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リアルな看取りの記録です。今、深刻な病状の人を介護している方にはおすすめしません。
アメリカの作家、レベッカ・ブラウンが、母親ががんに冒され死を迎えるまでの日々を娘の視点から綴ったノンフィクションです。各章には「貧血」「薄暮睡眠」から始まって「火葬」、最終章(remains)まで医学辞典のようなタイトルがついていて、辞典的な説明が加えられています。
体調が悪いという母親を病院に連れて行くところから、医師の説明を聞く場面、帰りに二人で馴染みのレストランで食事をする場面…短い会話と、無駄のない淡々とした描写が続きます。具体的に簡潔に描写される母親の肉体の変化や介護の内容が、そのまま、死に向かう母に寄り添う娘の心の軌跡として読むことができます。
母親を生の世界に引き留めたいと思いながらも、いつの間にか母の死を待っているかのような自分の心の動きも書いています。おむつ替え….医者の言葉。病状の変化、嘔吐物の描写。母がしたこと、母との短い会話。ときおり差し挟まれる健康だった頃の母、妻としての苦痛を味わいながら全力で子どもたちを守り育てる母の姿、ごく短い挿話に平坦ではなかった母親の人生と、子どもたちとの幸福な関係が読み取れます。
最終章の「子供のころ何年も母に野球の試合を観にきてもらって応援してもらった兄が…」という短い文章から、ユニフォーム姿で走り回る少年と若い母親の笑顔が見えてきます。そこに、中年になった「少年」の姿が重なっていく、静かな美しい終章です。
人生の最終章を迎えようとしている人に心を添わせること、共に過ごした幸せな時間をもう一度胸によみがえらせること、その人の人生に想いを馳せること、そのどれもが、介護の大切な一面であることを思い出させてくれる一冊です。
切ないけれど、温かいですね。私自身の父との最後の1ヶ月を思い出しました。
父は商売に忙しく、子どもの頃からほとんど話す機会もありませんでした。父が体を壊して入院してから、店を引継いで忙しい継母のかわりに、私が毎日病院に通いました。
病院ですから、身の回りの世話はほとんど看護士さんがやってくれます。最初はただ座っているだけの気詰まりな時間を過ごしました。黙ってばかりもいられないので、ぽつりぽつりと言葉を交わすうちに、私は長年胸にしまっていた想いがあふれてきて、父への恨みつらみまで話してしまいました。
父は黙って聞いていましたが、少しずつ自分の想いを話すようになりました。父には父なりの考えも苦労もあったのは頭では理解していましたが、直に父の言葉で聞けて良かったと思います。父の言葉のすべてに納得したわけではありませんが、父の人生をいっしょにたどり直せたような気がします。
レベッカ・ブラウンの母子関係、兄姉との関係は温かくて、うらやましいです。同じ片親家庭でも、私の育った家庭の冷えきった空気とは大違いですが、それでも父の最期に寄り添えたことは幸せだったと思っています。あまりにも遅すぎましたが、あの1ヶ月が全くなかったら、今のように父を懐かしむ気持ちにはなれなかったと思います。
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