閉じる

介護施設のホスピス化、ホスピスの介護施設化、そして社会のホスピス化

介護施設のホスピス化、ホスピスの介護施設化、そして社会のホスピス化気持ちに余裕がない場合は、この記事は読まないでください。「看取り」に関する内容になります。

介護施設からの退所、その約8割が死亡による

介護施設からの退所は、その約8割が死亡によるという調査研究(1,730施設における過去1年間の結果)があります。介護施設は、多くの人にとって終の住処になっているということです。そうなると、介護施設においては、職員が、終末期対応(ターミナルケア)を学ぶのは、自然な流れです。

逆に、終末期対応を専門とするホスピスは、日本全国で213施設/4,230床(2011年4月1日時点)あります。本来のホスピスは、おもに末期ガン患者と、後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症している患者を対象としたものでした。ただ、終末期には介護も必要になるため、ホスピスにも介護の専門性が浸透しています。

そもそも、日本におけるガンの死亡者数は、年間で約37万人(2016年)にもなります。それに対して、ホスピスの数はまったく足りていません。そうなると、終末期の現実は、ホスピスではないところで起こっていると考えて間違いないでしょう。

ここで、介護施設とホスピスを分けて考える必要性に疑問が出てきます。もちろん、同じ苦痛を持った人同士が、お互いに支え合うピア・カウンセリング(peer counseling)という意味では、苦痛の内容によって、適切な場を考えなければならないのは当然です。ただ、それがホスピスであるべきなのかはわかりません。

終末期は介護施設でもホスピスでもないところで起こる

介護施設に入所しているのは、要介護者の約15%程度にすぎません。そうなると、日本における死亡の多くは、介護施設でもホスピスでもないところで起こっていることになります。現実には、多くの人が、自宅で死にたいと願っても、病院で亡くなっているのです。

たとえば、ここにある商社があったとします。そこに海外部という部署が設置されていると、どのようなことが起こるか、考えてみてください。この商社における海外案件は、すべて海外部に任されます。そのかわり、他の部署では海外が視野に入らなくなります。

商社にとって海外との取引は非常に大事です。だからといって、海外部を作ってしまうと、かえって、商社全体としては、海外から離れてしまうことにもなりかねません。これと同じことが、ホスピスという専門性の集約によって起こっているとは言えないでしょうか。

誰もがホスピス的な考え方を学ぶ必要のある社会へ

日本の高齢化は、別の角度からみれば、死が多数でてくる多死社会の出現を意味しています。そうした環境において、終末期をホスピスにだけ丸投げしていくことはできないでしょう。ちょうど、海外取引量が増えてきた商社が、海外部だけを大きくしていくことはできないことに似ています。

そうしたとき、商社であれば、海外部の人材に海外取引を学び、海外部を発展的に解消していくことになります。これと同じように、ホスピス的なものは、医療従事者を超えて、日本に暮らすすべての人が学ぶべきものになってきているわけです。

特に、今後は在宅での看取りが増えていくと予想されています。そうしたとき、周囲に、終末期の専門家がいるという状況は期待できません。であれば、医療従事者以外の人であっても、適切な終末期のケアができることが求められます。その教育と法的な仕組みの整備が、いまほど求められている時代もありません。

※参考文献
・DIAMOND, 『高齢者施設がホスピス化し、ホスピスが認知症ケアを始めた英国の事情』, 2018年9月26日
・株本 千鶴, 『終末期医療の現在』, 季刊家計経済研究, 2004 SPRING No.62

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由