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気持ちに余裕がない場合は、この記事は読まないでください。「看取り」に関する内容になります。
ビデオゲームWebメディアのAUTOMATONによる記事(2015年11月30日)が、とても興味深かったです。なんと、主人公がだんだん弱くなっていくRPGが開発されているというのです。以下、この記事を引用します(太字はKAIGO LAB)。
開発者のKyle Ballentine氏によれば、『To Ash』の主人公「ディミトリ(Dimitri)」は、ゲーム序盤からすでに強力なステータスと様々なスキルを有している勇猛な戦士だという。しかしディミトリは死期が迫りつつある老齢の人物でもあり、彼はゲームの進行と共に年を取ってスキルを失い、徐々に”弱体化”していく。(中略)
海外メディアPolygonの取材やトレイラーによれば、Ballentine氏は生粋のゲーム開発者ではなく、心療内科で働くセラピストであるそうだ。(中略)本作『To Ash』は死を間近にした人の心情を描く作品であり、Ballentine氏は人生の目的や余生について考えるのは誰にとっても重要だと伝えている。「正しい選択なんて無い。でも死の恐怖に脅かされず生きていけるのなら、より現実にとどまることができる」。
徐々に弱りゆくディミトリは敵と戦うために”他人の助け”を借りなければならない。限られた時間のなかでプレイヤーはフィールド上を探索し、一緒に戦ってくれる数少ない仲間を見つけなければならないという。このデザインは、他人の助け無しには生きていけない老後の人生を映しだしているようにも思える。
私たちは、子供であれば、自分の子供時代の経験から、それがどのようなものであるか理解できます。しかし、高齢者は、自分は経験したことがないので、その心理を理解することが極端に難しいのです。
KAIGO LABでも過去に記事『高齢者は、戦っている。私たちは、その恐怖を知らない。』としてまとめていますが、高齢者は、昨日まで自分でできていたことが、できなくなるという経験をしています。日々、自分が衰えていくことを実感することは、自分が死にゆくプロセスに入っていることを知ることと同じです。
開発者であるセラピストは、これをゲームとして表現することで、高齢者を経験したことがない現役世代にも、高齢者の戦いを理解してもらおうとしているのです。とてもユニークで、意義深いアプローチだと思います。次の動画は、開発者がゲームの解説つきで公開しているものです。英語なので、解説部分については、下に日本語訳(意訳)を掲載します。
・『To Ash(灰への道)』は、自らの死にゆく運命と、その受容をテーマとしたRPGです。
・(主人公の)ディミトリは、はじめから、力強いヒーローとして冒険を開始します。
・ヒーローは、はじめから多数のスキルを持っているので、はじめの戦闘は複雑です。
・冒険は困難を伴いますが、ディミトリは、ただ歳を取り、弱くなっていくばかりです。
・よく考えて、仲間との協力関係により、ゲームを進めなければなりません。
・死の受容についての物語だけを進めたい人のために、ゲームには2つのモードがあります。
・一つは、戦闘を含めたゲーム性の高いモードです。
・もう一つは、戦闘を含まない、物語とパズルだけで構成されているモードです。
・この死と様々な喪失に関するRPGは、現役のセラピストにより制作されています。
・あなたの選択が大事です。あなたは死を受容しますか?それとも、自然の摂理に反抗しますか?
とても意義深いゲームだと思います。しかしこれは、海外で開発されつつあるゲームの話です。特に、死の受容には、スピリチュアルな部分もありますし、文化的な違いも大きいと思います。
そうなると、期待したいのは、日本のゲームメーカーによる、日本の文化に適合した、死の受容に関するゲームです。物語も、日本向けにアレンジする必要があると思います。
RPGらしく、剣と魔法、ドラゴンと財宝といったテーマでのゲームもよいと思います。もしかしたら、主人公ははじめ、会社の重役からはじまり、定年し、第二の人生を謳歌しようとしていたのに、徐々に心身が弱っていくといったリアリティーの高いものもよいかもしれません。
この開発には、サナトロジー(死学)に関する知見が必要です。場合によっては、セラピスト、療法士や学者からのイニシアチブで、開発に臨む必要もあるかもしれません。該当する人は、ぜひ、検討してみてください。
※参考文献
・AUTOMATON, 『レベルが上がるのではなく”年を取りレベルが下がっていく”老後RPG『To Ash』が開発中、「死」を受け入れるか?それとも恐怖するか?』, 2015年11月30日
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