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【書評34】『老夫婦が壊される』柳博雄著, 三五館

老夫婦が壊される
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元新聞記者が要介護者になってからの生活

本書の著者である柳博雄氏は、朝日新聞に勤務し、定年退職まで勤め上げたジャーナリスト(75歳)です。ジャーナリストとしての受賞歴もあります。その著者が、2009年にパーキンソン病を発症し、以来、現在まで要介護者(要介護4)としての生活をしています。満足に動けるのは1日1時間です。

奥様(71歳)も、長年の介護疲れの中、重い腰痛になってしまいます。結果として、要介護2の認定を受けることになり「老老介護」となっています。さて・・・私たちは「老老介護」というとき、どこまで、その姿を具体的にイメージすることができるでしょう。

今の日本では、介護をする世帯の過半数が「老老介護」の状態にあります。それぞれに異なる現状があるのは当然としても、本書の中で展開されていく「人生の総括としての介護体験」は、多くの「老老介護」に共通する本質をあらわにしてくれます。残念ながら、それは、イメージ以上に恐ろしいものです。

本書は、そんな著者が、自らが介護される生活について書いた「老老介護」のノンフィクションです。昔の新聞記者ならではの政治批判があったり、記述はかなり主観的なものも多いので、人によっては読みにくい点もあるかとは思います。しかし、その主張するところは、まさに「日本の危機」であり「警鐘」です。

「富裕層」である著者でさえ民間の介護施設には入れない現実

朝日新聞という一流企業に35年勤めた著者は、本書の中で、自らの年金支給額も明らかにした上で、それが「富裕層」に属することに言及しています。その著者が、介護費用の自己負担が1割から2割になることを大きな苦しみとして表現しているのです。

日本の一流企業に勤務し、勤め上げた人物でさえ、家計の収支をみて「このままでは、生活保護になってしまう」と怯えています。民間の介護施設には、とても入居できるような家計の状況ではありません。かといって、なにか贅沢をしているわけではないのです(家計も開示されています)。

朝日新聞は、企業の年収ランキング(2015年/東洋経済)において国内第8位(平均年収1,299万円)という企業です。これを下回るような年収であれば、老後に、民間の介護施設への入居は厳しいということになります(もちろん、資産のあるなしなども影響しますが)。

多くの人にとって「老老介護」とは、必ず訪れる未来です。そのとき、私たちは「家族は助け合わなければならない」という倫理観だけで、本当に生きていけるのでしょうか。本書は、これに対して「NO」と言います。恵まれた環境にあった筆者でさえ、もはや限界であることが、その根拠となっています。

破局に向かって、むしろ全力で走っていくという私たち日本人の愚

本書は、破局に向かって、むしろ全力で走っていくことを「日本病」としています。それは、先の大戦の例をひもとくまでもなく、とにかく、破局までは力を緩めないで走り続けるという、実に不思議な性質をもっています。

今の介護保険制度も、はじまったころの「介護の社会化」といった理想からはどんどん離れています。保険料を支払わせつつ、介護サービスの利用はさせないというおかしな方向に、全力で向かっているように感じられます。

在宅介護を中心に据えた未来というのは、本書が示すとおり、とうてい不可能なものです。運良く、在宅介護だけで済むケースもあるかもしれませんが、長生きしてしまうと、恐ろしい現実を突きつけられることになるでしょう。

年収1,000万円を超えるような世帯でさえ、破綻に怯えながらの介護生活・・・それだけの未来が見えていてもなお、私たちは、この国の介護を変えられないのでしょうか。自治体の破綻危機が叫ばれて久しいですが、そもそも、破綻の危機にあるのは、個々の家計であり、自分の家族であるという認識が必要なのだと思います。

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