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高齢者の人口が増えるにつれて、100歳を超えても活躍しているスーパー老人など、元気なお年寄りが報道されることが増えてきました。ご本人たちの著書の出版も盛んです。それ自体は良いことですし、希望の持てる話題です。しかし、希望を感じるのは、今元気なお年寄りと、これから高齢者になる人たちでしょう。
大多数の高齢者の現実はどうでしょうか。テレビ番組で元気な高齢者がとりあげられるとチャンネルを変えてしまう、家族に「ほら、こんなに元気な人もいるんだから」と励まされるのが嫌だ、お年寄りのそんな声を聞くことがあります。普通の若者が「頑張れば、同じ歳のオリンピック選手のようになれる」と言われるようなものでしょう。
本書は、高齢者の心身の状態はどうなっているのか、日本の医療はどう対応すべきかを書いたものです。医療、介護関係の専門家、高齢者の家族だけでなく、これから高齢者になる人にもお薦めしたい本です。著者は老年医学の専門医です。アメリカで高齢者医療を学び、現在は多くのお年寄りの診療をしながら、日本における理想の高齢者医療を提言しています。
医療は、臓器ごとに専門化され診療科が分化して進歩発展してきました。その結果、平均寿命がのびるなど成果も挙げてきました。しかし、それは、病気か健康かで分けられる若年層に効果のある治療であって、心身ともに弱っている高齢者には、逆に働く可能性もあります。高齢者の場合は、薬の副作用や、他の臓器への悪影響が出やすいからです。
医療には病気を治すだけでなく、高齢者が虚弱でありながら、より長くよりよく生きるためにサポートする役目が加わっています。しかし、現代日本の医療は、未だに充分にその役目を果たせているとは言えない状況なのです。そこで本書は「老年症候群」という言葉を持ち出してきます。「老年症候群」とは、そもそも高齢であることを原因とした複数の病気の集合体を意味する言葉です。
本書では、この「老年症候群」について、章ごとに実際の患者を例に挙げて、様々な問題を分かりやすく説明しています。本書の例では、こうした患者に対して、著者を中心にして、医療者や介護関係者がチームで対応しています。こうした例を知っていれば、自分が関係している高齢者の医療や介護に対して「老年症候群」という視点からの評価をすることが可能になると思われます。
また、高齢者の病気や薬についても正確に書かれています。認知症、せん妄、老年期うつ、転倒、慢性めまい症、尿失禁と頻尿はじめ「老人症候群」の視点から、対応について挙げられています。さらに、身体の状態だけではなく、精神状態もふくめて説明されています。単なる「患者」ではなく「病気である生活者」として医師に診てもらえれば、大きな安心に繋がります。
章ごとの見出し、小見出しで、内容がわかる親切な構成になっています。高齢者の心身の状態や病気から、終末期医療、介護政策への提言まで書かれていますので、興味のあるところから読むことができます。本書は、読みやすさという面からも、手元においておきたい本になっています。
著者が、地方で「いかに老いと向き合うか」という講演をしたときのことです。聴衆の一人から「希望をなくすようなことは言わないでくれ」と言われたそうです。たしかに、現実を見つめるよりも「希望」をもつほうが心地よいものです。著者は、反省しながらも、次のように考えます。
老いや病を防ぐ、治す(キュア)という「それまでの希望」を持ち続ける限り人生の最終章は失望の連続となるのではないか、しかし老いや病という現実と正面から向き合うことで「新たな希望」が創造できないものかと考えていました。すでに超高齢社会となった日本では、平均寿命もこの先はそう延びないでしょう。これまでの「より長く生きる」から「より良く生きる」への発想の転換が今まさに必要なのだと思います。(p213)
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