうか?

介護職の人材不足は、色々と言われますが、結局のところ待遇の悪さが原因です。普通に考えても、夜勤があり、家族でさえ匙を投げるような状態にある要介護者の面倒を見るという仕事が、手取りで20万円を切るようなところに、人は集まりません。

それでも、現在、介護職として頑張ってくれている人々は、ほとんど「聖人」です。しかし、あと10年にも満たない期間で、追加で80万人もの「聖人」を探し出すのは不可能です。

現在の、大学生の就職先人気で第1位となるのは地方公務員です。理由は簡単で、安定していて待遇が良く、やりがいもあるからです。地方公務員は、介護職の年収と比べると、だいたい2倍くらいになります。選択できるなら、普通は、2倍のほうを選びます。

ここまで述べてきたように、医療や介護に経済原理が働いてしまうと、結果としてお金持ちしか助からないという状況が生まれてしまいます。これを避けるために、デンマークなどでは、医療や介護に従事する人々は(ほとんどが)公務員なのです。

これにならって、日本の介護職も公務員としてしまえば、問題はかなりの部分、解決します。公務員は人気の職種ですし、人材の確保にも(今ほどには)苦労しません。なによりも、公務員は、相手の貧富によって、その対応を変えません。

しかし経済原理が働く世界では、顧客の貧富によって対応を変えるのは当然のことなのです。経済原理の全てが悪いというのではなく、むしろ戦後日本の成長を支えたのは、この経済原理でした。とはいえ、それは、社会福祉には馴染まないものなのです。

※参考文献
・厚生労働省, 『介護人材の確保について』(参考資料3), 2015年2月23日

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