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【書評11】『ワーク介護バランス』(シリーズ3冊)小山朝子著, 旬報社

介護本

介護を理由に仕事をやめなくてすむにはどうしたら良いのか、企業は介護者をどう支えるべきかを追求したシリーズです。しかし、働き続けなければいけないという姿勢はとらない、介護に専念する時期があってもよいではないかという柔軟な考え方を基本にしています。ちなみに、シリーズ(1)(2)は介護に専念しようという人にも役立つ内容です。

著者は24時間ケアの必要な祖母を、母親と二人で10年近く介護した経験をもとに、介護ジャーナリストとして活動しています。「当事者」の視点を大事にしているので、豊富な資料や調査結果の分析や提言も、今まさに介護しなければならない人にとって貴重な情報になっています。

ワーク・ライフ・バランスとは、言葉通り、仕事と個人の生活の調和を目指すものです。2007年にワーク・ライフ・バランス憲章が策定されました。その後、育児に関する職場環境や男性の意識はわずかながら変化しつつあります。

それにひきかえ「個人の生活」に当然含まれるはずの介護に関しては、職場の対応も介護者本人の意識も、あまり変わっていないようです。著者によると、介護休業の存在すら知らないという人もいるということです。こうした背景を受けて、著者は、介護に焦点を絞って「ワーク介護バランス」という言葉を掲げています。

なにかと便利な記述が多いのですが、介護のベテランには、少し物足りないかもしれません。購入する前に、図書館や書店で手にとってみて、自分に合っているかどうかは確認したほうがよいでしょう。

ワーク介護バランス (1) ここまでできる働きざかりの介護

ワーク介護バランス (1)
Amazon: ワーク介護バランス (1)

初めて介護に取り組む人へのアドバイスと介護制度の基礎知識について書かれています。特に、シリーズ(1)(2)には、ほとんどの章にチェックシートがついていて、具体的にするべきことが確認できます。

たとえば『親が入院したら、しておきたいこと(p12)』のチェックシート(p13)の内容は、既往症メモを用意しておく、自宅近くの急性期病院の診察券を作っておく、緊急連絡先リストを作っておく、入院時の役割分担を話し合っておく、保険証や通帳の保管場所を確認しておく、新しい下着や寝間着を買っておく、といった具合です。

また、随所に体験をもとにしたコラムが挿入されています。例えばp50のコラムは、介護者が睡眠をとる難しさと大切さを述べています。夜間の訪問介護を依頼していても不安感やカギの音で目覚めてしまったことや、用具を変えて夜間の介護が要らなくなった体験です。「嫌なことがあったら寝てしまう」。これに限ります。と結んでいます。「そうできたら苦労は無い」と反発したい境遇の人もいるでしょうが、少しだけ肩の力が抜けるのではないでしょうか。

ワーク介護バランス (2) コミュニケーションで変わる働きざかいの介護

ワーク介護バランス (2)
Amazon: ワーク介護バランス (2)

密室で孤立した介護をするのではなく、周囲とのコミュニケーションをうまくはかることが大切だと言っています。当たり前のことのようですが、不安でいっぱいの介護者の気持ちは「誰とどのように接したらよいのか分からない」というものでしょう。

職場でのコミュニケーション(p8~25)では同僚、上司、部下、それぞれの立場からの望ましいコミュニケーションについて、事例をあげてアドバイスしています。同じく、介護現場(医療関係、施設,介護職、住宅改修業者)との場合(p26~51)、家族やご近所と(p53~64)、認知症の被介護者と(p65~94)それぞれの場面に応じて具体的に分かりやすく書いています。

ワーク介護バランス (3) 会社が支える働きざかりの介護

ワーク介護バランス (3)
Amazon: ワーク介護バランス (3)

介護両立支援策を導入している企業を直接取材し、事例をもとに企業側に提言しています。人事担当者に、ぜひ読んでほしい内容ですが、働く介護者にとっても、他社の取り組みを知ることで、自分が職場に期待すべきことが見えてくるはずです。

また、福利厚生サービスの活用(p44)では高額な福祉タクシー料金を例にあげて、自治体や会社の補助金について書いています。自分の会社が福利厚生サービスを導入しているかどうか、サービスの内容はどうなっているかの確認するようすすめています。

すべて1冊が90ページ前後の薄さ、15×21cmと小型、ソフトカバーなので、男女を問わず通勤用バッグに入る仕様です。ただ、この薄さでこの価格には反発もあるかもしれません。それでも、隙間時間に気になる項目から拾い読みできる本のデザインは、よいと思います。
 

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