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気持ちに余裕がない場合は、この記事は読まないでください。「看取り」に関する内容になります。
我々の生活は、ストレスであふれています。自分の一日を振り返ってみてください。朝起きてから、眠りにつくまで、何のストレスも感じず、穏やかに一日が過ぎていったという人は、ほとんどいないでしょう。
台風で雨の多い時期に入り、ジメジメと蒸し暑い季節が続いています。こうした自然環境からのストレスは、皆に平等にふりかかるものです。ですから、程度にもよりますが、あきらめもつきます。天気の事例のように「あきらめられる」ストレスは、それほど大きな問題にはなりません。「なんで夏はこんなに暑いんだ!」と怒っても仕方ないからでしょう。
ということは、私たちを苦しめるのは「あきらめられない」ストレスということになります。そしてその代表的なものが、自らの人生そのものを「あきらめられない」という終末期におけるストレスでしょう。
ストレスに正面からチャレンジすることで、その後の成長がもたらされることを示した格言は多数あります。実際に、大きなストレスをともなう困難こそ、人間の成長のドライバーであるという考え方は、教育学的にも多くの証拠が積み上がっている事実です。
たとえば「火中の栗を拾う」という言葉があります。痛みがあることを覚悟の上で、あえて困難に立ち向かうことです。「攻撃は最大の防御なり」という言葉も、これににています。
また困難をポジティブに評価することを「雨降って地かたまる」とも表現します。一度はストレスになったことも、長い目で見ればプラスに働くと捉える表現です。同じように、失敗しても耐えて頑張ることを「失敗は成功のもと」と言います。失敗の積み重ねこそが、成功への道であるという典型的なプラス思考です。
他にも、色々と思いを巡らせて悩むのではなく、まず動くことでストレスを回避することを「案ずるより産むが易し」と言います。実際に動いてみたら、あっさり解決したというのはよくあることです。
このように、人生につきものの様々な困難を、ポジティブに乗り越えようとする心理を研究する学問分野に、ポジティブ心理学というものがあります。そして、終末期にも、このポジティブ心理学の知見を活かそうとする動きがはじまりつつあります。
心をポジティブな方向に向けていると、脳内でβエンドルフィンという物質が出ることがわかっています。このβエンドルフィンには、様々なストレスを和らげる効果があり、鎮痛作用は、モルヒネの数倍あると言われている物質です。しかも、モルヒネとは異なり、副作用はありません。
心を無理にポジティブに向けなくても、βエンドルフィンを生み出す簡単な方法があります。それは、軽めの運動をして、その後にぬるめのお風呂に入ることです。終末期に限らず、落ち込んだときには、思い出してもらいたい方法です。
精神分析学の考え方では、この入浴という行為は、一種の「健康的な退行」であるそうです(退行とは適応機制の1つで、ストレスを回避するために、未熟な行動を無意識にとることです)。入浴は、母親の胎内で守られて、安らかに誕生を待っていたときの安定した状態を思い起こさせるのではないかとも言われています。
終末期をめぐる問題には正解がありません。しかし、これから増えていく終末期ケアについて、ポジティブ心理学によるストレスの解消という側面からも考えをめぐらせてみる必要はあると思われます。
※参考文献
・会田 薫子, 『認知症の終末期医療とケア~胃ろうで生きるということを考える~』, 平成25年度第1回和歌山県認知症疾患医療センター研修会, 2013年8月
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