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【書評58】『親の介護で自滅しない選択』太田差惠子著, 日本経済新聞出版社

親の介護で自滅しない選択
Amazon: 親の介護で自滅しない選択

親の介護をする子供たちに向けた実用書です。親との関わりかた、施設の選択、介護離職の避けかた、遠距離介護のありかたなど介護全般に関わる問題を網羅しています。親の介護をしている人、いずれしなくてはならないと思っている人の疑問を7章52項目に分けて挙げ、具体的な説明と解決への手がかりを書いています。

1項目につき見開き1ページにまとめて、忙しい中でも読みやすく工夫されています。項目ごとに自滅する人しない人を、ひと言で現しているので、忙しい場合は、この部分を読むだけでも煮詰まっている自分へのヒントが得られそうです。

たとえば、【1章 思い込みを捨てる】の【①子供が親の面倒を看るのは当たり前?】という見出しと並んで【自滅する人→「当たり前」と答える】【自分の人生を大事にできる人→「当たり前とは言えない」と答える】(p14)という具合です。雑誌などによく載っている性格の自己判断のような形式で、どこか親しみやすさもあります。

本書の「自滅」の選択をしても、「自滅」どころか親も子もそれぞれの人生を満喫しているケースもあります。(中略)大事なことは「自分さえ頑張れば」と思わないこと。そして「本当に必要か?」と自問自答してから一歩を踏み出すこと。考えたうえでの選択であれば「自滅」とはならないはずです。(p4、5)

著者は介護について20年以上取材を続けています。遠距離介護をする子供世代を支援する場を立ち上げ、2005年に法人化、理事長を務めています。多くの人の悩みや苦しみをつぶさに見てきた人ならではの具体的な内容です。

一般的な介護解説本は、すっきりと整理されていて介護に関わる基本的な情報を理解する良い助けになります。それに比べて、本書は、経験した人でなければ気づかない微妙な感情の問題も多くとりあげています。

たとえば「育ててくれた親の愛に報いるべきだ、距離を置くなんてとんでもない」という風潮に罪悪感を抱く必要はないとして、子供に対して過度に依存、無理難題をふっかけてくる親もいることを伝えています。そして、こういう場合の「自分ができるのはココまで」という具体的な線引きについて取り上げているのです。

小さいことのようでも実際には負担の大きい問題もとりあげています。その中の1つとして「入院中の洗濯物をどうするか?」(p56、57)を紹介します。実際に取材した女性の体験をもとに解説しています。

夫の母親が初めて入院したときに、彼女は職場から長時間かけて毎日洗濯物を取りに通い疲労困憊します。2度目からは病院に行くのは週2回と決め、念のため1週間分の着替えを病院に置いておくことにします。自分から言い出したとはいえ、お礼1つ言わない姑に苛立がつのるなどの、ありがちな感情面も描かれています。

ここでは、下着や寝間着のレンタルサービスや洗濯サービスを紹介した上で「決めたらとことんやり通す」という真面目な性格は、良い結果を生むこともありますが、こと親の介護では裏目に出ることも多いことに触れています。ここでは、ひと呼吸して「コレは本当に必要?」と自問自答してから手を出すようにすることを述べています。

私たちは、何事も自分で決めているつもりでも、知らず知らずのうちに他人の意見や世間の常識に影響を受けています。良い影響もありますが、自分を必要以上に束縛してしまう危険性もあります。

特に、介護に関わることでは「親孝行」「家族の絆」「人間愛」など無条件に「正しい」とされてきた言葉が誰の中にも根付いているような気がします。こういう価値観に対して、疑問をもたずに受け入れることと過剰に反発することは表裏一体であり、どちらのスタンスを取るにしても束縛になってしまいそうです。

介護を必要としている親も介護をする子供も、それぞれの人生を全うするためにはどう考え、どう行動すればよいのかを探る手がかりに、本書を手に取ってみてください。最後に、あとがきから著者のことばを引用します。

情報をしっかり集めて、あなたにできることは何かと考えましょう。「今」だけを見るのではなく、半年後、1年後、3年後、5年後、10年後…のことを見据えながら。(p154)

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