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【介護の心理学15】ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(door in the face technique)

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(door in the face technique)

譲歩することで、逆に、欲しいものを引き出すための交渉術

マーケティングの領域で非常に有名な方法に「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(door in the face technique)」というものがあります。簡単に言えば、誰かとの交渉において、断られることを承知の上で、過大な要求をすることを意味する交渉術です。

断られたあとに、はじめの過大な要求と比較して小さなことをお願いすると、後者のお願いはすんなりと通りやすいのです。これは、人間には、誰かの要求を断ることに対する罪悪感(負債感)があるからだと考えられています。相手は、この罪悪感を消そうとして、小さな要求であれば、飲んでくれることが多いというわけです。

この言葉は、英語で「門前払い」を意味する「shut the door in one’s face」が語源であると考えられています。わざと「門前払い」にあってから、再度、小さな要求でチャレンジするということで「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(door in the face technique)」と呼ばれるようになったようです。

この概念が明らかにされた1975年の実験報告

現在、アリゾナ州立大学にて心理学やマーケティングを担当しているロバート・チャルディーニ(Robert Cialdini)教授は、日本でもベストセラーになった『影響力の武器』の著者としても知られている、非常に有名な教授です。

このチャルディーニ教授が、1975年に論文で報告したのが「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」です。背景になった実験が、とても興味深いので、内容について、少しだけ解説をします。

まず、実験者は、大学のキャンパスを歩いている学生に対して、自らのことを「非行少年のためのボランティア活動をしている者」として、偽りの自己紹介をします。その上で「非行少年の相談役としてのボランティア活動を、無報酬で、毎週2時間、2年間やってくれないか?」とお願いをするのです。

これは、かなり厳しいお願いです。ボランティア活動に興味のある学生であっても、毎週2時間を、2年間もの期間ともなると、続けられる自信はないはずです。このお願いは、断られることがわかっている過大な要求になります。

そうして断られてから、では、ということで「非行少年を、週末の2時間だけ、1回きり、動物園に連れてゆくボランティア活動」をお願い(こちらが本命の要求)してみました。すると、このときの承諾率は、50%近い値にまでなったのです。

はじめに、過大な要求をしないで、いきなり、後者の動物園に連れていくボランティア活動をした場合の承諾率は17%程度だったそうです。「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」に従うと、相手に、本命の要求を承諾させる確率が3倍にもなったわけです。

介護の場面における「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」の活用

本当は、デイサービスに通ってもらいたいと考えていたとします。それを、そのままお願いした場合、要介護者に断られてしまうこともあるでしょう。実際に、家族の介護者における悩みの一つが、要介護者がデイサービスに通いたがらないというものです。

もちろん、デイサービスの内容がよくないということもあるかもしれません。しかし、デイサービスがしっかりとしたサービスを提供しており、また、日中どうしても、要介護者の対応ができないというときは、やはりデイサービスを検討することになります。

こうしたとき、もしかしたら「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」が有効かもしれません。つまり、要介護者が絶対に断るような過大な要求をして、いちど、それを断らせてから、デイサービスに通うことをお願いするという方法です。

こうした方法を使うことには、いきすぎたら、倫理的な問題もあると思います。とはいえ、仕事と介護の両立に困っており、要介護者が、どうしてもデイサービスに通ってくれず、危険で不潔な状態(デイサービスの多くには、入浴介助サービスがあります)にあるような場合、最後の交渉手段として知っておくことは、無駄にはならないと思います。

※参考文献
・川名 好裕, 『三段階要請技法について』, 立正大学心理学研究年報 The journal of psychology Rissho University (6), 13-19, 2015

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