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日々介護に奮闘している男性におすすめしたい本です。タイトルにある通り、介護をする男性について書かれている本だからです。とはいえ、女性にとっても、介護について考える手がかりや参考になる情報があります。
男性が一人で介護していると、周りの女性が同情したり、あれこれ役立ちそうなアドバイスをしてくれます。でも、実際にはほとんど役に立たないものです。それが姉や妹だと、アドバイスどころか、うっとうしいだけということもあります。しかし、新聞やテレビから情報を得ようとしても、一般論ばかりと感じてはいないでしょうか。
そんな思いを抱く男性介護者であれば、本書は是非とも目を通しておきたいものです。そもそも著者が、自らそういう経験をして問題意識を持ち、本書を執筆しているからです。
著者は20年前、49歳のときに、末期がんの妻を自宅で看取りました。当時は自宅で愛する人の最期を看取る例はまれで、介護保険制度も施行前です。後に、実母の介護もしています。その後、長く在宅介護の問題に取り組んできました。
本書で繰り返し強調されているのは、介護は技能ではなく暮らしそのものだということ、暮らしが人それぞれであるように介護も百人百様であるということです。失敗はあって当たり前、それは失敗ではなく「ほころび」だととらえます。そこから見えてくるものがあるという思いが、本書のサブタイトルにはこめられています。
著者は、マスコミが男性の介護をとりあげる時の姿勢にも問題があると述べています。男性介護は「悲惨」という面だけを強調しがちで「一側面としての「悲惨」にだけスポットを集中させると、見誤るどころか、高い位置から見下ろす結果となりかねない(p3)」からです。これは、著者自身が取材を受けた時の実感です。
同じように、専門家のアドバイスも「上から目線」に感じられます。それは、生活者としての視点が欠けているからというのが著者の意見です。本書は、そうした視点を持って、リアルな体験談や役立つ情報が記述されています。
とはいえ、個人的な体験談に終わることもなく、また、一方的なアドバイスにもならない構成になっています。あたかも男性介護者の会に参加して、体験者や専門家の話を聞くような感じで読めるので、すっと頭に入ってくる内容が多くあります。
本書の前半は、4人の男性介護者へのインタビューで構成されています。認知症の妻を介護している男性、赴任地のオランダでガンを患って尊厳死を選んだ妻を看取った男性、交通事故で寝たきりになった妻を介護している男性、離れて暮らしていた父親の最期に、なす術もなく病院で見送った男性です。
私見を差しはさむことなく、それぞれの介護の物語に耳を傾けています。その後に、著者が補足説明や介護休暇についてなど、役立つ情報を添えています。特に、4人目に紹介される男性の話の後には「だから男はだめ」と言えるだろうかと読者に問いかけています。
この男性は、母親を病気で亡くしています。その時は、男のすることではないという父親の意向にしたがって、介護はしていません。その後もほとんど仕事漬けの生活を続けてきました。著者は、この物語においては、まず「全く経験のないことを、やれと言われて即座にこなせる人などいない(p105)」と述べます。
その上で、男も女も食べるためには、家事より稼ぎをメインにしなくてはならない、同じ屋根の下にいても遠距離介護と同じ現象はついてまわる、今必要なのは何か、何を見据えた取り組みが必要なのかと、誰もが考えるべき問題であることを指摘しています。
後半の第5章『楽しい介護 これだけは知っていたい、これだけ知っていればなんとかなる』(p117~143)では具体的な介護技術について知ることができます。4人の男性介護者が困っていることについて、介護のプロ(介護職)と著者が話し合っています。
首が座らない人をベッドから移す方法や、オムツ替えの後にお尻を洗う方法など、コツや工夫が図入りで分かりやすく説明されています。どれも参考になる情報ですが、以下の二つは、今すぐ実行できるとても大切な介護の心得です。男女を問わず心に刻みたいポイントです。
カーテンを閉める前に「カーテンを閉めるね」と言ってから行うなど、動作の前の「声かけ」が大切です。オムツを替える時も「とりかえますよ」と一言かけてのスタートを心がけましょう。ほんとうに、ついつい忘れがちなことです。被介護者になる前の私たちは、周りを見渡せるのが当たり前の生活をしています。しかし、動きが不自由で視界も限られている被介護者になると、他者による無言の行動には驚かされてしまうのです。
つい「がんばれ」と言ってしまいますが、激励は、弱っている人を返って傷つけます。根性論は、様々な場面で否定されているにも関わらず、今も日本に根付いてしまっているので、自分でも気づかないうちに、そうした行動をとっていることもあります。もちろん状況にもよるのですが、介護の初心者のうちは「がんばれは言わない」と頭にたたき込んでおいたほうがよいでしょう。
第6章は、著者と思いを同じくする介護のプロが書いています。ここでは、在宅での療養で健康管理とともに大事なのは、日常生活を続けることが強調されます。また、介護保険のルールをもとに上手に利用する方法、ヘルパーの利用について、インターネットや公的機関の窓口の利用についてなど、お役立ち情報が掲載されています。さらに、介護保険で利用できないサービスをカバーする方法(認知症地域見守り訪問派遣事業、シルバー人材センター、民間の配食サービスやハウスクリーニングなど)についての言及もあり、助かります。
第7章は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で闘病中の男性が、介護される側の視点から書いています。プロの介護は安全優先であって、家族の介護とは本質的に違うという部分には、はっとさせられます。危険はあっても、家族介護のもとでは生活者として生きられる、病院で万全の体制で守られても生活は奪われると言い、家庭で介護する人に呼びかけます。
正しい介護はプロにまかせましょう。家族は正しい介護をしようと思わないでください。家族はそれをしようと思わないでください。介護や生活に疲れていては、患者とは向き合えません。(p160)
本書は、在宅介護を前提に書かれています。家庭で普段通りに暮してこそ、患者も人として生活できると言っています。それが辛いプレッシャーになってしまう読者もいるかもしれません。しかし、自宅、病院、施設、どこを選択した人にも考えるヒントがたくさんつまっています。介護とは何か、介護されるとはどういうことかを考える良き指針になるはずです。
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