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【書評63】『マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル』西田公昭著, ディスカヴァー・トゥエンティワン

マンガでわかる!高齢者詐欺対策マニュアル
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高齢者をターゲットにした詐欺事件が後を絶ちません。被害総額は「オレオレ詐欺」という言葉が話題になり始めた2003年に約43億円、それが2015年には500億円を超えるまでになっているといいます。しかもそれは事件として表沙汰になったケースだけの被害額です。

比較的被害額の少ない10万円や20万円、たとえ100万円や200万円といった金額でも、「嫌なことは忘れたい」「だまされたと知られたら恥ずかしい」という心理がはたらき、「泣き寝入り」する人をが多いからです。(中略)

プライドがズタズタに傷ついたうえに、家族から責められ、心身ともに追い詰められてうつになったり、最悪の場合、自殺してしまうこともあります。そうなると、今度は残された遺族が「どうして責めてしまったのだろう」と苦しむことになります。(p4)

著者は、カルト宗教のマインドコントロール研究、詐欺・悪徳商法の心理学研究で知られている人で、本書の他にもマインドコントロールや悪徳商法に関する著書があります。本書では、具体的な例を挙げて、詐欺の手口とだまされる側の心理を解き明かしています。また、図解やマンガが効果的に使われていて読みやすく工夫されています。

高齢者に詐欺への注意を呼びかけるために警察が寸劇でPRしたり、NHKでスポット番組「私はだまされない」が放映されたりしています。そのほとんどは、こんな例があったので気をつけてくださいというものです。どのような手口があるのか知るのは大事なことです。それに加えて、本書は、だまされる人の心の動き、だます側がそれをどう利用するかを軸に書かれています。本書によって、誰もがだまされる可能性があることに気づかされるはずです。

まずp10のチャートで、自分が引っかかりやすい詐欺の手口を知ることができます。タイプAからFに分けられ、それぞれのタイプの心理的な弱点がどこにあるのかが詳しく解説されています。これは、年齢にかかわらず役立つ情報でしょう。

第1章では、「なぜ人はカンタンにだまされてしまうのか?」かが書かれています。ここでは、KAIGO LABでも指摘してきた正常性バイアスという心理学上の概念を用いて、丁寧な解説がなされています。同じ心の動きで、ニセ電話に対しても「自分が息子の声を間違うはずはない」と思ってしまうというわけです。

第2章 では、さまざまなだましのテクニックについて、第3章は、疑わしい話に、どう対処するか、第4章は、悪徳商法から身を守る方法です。各章の冒頭には具体例がマンガで描かれ、随所にワンポイントアドバイスがあります。とてもわかりやすく、自分だけが安全というのは間違いであることがよく理解できるように工夫されています。

人は「社会は安全で、多くの人はいい人である」と信じたがる生きものです。あなたもそうではないでしょうか?犯人グループはそこをついてきます。(p33)

だます側は徹底的に親切な態度で仕掛けてきます。それは単なる善意ではなく、相手が得をしたいからであることを認識しておくことです。(p41)

第5章は、被害にあったときの対処法です。まず、警察に相談することを「大げさ」とは考えないことが大事です。その上で「警察相談専用電話♯9110」と、全国の警察署の相談窓口一覧を載せています。誰でも警察になんて…と尻込みしがちです。とくに高齢者にはその傾向が強いからこそ強調したい呼びかけです。

周囲の人も被害にあった人を責める前に、警察に相談することを勧めたいものです。ときには本人に代わって相談することも必要です。他にも、振り込んでしまったお金を取りもどす方法、クーリングオフの利用法などについて書かれています。

ある程度知っているつもりでも、クーリング・オフができるものと、その期間の図(p150)を見ると、対象になることが多岐にわたることに驚かされます。不当な代金を支払わされたと思ったらためらわずに消費者ホットラインに相談すること、それが、悪徳業者の活動を抑止することにもなるはずです。消費者ホットライン「188(いやや)」の利用法についても、図で説明がなされています(p158)。

本書はタイトル通り、高齢者向けに読みやすく工夫され、実例も高齢者に多いケースが取り上げています。しかし、内容は年齢にかかわらず参考になるものです。もちろん、まずは高齢者に読んでもらいたいですが、家族で回し読みするのがもっとも効果的でしょう。介護職の方、医療関係の方からも、ひとり暮らしの高齢者との何気ない会話の中で伝えていただきたい情報です。

最後に、編集部やその周辺の人の経験ですが、家庭の固定電話にかかってくるのは、ほとんどセールスです。中には詐欺まがいの強引な売り込みもあります。ただ、そうした中にまぎれて、詐欺の電話もかかってきています。

つい数日前にも、受話器を取ったとたんに若い男の声で「あのさ、通知かハガキ来てると思うんだけど」と言われ「どちらにおかけですか?」と応えたらすぐに切れたという話を聞きました。下手な俳優より自然な話し方で、本当に間違い電話かと思ったそうです。もし家族に男の子がいたり、実際に気になるハガキが来ていたりしたら詐欺に引っかかったかもしれません。

現在、個人の家で固定電話を主に使っているのはほとんど高齢者だと思われます。留守電にするだけで、かなりのリスク回避になります。知人なら大事な用件はメッセージに残すはずです。電話をかけてきそうな親しい人には「名前を残してもらえば折り返し電話する」とあらかじめ伝えておくとよいでしょう。

また、友人知人との会話の中で詐欺被害の話題が出ると、被害にあいそうになった、引っかかったという人が珍しくありません。その手口や売りつけるものは驚くほどさまざまです。経験者が積極的に自分の体験を話すことも被害拡大を防ぐことになりそうです。

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