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気持ちに余裕がない場合は、この記事は読まないでください。「看取り」に関する内容になります。
終末期における医療は、非常に難しい問題です。そもそも、患者側からしても、理想的な終末期における医療とはいかなるものなのかがわかりにくいことも要因の一つでしょう。とくに、患者本人の意思が確認できないような状況における医療とは、どうあるべきなのでしょうか。
医療には、患者を機械として扱いすぎる可能性があります。とくに終末期においては、多くの医療関係者でさえ疑問を感じるような延命治療がなされてしまうこともあります。では、患者の人間性に注目する医療とはどのようなものなのでしょう。
医師の世界では、終末期における医療に対して、臨床倫理の4分割法(ジョンセンの4分割法)というものが知られています。これは、監訳を行った東京大学医学部の赤林朗先生や、発信と啓蒙を行った佐賀大学医学部臨床教授であった白浜雅司先生(2008年死去)らによる功績です。
なお、2008年で更新が止まってしまった白浜先生のホームページには、今もアクセスが続いています。2008年のワークショップで使われた資料(PDF)も参考になりますので、ここにリンクを残しておこうと思います。臨床倫理についてより正確に深く知りたい人は、これらを参照するようにしてください。
1960年代のアメリカで起こった人権運動の中には「患者の人権」という文脈もありました。その中で、医学の進歩と患者の幸福の相関性に疑問が投げかけられたのです。医師が患者の生死を決めてよいのか、大きな議論となりました。
こうした議論には、倫理や哲学といった分野の専門家が入ってきました。それはそれで大切なことでしたが、医療の現場にある人々にとっては、それらは実用的とは言えないものだったようです。そこで、医療の現場で使える臨床倫理を、ワシントン州立大学のアルバート・ジョンセン(Albert Jonsen)教授らがまとめ、出版しています。ここに、臨床倫理の4分割法が登場します。
臨床倫理の4分割法とは、ある症例(とくに生死に関わる判断の難しいもの)を検討するためのフレームワークです。一般には、4分割の表にあるそれぞれのテーマについて情報を収集し、議論するために用いられているようです。以下、この表を示します(白浜先生のホームページより)。
1.診断と予後 2.治療目標の確認 3.医学の効用とリスク 4.無益性(futility) |
1.患者さんの判断能力 2.インフォームドコンセント 3.治療の拒否 4.事前の意思表示(リビング・ウィル) 5.代理決定 |
1.QOLの定義と評価 (身体、心理、社会的側面から) 2.誰がどのような基準で決めるか ・偏見の危険 ・何が患者にとって最善か 3.QOLに影響を及ぼす因子 |
1.家族など他者の利益 2.守秘義務 3.経済的側面、公共の利益 4.施設の方針、診療形態、研究教育 5.法律、慣習 6.宗教 7.その他 |
このフレームワークは理想ではあるものの、日本の医療の現場は、実際にこれだけの情報を集めて検討するような状態にはありません。例外的にこれができているクリニックなどもあるとは思いますが、介護の現場で見聞きするケースを思い起こすと、ここまで検討されているケースは少ないと感じます。
KAIGO LAB でもなんども取り上げてきたとおり、医師をはじめとした医療関係者の職場環境は激務です。たとえば医師の3割までもが、過労死ラインを超えて長時間労働を強いられています。そうした状況にある医療関係者にだけ、このフレームワークが課せられるのは、現実的に無理のあることでしょう。
だからこそ、とくに終末期においては、患者自身はもちろん、介護職や家族としても、このフレームワークを意識してみる必要があるでしょう。あるべき医療についてみんなで考え、医療関係者にだけ難しい決断を丸投げするようなことは避けていかないとなりません。臨床倫理の4分割法は、そうしたときの共通言語になっていくべきだと思います。
※参考文献
・白浜 雅司, 『臨床倫理の考え方』, ホームページ
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