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【介護の心理学18】壮年心理学における「中年の危機」との向き合い方が、高齢者の性格を決めてしまう

壮年心理学における「中年の危機」

心理学者カール・グスタフ・ユング

カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung/1875〜1961年)は、分析心理学(ユング心理学)という分野を切り開いたことで有名です。一般にも、コンプレックスという広く通用する概念を生み出した人といえば「ああ」と通じるほどに、大きな影響力を持っています。

ユングの心理学において根幹をなす考え方は、個人によって(あまり)バラツキのない「普遍的な無意識(collective unconscious)」があるというものです。個人の内面には「意識」と「無意識」があるということはわかっていたのですが、こうした「個人的な無意識(personal unconscious)」とは異なる心の領域があると考えたのです。

この「個人的な無意識」を体系立てたのは、ユングの師匠であったフロイト(Sigmund Freud/1856〜1939年)です。ここでユングは師匠と対立し、悲しい決別にまで至ってしまいます。フロイトは権威主義的であったことで有名で、それが原因で、ユング以外にも多くの弟子を失っています。

ユング自身の体験を通して、ユングは30代後半以降の中年期を「人生の正午」と名付け、研究の対象としました。これは後に壮年心理学(adulthood psychology)として、30~50代の壮年期(中年期)における心理学的な特徴の研究として結実していきます。

壮年心理学における「中年の危機」

壮年期(30~50代)は、体力的な力と知識・経験がバランスしやすく、充実した職業生活が過ごせる時期です。同時に、結婚して子供ができていることも多く、人生のピークと考えられることも多いでしょう。

一般には、青年期(13〜19歳)は「自分は何者であるか?」といった「アイデンティティーの危機」をかかえる、非常に不安定な時期と考えられています。しかし実は、壮年期もまた、これまで積み上げてきた人生の成果が問われる、とても厳しい時期でもあります。

世間では、それぞれに充実した人生を送る壮年期の人々が多数いるからこそ、逆に、それが自分の納得いかないものになった場合、危険性が高いのです。にもかかわらず、壮年期は、失業、離婚、子供の自立、親の死などによって、自らの過去を否定せざるをえないイベントが発生しやすい時期でもあります。

壮年期においては、人生設計そのものに変更を加えるのは、青年期に比べてずっと困難です。個人が、自らの年齢を考え、それを「やり直しがきかない転換点」として自覚するとき、そこに「中年の危機」がやってきます。

ユングは「人生の正午」の前後について、その前を「外向的適応の精神発達期」とし、その後を「内向的適応の精神発達期」と呼びました。

「中年の危機」を迎えるまでは、とにかく社会の要請に応える(=外向的適応)ことで、少しでも高い社会的地位を得ようと頑張ります。しかし「中年の危機」以降は、これまでの人生の成果と向き合い、自分として納得いかないことを消化していく(=内向的適応)が大切になっていくでしょう。

「中年の危機」への適応によって老年期の5分類が決まっていく

この「中年の危機」という転換点においては、青年期以降に確立してきたアイデンティティーを問い直すという意味があります。思い切って言い切ってしまえば、壮年期にも、青年期とは質的に異なる「第2のアイデンティティーの危機」があるということです。

この「中年の危機」には、以下のようなことに自覚的になるようです(岡本, 2002年)。この時期の私たちには、こうした自覚一つひとつに対して、どのように対応していくのかが鋭く問われて行くのです。

1. 以前に比べて、健康に対する関心が増してきた。
2. 私は、もう若くないと感じる。
3. 疲労回復が遅い、酒に弱くなった、睡眠不足がこたえるなど、老化や体力の衰えを感じる。
4. 私の年齢から考えると、何か新しいことを始めたり、チャレンジするにはもう遅すぎると感じる。
5. これから将来、自分が元気で働ける年月・時間には限りがあると感じる。
6. 近親者や友人・知人の死によって、自分の寿命はあと何年くらいかと考えることがある。
7. 以前のように仕事に集中できないし、あまり意欲もわかない。
8. これから将来、自分のできる仕事・業績や出世などに限界を感じる。
9. いろいろなことに対して消極的になってきた。現状を維持できれば、それでよいと思ってしまう。
10. 自分の老いゆく姿や死について関心が増してきた。

アメリカの心理学者スザンヌ・ライチャード(Suzanne Reichard)は、老年期(65歳以上)における個人の社会適応は、本人の性格と深い関係あると考えました。こうした適応の状態を5つに分類した「高齢者の性格タイプ5分類(ライチャードの5分類)」は、特に介護の世界では、教科書に掲載されるほど、非常に有名です。

このタイプ分けは、結局のところ「中年の危機」とどのように向き合ったのかによって、決まってしまうのでしょう。特に「不適応型」に分類されてしまうと、自分自身はもちろん、周囲にも迷惑をかけることになってしまいます。

すでに老年期に入っているとしても、私たちは、壮年期以降に訪れる「第2のアイデンティティーの危機」と向き合う必要があるということです。死にゆく存在として、残りの人生をどのように過ごしたいのか、内向的適応に向けて、議論したり、先輩の意見を聞いたりすることが大切になってきます。

※参考文献
・岡本 祐子, 『中年のアイデンティティ危機をキャリア発達に生かす–個としての自分・かかわりの中での自分』, 明治生命フィナンシュアランス研究所調査報 10(4), 15-24, 2002

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