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【書評66】『認知症の人の歴史を学びませんか』宮崎和加子著, 中央法規

認知症の人の歴史を学びませんか
Amazon: 認知症の人の歴史を学びませんか

認知症に関するイメージは、現在でも、決してポジティブなものではありません。しかし、認知症のケアは、介護現場を守ってきた多くの人々によって確実に進歩してきました。これからも、その歩みは少しずつではあっても、介護現場や家族の力によって、進歩していきます。

本書では、日本の認知症ケアが「どこからきて、どこへいくのか」が述べられています。本書はまず、私たちがどのように認知症ケアと関わっていくべきなのかを考えるときの指針となるものです。介護業界で働くプロはもちろん、認知症ケアを行う家族であっても、一度は手にとっておきたい本です。

また本書の著者は、本書の最後に「歴史を知らぬものは、未来を語れない」と、強い言葉で、認知症の歴史を学ぶ大切さを訴えています。ただ未来を見るのではなく、壮絶な歴史を踏まえた上で、自らの役割についてじっくりと考える必要性を痛感させられます。

認知症に限らず、介護の現場では「どうして、こんなことが許されるのか」と怒りたくなることがたくさんあると思います。しかし、そうした現在の状況は、過去よりもずっと良いのです。この背景には、現場で感じる怒りをそのままにせず、たゆまぬ改善に努めてきた多くの先人の努力があります。

本書には、ショッキングな写真も多数掲載されています。ただ、そうした写真が示している過去においては、それが当たり前だったのです。これらの写真を見てショックを受けるのは、やはり、先人が自分たちの怒りをそのままにしてこなかったからでしょう。

私が看護師になった三十数年前は、認知症の人は悲惨ともいえる状況に置かれていました。部屋に鍵をかけられ、座敷牢などというような場所に閉じ込められていました。あるいは手足を縛られたり、強い薬を飲まされぐったりとしていました。人間ではなくなったような目で見られ、非人間的な扱いを受けていました。私はこのような現実を目の当たりにして、悲しい思い、悔しい思い、やるせない思いをたくさんしてきました。しかし当時は、それが「当たり前」とされていたのです。

今、介護の現場にいる人々が、このバトンを受け継ぎ、状況を改善していけないと、また、より悲惨な時代に逆戻りしてしまうという危機感も得られます。財源不足を抱えているこれからの介護業界を考えるとき、そんな逆戻りも、十分にあり得ることだと思います。

現在の介護が改善するにせよ、悪化するにせよ、将来のどこかの時点で、自分に介護が必要になれば、その結果は自分で体験することになります。その結果は、ただ怒っているだけでは、良い方向には行かないことを本書は教えてくれます。

自らの怒りを共有できる仲間を見つけ、そうした仲間とともに、少しずつでも現場を改善していく必要があります。認知症の人の歴史が教えてくれるのは、少しずつではあっても、この社会は良い方向に変えていけるという希望です。

日々、介護をしていると、どうしても、変わらない現実に絶望としか言えない感情を抱くことがあると思います。しかし、本書が示してくれる長期的な視点からは、変わらないように見える現実は、そうした絶望と向き合ってきた人々が変えていくものなのです。

本書は、どうしても自分の気持ちがおさまらないとき、是非とも手に取りたい本です。KAIGO LAB編集部とコンタクトのある介護職は、ほとんどが本書を読んでおり、推薦しています。少し高いので、図書館などで読んでも良いですが、可能なら手元に置いておきたい本です。

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