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認知症に関する本が次々と出版され、新聞やテレビも認知症関連の情報を提供しています。それでも、ほとんどの人は、自分自身の問題としてはとらえていないというのが実情でしょう。たとえ、情報を集め、ある程度の知識があっても実際に介護をすることになってから戸惑うことがたくさんあります。
本書は、アルツハイマー型認知症の夫を長く介護した経験をベースに書かれています。本やマスメディアの情報だけでは分かりにくいことがとりあげられています。例えば「早期発見が大切」と分かっても「どうやって、本人に診察を受けさせるか」という問題があります。多くの認知症の患者は、自分は病気ではないと言い張って病院に行きたがりません。
著者の場合も、夫が受診を拒否し続けたためにアルツハイマー型認知症と診断されるまでに4年以上費やしてしまいました。もっと早くに診断を受けていれば病気の進行を遅らせることができたかもしれないという思いから、本書では、いかにして早期診断にこぎつけるかを詳しく書いています。
早期の受診は第一の関門です。診断がついたからといって、病気が治るわけではありません。現代の医学では、ほとんどの認知症の回復は望めません。遅かれ早かれ症状は進み、家族は長い介護生活を強いられます。ただ、本人も家族も訳が分からない状態で向き合うのと、認知症であることがはっきりしているのとでは対応の仕方が変わります。
では、どのように対応していけばいいのか、ということが、本書の大きなテーマになっています。まず、認知症について正しく理解することをあげています。そのうえで「愛情を込めた対応モード」が欠かせないこと、それは認知症の人の気持ちにそって「ウソ」をつくことだといいます。著者が「愛情を込めた認知症対応モード」と呼ぶ内容を目次から引用します。
A 忘れていることを指摘しない p44
B 間違っていることを正さない p48
C 制止しない。ダメという言葉をつかわない p50
D ごめんね、と家族のほうが謝る p55
E ありがとう、と感謝の言葉をかける p57
F 認知症の人に判断をまかせない p59
G 家族は罪悪感を持たない p62
AからGまで、それぞれに例をあげ、家族の気持ちの動きまで分かりやすく書かれています。それぞれに添えられたせりふ付きのイラストもよくできていて、一目で実際の場面が想像できます。
著者自身は、一貫して愛情を込めた認知症対応モードが実行できたわけではない、なんとか努力してきたというのが実情だと告白し、そんな中で、認知症介護家族の会に参加することが大きな心の支えになったといいます。
家族会では経験者にしかわからない微妙な心の悩みを出し合って共感し合える、具体的なアドバイスをもらえることもある、自分だけがつらい状態に置き去りにされているわけではないと思えることは、精神の安定に大きなプラスになる(p66要旨)と言っています。
デイサービスも、介護家族の心身の休養に欠かせないものです。しかし、ここでも本人の抵抗にあうことが少なくありません。著者は、デイサービスが家族を支えるだけでなく、認知症の人にとっても貴重な社会生活の場ととらえ「デイサービスを始めるコツ」(p68)を書いています。
第二部(p85~169)では、著者自身の病気入院と、それにともなう夫の施設入所など、実体験を書いています。第一部でも夫の行動を例に挙げて読者の理解を助けています。苦しい日々の中にも温かい笑顔の瞬間があったことも書いています。それでも、大学教授であった穏やかな夫がアルツハイマーになって変わっていく様子を赤裸裸に書くためには、相当の覚悟と心の痛みがあったことでしょう。
人前での常軌を逸した行動も書かれています。認知症でも身体が動く家族を介護している人が、多かれ少なかれ経験することです。人並み以上にしっかりしておしゃれだった母親が別人のようになってしまう、優しく穏やかだった父親が所かまわず暴言を吐く、など家族にはとうてい受け入れ難いことが次々と起こります。認知症になる前の姿とのギャップが家族の苦しみを何倍にもします。著者がいう「受け入れること」は、ほんとうに難しいことです。
認知症の人、本人も苦しんでいます。著者は「介護する家族は常識や通念やそれまでに自分の身に付けていた考え方、感じ方を一度リセットして、認知症の人の不安感を理解する努力をしなければなりません」といい、そうはいっても、それは簡単なことではないし、理性で分かっていても感情がついていかないこともわかる、自分もそうだったといっています(はじめに)。
それでも、認知症の人と家族が、少しでも穏やかに暮らすための方法を探り、努力していきましょうというのが著者の姿勢です。本書は、認知症に関する知識や介護のコツもしっかり押さえていますが、底に流れる大きなテーマは、認知症に苦しんでいる人とその家族へのエールであり「あなただけがつらい状態に置き去りにされているわけではない」というメッセージではないでしょうか。
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