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テレビや新聞、週刊誌で認知症が頻繁に取り上げられています。認知症に関連する本もたくさん出版されています。報道にも書籍にも、理解の助けになるものもありますし、中には、魔法のような方法で認知症の問題が解決するかに思わせるものもあります。
認知症への関心が高まっているからこそ、発信される情報量が増えているのでしょう。しかし、そうした情報によって、受け取る側の理解が深まっているかと言えば、疑問もあります。むしろ「認知症にだけはなりたくない」「親が認知症になったらどうしよう」という恐怖心をあおっているようにも感じられます。
若い世代は、認知症をはじめとした高齢化社会の問題を「はた迷惑なこと」「困った年寄りの話」ととらえがちかもしれません。この根底には、誰もが迎えるはずの「死」に対する思考停止があるのでしょう。しかし、闘病記を数冊読めば明らかなのですが、生だけでなく老病死を考えることが、多くの人の「これから」を豊かにするはずなのです。
本書のタイトルには「認知症が巨大な社会問題になるのは必然といってよい。働き方や生き方を問わず、誰にとっても他人事では済まされない。いつか家族や自分が当事者になる」(p3)という想いが込められています。
認知症発症のメカニズムは解明されつつありますが、決定的な治療法はありません。ごく一部のタイプ以外は、回復は望めないのが現状です。治療が難しいということは、認知症があることを前提とした社会の設計が必要になります。世代を超えて、多くの人が「認知症は他人事ではない」「いつ自分が当事者になってもおかしくない」と認識することが、そのスタートです。
本書のもとは、朝日新聞の連載記事です(2013年)。連載記事が「認知症と言う現実に誠実に向き合い、ときに途方に暮れながらも、支え合っている人々の記録」(p4〜5)としてまとめられています。
ひとときの笑顔を支えに介護の苦しみに耐える人、仕事をしながら複数の要介護者を介護する人、独り暮らしで自らの認知症に苦しむ人などが登場します。読者からの切実な思いをつづった投稿も掲載されています。
朝日新聞取材班のなかにも、認知症の家族をもつ人がいます。母親が認知症を患う46歳の男性と、自分が大学生のときに母親が若年性認知症を発症した27歳の女性記者の2名です。当事者の視点から取材するだけでなく、自らの体験も記事にしています(p52~57)。
例外もありますが、本書には、ほとんどの人が実名で登場しています。実名なのは「理由なく名前を伏せることは「認知症は隠すべきもの」という偏見を肯定することにつながると考えた」(p5)という考えを背景としています。
たしかに、認知症は恥ずかしい病気、はた迷惑な病気として捉えられがちです。それは外部の偏見だけでなく、本人や家族の心のなかに、より強く在る思いなのかもしれません。自分や自分の家族が認知症であるはずがないと思いたがること、認知症専門医の受診をためらうことの理由も、こうした思いからくるものなのでしょう。
こうした状況で、実名を公表するのは相当の覚悟がいることです。実名で登場した人たちの勇気が、認知症に対する偏見を減らし、認知症の人にかぎらず、誰にでも生きやすい社会の実現につながっていくものと信じています。
なお、表紙の写真は、本書に登場(p79~81)するご夫婦です。腎臓や肝臓のがんで7回もの手術を受けた男性が、妻の介護をしています。妻はこの男性が夫であることも分からなくなっています。夫は「妻が認知症になったのは自分が病気になって苦労をかけたせいもある」と考えています。恩返しがしたいという思いで、家事全般、着替えやトイレの介助、洗髪、髪をとかすなどの身の回りの世話を全部引き受けています。壮絶な日々の中で、かけがえのない一瞬をとらえた写真です。
認知症の症状は百人百様です。本人の気持ちを一番理解できるのは、その人の人生を知る家族でしょう。しかし、介護する人の苦しみを理解し、支えることができるのは周囲の人です。家族会や介護職だけでなく、友人や職場の同僚が認知症の実際をきちんと理解してくれたら、日本の介護は変わります。
認知症に気づいてから、日々の暮らし、施設選びなど、順を追って実際の例が紹介されています。また、各章ごとに実用情報がまとめられていて、こちらも参考になります。介護中の人だけでなく、今は介護とは直接関係ないと思っている人にも、認知症の実際を知るきっかけになるでしょう。
具体的な情報は本書にあたっていただくとして、考えさせられることばや、大切な情報をいくつかピックアップします。
「認知症の人の同じ言動の繰り返しや妄想に、イライラしたり怒ったりしては自己嫌悪に陥る。介護しているとマイナス感情の連鎖に陥りがちだが、これは、だれもが抱く当然の気持ち。自分を責めない。胸の内を話せる相手を見つけて、つらさを打ち明けて。」(p84、85の要旨)
「(正常圧水頭症については)すり足など歩行障害に加え、物忘れ等が在る場合は、早く調べてもらうのが大事」「(原因疾患には)いろいろな病気がある。早く正確に判断して、回復が可能なものを見落とさないことが大切」(p102、103の要旨)
「認知機能の低下は老いのひとつの症状。むやみに恐れるのではなく、豊かに生き生きと過ごすことが認知症の発症を遅らせることにもつながる」(p115)
「1人暮らしで認知症になる、1人で介護する。家族のかたちが変わり、「ひとり」で認知症に向き合わねばならない人が増えています。自分は無関係と言い切れる人はどれほどいるでしょうか」(p168)
『あなたに伝えたいたいせつなこと 認知症ってなぁに?』(2013年6月発行)は、NPO若年認知症サポートセンターが作成したものです(本書のお問い合わせはこちら)。小学校低学年以下向け、それ以上向けの2種類があります。認知症についての説明や、認知症の父や母の行動をどう受け止めるかなどを、やさしい言葉で説明している点が特徴です。相談できる家族会の窓口も紹介されています。
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