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【介護の心理学12】ヒューリスティック(heuristic)

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ヒューリスティック(heuristic)とは?

ヒューリスティックとは、人間に備わっている認知上の特徴を示した言葉です。簡単に言えば、人間は、すばやい判断をするために、正確さを犠牲にして、ある程度のレベルで正解に近い解答を得るための方法を、脳内に構築しているのです。

たとえば、自分に向かって急にボールが飛んできたらどうでしょう。ボールの速度や重さ、周囲の状況などを正確に測定してから逃げていては、間に合いません。そこで人間は、だいたいのボールの速度、だいたいのボールの重さ、周囲の安全性などを瞬時に見極めて、逃げる方向を決めたり、キャッチすることを試みたりします。

ヒューリスティックは、人間が、サバンナにおける狩猟生活をしていた頃から存在していたでしょう。弓矢を引くときに、分度器で正確に角度を測定してから、矢を放つようなことはできません。それでも、悪くない精度で矢は獲物に飛んでいき、獲物を獲得してきたからこそ、私たち人間は今も生きているわけです。

一般的には、ヒューリスティックは「直感」という言葉で知られている概念に近いと思います。「直感」を鍛えることができたら、人生は色々と有利でしょう。こんなことを言うと、オカルトのように感じられるかもしれませんが、実はこの「直感」を鍛えるという方法は、学問的にも探求されているのです。

ヒューリスティック=直感=経験則

弓矢について考えてみてください。はじめて、弓矢を使ったときは、的(まと)に正確に矢が刺さることはありません。しかし、経験を積むごとに、その正確さは高まっていくでしょう。これは、私たちのヒューリスティック、すなわち「直感」は、経験によって鍛えられることを意味しています。

「直感」とは、経験から得られる、すばやく正解に至るための方法と言い換えることが可能なのです。それは、正確な言葉では「経験則」と呼ばれるものです。「直感」=「経験則」というわけです。

自分に向かって飛んできたボールを避けたり、キャッチしたりすることも、たとえば、学生時代に球技をやっている人にとっては、比較的簡単なことです。しかし、まだ球技を知らない小さな子供には、うまくいかない可能性があります。

ビジネスにおいて、経験が求められる背景もここにあります。できるだけ正確に、しかしすばやい判断が求められるのがビジネスです。そうなると、そのビジネスを経験している人のほうが、そうでない人よりも、優れたヒューリスティクスが期待できます。

もちろん、ヒューリスティックは、どこまでいってもヒューリスティックです。弓矢にしても、正確な計測によって矢を放つロボットには、人間は勝てません。ビジネスでも、経験則に頼り過ぎれば、思わぬ失敗をすることは、各所で警告されています。

計算機科学(コンピュータ・サイエンス)におけるヒューリスティック

実は、計算機科学の世界でも、ヒューリスティックは注目を集めています。特に「メタ戦略(metaheuristics)」と呼ばれる分野で、短時間で解答を得るという点は普通のヒューリスティックと同じなのですが、その上で、より正確な解答に近づくための方法です。

実際に、新型新幹線「N700系」のデザインにおいて採用された「遺伝的アルゴリズム」は、この「メタ戦略」を採用しています。新幹線の設計が「経験則」だけで行なわれているとするなら、それは安全上も問題になるでしょう。とはいえ、いつまでも理想の計算ばかりしていては、設計は終わりません。

簡単に言い切ってしまえば、計算機科学が実現しつつある、より正確なヒューリスティックのポイントは、自分の「経験則」だけに頼らないということです。他者の「経験則」も使ったり、本当に大事な部分については「経験則」に頼らないで正確な計算を行ったり、「経験則」から得られた複数の解答について後から正確な計算を行ったり、といったことが行なわれています。

介護の経験ゼロではじまる介護の問題点とは?

介護は、突然はじまります。介護がはじまった直後は、介護の経験ゼロという状態なのが普通です。要するに、介護に関してヒューリスティックを活用しようとしても、多くの人は、経験が足りないため、間違った解答に至る可能性が高いということです。

はじめて弓矢を使う人が、矢を的に当てられないのと同じです。介護がはじまったばかりの人は、やることなすこと、失敗しやすいということでもあります。それも、介護の経験が積み上がれば、徐々に上手くはなっていくでしょう。しかし、それまでの道のりは長く、失敗によっては大変なことにもなります。

そこで考えておきたいのは、計算機科学における「メタ戦略」の概念を、介護のヒューリスティックに活用するということです。経験がないのですから「経験則」であるヒューリスティックは、かなり不正確になります。それを補う戦略は、計算機科学が追求しているものと同じです。

すなわち(1)他の介護者の経験から生まれたヒューリスティックに耳を傾ける→家族会に参加する(2)少しでも科学的に正確な解答に学ぶ→学者の研究成果を勉強する(3)自分のヒューリスティックが正しいのか確認する→介護職に今の対応を相談する、といった「メタ戦略」が大事になってくるのです。

どれも当たり前にアドバイスされていることですが、辛い介護を目の前にしていると、そうしたアドバイスが無意味に感じられることもあると思います。しかし、上記のようなアドバイスの有用性は、ヒューリスティックという側面から、ある程度までは正しいと結論づけることも可能なのです。

※参考文献
・今堀 慎治, 『メタ戦略の新展開』, 2009年5月30日, SCOPE

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