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【書評37】『働きながら、親をみる』和田秀樹著, PHP研究所

働きながら、親をみる
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介護のために仕事をやめない

親やパートナー、自分にとって大事な人が介護を必要とする状態になったとき、どうするのでしょう。何よりも、その人を優先してあげたいと思うのは自然なことです。元気だった人が、突然そのような状態になったとしたら、なおさらかもしれません。

しかし、介護の多くは、長期間にわたります。そんな介護を担う人が、スタート地点で、仕事や自分自身のそれまでの生活を投げ打ってしまっては、続けられなくなります。そうなると、介護する人される人、どちらにとっても不幸な事態を招きかねません。

本書は「介護のために仕事をやめない」ことをすすめ、そのための介護のノウハウや公的制度を具体的に説明しているものです。また、著者が精神科医という背景もあって、精神的な問題についても、とても分かりやすく書かれているので、オススメです。

介護のために自分の仕事を辞めるのは、得策ではありません。なにより親を見送ったあとも、あなたの人生は続いていくということを忘れないでいただきたい」(p6)

在宅介護のほうが偉いのだろうか?

在宅介護の良さを説く本も多く、そこから学ぶこともたくさんあります。しかし「自分の努力が足りなくて、施設入所させてしまった」という家族の罪悪感にもつながりかねない危険もあります。本書の著者は「在宅介護は美談でないし偉くもない」(p182)と言い切っています。

在宅でのケースも丁寧に説明し、在宅・施設介護を対立させて考えているわけではありません。精神科医として、認知症の人の介護に疲れきっているたくさんの家族に接し、家族会を作って支えてきた著者ならではの言葉です。

私が認知症の方の家族会をつくって情報交換や交流を続けている目的の1つは、ご家族が親をホームに入れるかどうか迷っている時、その後押しをすることです。罪悪感を抱く必要はなく、当然の選択だと思いますし、仕事を持つ身ならなおさらです。(p182)

逆に、施設介護を理想としないバランスにも配慮しています。本書の中で、筆者は、在宅介護を続けたいと悩む人のために、共倒れにならないためのアドバイスもしています。そんな本書の章立ては、以下のようになっています。

1章 介護の基礎知識
2章 介護保険と介護休暇
3章 介護施設と民間サービス
4章 認知症の親との向き合い方
5章 お金のこと
6章 親孝行とは何か

本書の内容から、いくつか要旨をピックアップ

今まで全く介護に縁のなかった人はもちろん、ある程度経験や知識のある人にも参考になる情報がたくさんあります。以下、本書の記述の中から、参考になると思われるもののいくつかについて、要旨(本書の記述そのままではなく、KAIGO LAB 編集部にて内容を解釈しつつ文章を変えています)をあげてみます。

当然の権利としての介護サービス(要旨/p38, 40)

介護保険料は、40歳から死ぬまで払い続けるものです。ですから、介護保険の介護サービスを受けるのは、当然の権利です。この認識を持つことが重要です。仮に、現役時代に月5,000円、高齢になってから月5,500円を80歳まで払い続けるとしたら、その総額は225万6千円にもなります。介護保険は、保険ですから、介護にかかるお金が、こうして長年支払ってきたお金を超えてしまったときにはじめて、その保険に加入しておいてよかったということになります。保険に投資をしてきたわけですから、それを活用するのに躊躇するというのは、おかしな話なのです。

在宅介護が推し進められるのは国の都合?(要旨/p82, 83)

在宅介護では、介護保険を満額まで利用する人はほとんどいません。しかし施設介護であれば、国はこれを(ほぼ)満額支払わなければならないようになっています。ですから、国の方針として在宅介護を進めているのは、経費削減のためという側面もあるでしょう。現在、介護関連の制度について、広く周知されていないのは、政府の説明責任が充分に果たされていないからではないでしょうか。国としては、介護保険制度に精通している国民が増えると、財源が厳しくなるという立場にあります。しかしそれは、保険本来の形ではありません。

離れて暮らす親をどうみるか(要旨/p88, 89, 93)

(1)自宅に引き取る(2)親がいまの家に住みながらプラスαの介護サービスで乗り切る(3)民間あるいは公的な介護施設に入れる(4)いまの職場を辞めて故郷で再就職する、という4つのうち、最もすすめられないのが(4)の職場を辞めるということです。(1)のように、親を自宅に招く場合は、親が80歳になる前がよいとのことです。また(3)のように介護施設に入所してもらう場合は、親の地元で、方言が通じ、他の同郷の入所者たちとスムーズにコミュニケーションがとれる環境が望ましいです。ただ、施設介護が選択できない状態で、かつ、あまりに親の暮らす地域が自分の自宅から遠い場合は、やはり呼び寄せも考える必要があるかもしれません。

後見人制度を利用する(要旨/p164〜169)

後見人は、親の代わりに、財産管理や施設入所の決定ができます。親が認知症になったりした場合、本人の判断にだけ頼っていては介護を続けられなくなるからです。

(KAIGO LAB 注)後見人制度は、心強い制度です。ただし、手続きが複雑で、後見人になった人の負担も軽くはありません。経済的な余裕があれば、法律の専門家に依頼することになるでしょう。この制度を利用するかどうかにかかわらず、後見人制度については、勉強をしておく必要があります。詳しくてわかりやすいガイドブックとして『はじめての成年後見ーこれで安心!これならわかる』(日本加除出版株式会社)などがありますので、図書館で手に取ってみてください。

親の財産は介護に使う(要旨/p170〜176)

親にそれなりの財産がある場合は、介護の負担はかなり軽減されます。これといって財産がないように見えても、持ち家がある場合、リバースモーゲージ(=持家を担保として融資を受け、借りたお金は死亡時に自宅を売却して返済する制度=生活福祉資金貸付制度)を利用すれば、かなりの融資が受けられます。親に財産がない場合は、親に生活保護を受けてもらうことも考えましょう。生活保護を受けると、基本的に、受給者の医療費と介護費用が無料になります。別居の家族がいても、援助の要請はありますが、強制ではありません。親と同居していたとしても、親だけが生活保護を受けることも可能です。

本書の最後にある著者からのメッセージ

介護が終わってからも、自分の人生は続いていきます。介護はとても大事なことですが、介護だけが大事なわけでもないはずです。ぜひ、本書『働きながら、親をみる』を読んでいただけたらと思います。著者は、本書の最後に、次のようにメッセージをまとめています。「私が声を大にしていいたいこと」とのことで、非常に力がありますし、勇気づけられます。

●介護のためにあなたの仕事を辞めることは、絶対にすべきではない
●国民の権利として、介護保険や生活保護など国の制度は最大限に使う
●会社員の場合は、介護休暇、介護休業、時短勤務をフルに活用する
●親の資産を相続することを考えない
●介護施設に罪悪感を抱く必要は全くない

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