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介護職が、介護業界から離れていくケースが増えています。また、2025年までに追加で80万人の介護職が必要(2025年問題)と言われていますが、この確保が思うように進んでいないという報道も目にします。
こうした背景を受けて、なんとかこの問題を解決しようと、多くの人々が介護業界を研究しています。そうした流れの中で、時に「ストレスが大きいことが問題」という意見に出会うことがあります。
これはこれで、間違いとは言えません。しかし、問題もあります。なぜなら、これを介護職が確保できない真の理由とされてしまうと「では、ストレスを減らそう!」ということが、課題解決になってしまうからです。
ストレスを減らすということで、深呼吸でもしておけば、介護職が確保できるというのでしょうか。さすがに、それはないでしょう。また、ストレスが大きい職種というのは、介護職以外にも、少なからず存在しています。それでも、介護業界ほどには人手不足になっていない点も気になります。
たとえば、医師のストレスも相当高いことは、広く知られています。それでも、免許をもった医師が、医療業界を離れつつあるという話は聞きません。また、医師になりたい人がいないということも、聞いたことがありません(とはいえ、医師も不足していますが)。
こうした浅い分析では、トヨタであれば、確実に叱られてしまいます。トヨタでは、新人のころから、なにか問題が発生したら、そこで「5回のなぜ」を問うことが徹底されているからです。もう少し、詳しく考えてみます。
トヨタにおいて大切な態度とされるは、問題の原因には「要因(表面に露出している原因)」と「真因(問題を生み出している真の原因)」があると認識することです。これは、トヨタ生産方式の生みの親とされる大野耐一氏(元副社長)が編み出した手法と言われています。
表面的に問題の原因に見えるものは、実は、病気で言えば「症状」にすぎません。たとえば「頭痛がひどい」というとき「では頭痛薬を」という対応は、さすがにまずいわけです。頭痛の本当の原因は、もっと深いところにあると疑って、検査を繰り返し、病気の「真因」を見つけようとするのが、訓練を受けた医師です。
人間は、どうしても、表面的に問題の原因に見えることにとらわれてしまいます。トヨタは、これを嫌って、問題が発生したら訓練を受けた医師のごとく「5回のなぜ」を実行することを決まりとしてきたのです。
これはあくまでも例ですが、たとえば「頭痛がひどい」→「1. なぜ?」→「睡眠時間が短いから」→「2. なぜ?」→「時間があってもうまく眠れないから」→「3. なぜ?」→「検査の結果;慢性神経障害(脳の睡眠制御の異常)」→「4. なぜ?」→「オレキシンの欠乏」→「5. なぜ?」→「オレキシン神経に損傷があるから(神経伝達障害)」という具合です。
これを、頭痛薬で済まされてしまっては、どうしてもまずいことになります。このケースでは、頭痛の「真因」は「オレキシン神経の損傷」にあるわけです。であれば「オレキシン神経を復活させる」ことが、真の課題解決でしょう。こうした、真の課題解決に向けて「5回のなぜ」を問うことを、別名「なぜなぜ5回」と言います。
仮説(1)としては「介護職が確保できない」→「1. なぜ?」→「ストレスが大きいから」→「2. なぜ?」→「少ない人数で多くの仕事をこなす必要があるから」→「3. なぜ?」→「手取り20万円にも満たない仕事に人が集まらないから(ムリ)」→「4. なぜ?」→「今の介護保険制度では高い賃金が支払えないから」→「5. なぜ?」→「必要になる介護職の人数に対して、国が割り当てる財源が足りないから」というイメージです。
仮説(2)としては「介護職が確保できない」→「1. なぜ?」→「ストレスが大きいから」→「2. なぜ?」→「少ない人数で多くの仕事をこなす必要があるから」→「3. なぜ?」→「要介護者(利用者)に向き合うこと以外の無駄な仕事が多いから(ムダ)」→「4. なぜ?」→「今の介護保険制度では介護事業者が事務員を別に雇うだけの予算を確保できないから」→「5. なぜ?」→「必要になる人員のために、国が割り当てる財源が足りないから」というイメージです。
仮説(3)としては「介護職が確保できない」→「1. なぜ?」→「ストレスが大きいから」→「2. なぜ?」→「少ない人数で多くの仕事をこなす必要があるから」→「3. なぜ?」→「介護ロボットやITによる自動化が進んでいないから(ムラ)」→「4. なぜ?」→「今の介護保険制度では介護事業者がそうした予算を確保できないから」→「5. なぜ?」→「必要になる設備投資のために、国が割り当てる財源が足りないから」というイメージです。
当然、他にもいろいろな仮説が成立すると思います。しかし、その「真因」となる部分については「国が介護に割り当てる財源が足りないため、報酬を含めて、介護職の働く環境が劣悪だから(ムリ・ムダ・ムラ)」というあたりで、ほぼ間違いないと思います。
こうした話をすると「介護職のアンケート結果では、賃金への不満は多くない」といった反論を受けることがあります。しかし、マーケティング的な視点から考えれば、介護職を増やしたいのならば、現役の介護職ではなくて、まだ介護職になっていない人のアンケート調査もみる必要があります。
今のような待遇でも、文句を言わずにイキイキと働いてくれる介護職は「聖人」といってよい人々です。なるほど「聖人」を対象としたアンケート結果では、お金は重要ではないかもしれません。しかし、劣悪な職場環境であっても理想のために頑張れるような「聖人」しか働けない業界では、普通は、10年以内に80万人規模の人材の確保はできません。
PRESIDENT誌が行った「働きがいのある会社」アンケートの結果(2010年5月3日号)によれば、日本人の「働く動機」の第1位(54%)が「給与」なのです。大多数の人にとっては、仕事の内容も大事ですが、まずは「給与」がしっかりとあっての話です。
よく知られているとおり、介護職の年収は、全産業の平均年収よりも100万円以上も安いのです。年収で300万円程度、毎月の手取りは20万円を下回るという人も多数います。
この事実から離れて、他の「要因」にすぎないところで頑張っても、結果はついてきません。介護職は、今の待遇では、自分が勤務している介護施設に入居することはできません(民間の介護施設の入居費は月平均で25万円程度なので)。そんな残酷な環境が、ストレスを生み出すのは当然でしょう。しかし、そのストレスは、あくまでも「症状」であって「真因」ではないのです。
この課題解決には、介護に分配する国の財源を増やす以外にありません。これができなければ、日本の介護は行きづまり、多くの人が必要な介護サービスを受けられなくなり、介護離職は増え続け、結果としてさらに国の財源は無くなっていきます。本当に、待ったなしの状態です。
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