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親しい友人同士でも、お金の話はしにくいものです。まして、自分の家の経済状態を事細かく話すことなど考えられません。当然、友人の家計についても露骨に聞くこともできません。家族の間でさえ、生々しいお金の話は避けたいものでしょう。
近年、老後資金に関する本や記事をよく見かけるようになりました。老後資金はいくら必要か、どうやって資金を貯めるのか、誰にとっても気になる話題です。しかし、専門知識が必要な金融商品の話などもからむため、今ひとつピンとこない人も多いのではないでしょうか。
本書は、初老にさしかかった夫婦が直面する経済破綻の危機を描いた小説です。主人公は、パートで家計を支えてきた主婦です。娘と息子は大学を卒業し、夫は定年まであと3年というところにあります。夫は、家計は妻に任せっぱなしで、老後のことなど何も考えていません。
そんな夫婦に、娘のハデ婚600万円問題が勃発します。問題と捉えるのは主人公である主婦だけです。夫は、何とかなるとのんきなものです。今まで通り、家計に関することは、妻がなんとかすると思っています。
この、娘の結婚費用の問題を発端に、夫の父親の葬儀代、残された姑の生活費など、次々と家計は窮地に追い込まれていきます。その上、夫婦ともに職を失って…。
すべての場面に、具体的な金銭の話が出てきます。さながら、庶民の経済サバイバル小説といった位置づけです。とはいえ、経済問題を安易に小説仕立てにしているような本ではありません。小説として充分読み応えがあります。数字のことには自信がない、お金のことはちょっとという人も、ストーリーだけでも楽しむことができます。
主人公をとりまく人物の生活も具体的に描写されています。同じようで違う庶民の姿も、また、優雅な生活をしているらしい人々の姿も出てきます。それぞれに違いはあっても、誰もが何かしらの問題を抱えながら一生懸命生きています。
金銭問題を軸にして、中年を過ぎた夫婦の精神的な問題、子供たちへの不安、老親との同居、親兄弟との関係、そして介護の問題がていねいに書き込まれています。それぞれに、経験したことのある人にとっては「あるある」がいっぱいです。
例えば、本書のはじめのほうでは、働きづめだった両親がすっかり衰えてしまうというケースがあります。両親の土地を処分して、先の長くない親への孝行にと、豪華なケアマンションに入居させます。しかし、思いもかけず入居から17年も経ち、2人分月38万円という入居費が、子供にのしかかってきます。
親には長生きしてほしい、親孝行したいという気持ちは本物でも、先の見えない状態で支えるのは、子供にとって重い負担です。介護にしても、経済的な援助にしても兄弟間のトラブルに発展しがちです。
また、葬儀についての情報もリアルです。義父の葬儀に300万円の費用をかけた後、主人公は「家族葬で十分だったのに」と漏らします。しかし、これに対して友人は「家族葬でも同じくらい取られるって聞きましたよ」と答えています。これは、以外と知られていませんが、事実です。家族葬だから安いというわけでもないのです。
本書の終盤では、低予算の手作りの葬儀が出てきます。高額版と手作り版、どちらも具体的な料金や節約の方法がストーリーの流れの中で自然に読めます。ちょっとした知識でも、事前にそれを持っている人とそうでない人では大きな差が出ます。本書からは、そんなおトクな情報も得られます。
行方不明になった親、亡くなった親の年金を受給するために、役所の調査をくぐり抜けようとする・・・時々報道される事件ですね。本書の主人公もまた、これに関わるはめになります。主人公の関わり方は、小説ならではのできごとです。それでも、あり得ないとは言えない説得力があります。
ごく日常的な生活から、小説的な事件まで、世間一般には「老人問題」と一括りにされる傾向があります。しかし、その背景には、金銭を軸とした様々な問題が横たわっているのです。いわゆる経済小説の多くには、大きなストーリーが描かれているでしょう。そうした中にあって本書は、リアルな庶民の経済小説なのかもしれません。
老後の備えは万全という人にも、あまり考えたくないという人にも、読んでいただきたい小説です。老後資金をどうするかということだけでなく、老いるということ、人と関わるということを考えさせてくれます。
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