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【介護の心理学11】アタッチメント(attachment)

アタッチメント(attachment)

アタッチメント理論の高齢者研究への応用

「アタッチメント」とは、日本語では「愛着」を意味する言葉です。イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)によって提唱された概念で、後に、心理学(認知心理学、精神分析など)や生物学(動物行動学、進化生物学など)の世界にまで広げられました。

たとえば、乳児(生後1年程度までの子供)の場合、自分が外界に何かを働きかけたとき、それにタイミング良く反応する相手に対して「アタッチメント」を形成することが知られています。子供は、こうして「アタッチメント」の対象となった相手を「いつでも逃げ込める安全基地」としつつ、外界の探索活動を活性化させます。この探索活動が、子供の好奇心をさらに刺激し、後の自立につながっていくことは明らかでしょう。

こうした「アタッチメント」に関する研究は進み、現在では、その体系は特に「アタッチメント理論(愛着理論)」として、様々な分野に応用されています。そうした中の一つとして「アタッチメント理論」によって、人間の高齢者を考えるという研究領域があります。

高齢者とアタッチメント理論

高齢者であっても、乳児と同じように「アタッチメント」を感じられる存在があってこそ、積極的な外界の探索活動が継続でき、豊かな老後を送ることが可能になるでしょう。こうした高齢者における「アタッチメント」の研究の中には、研究者でなくても、いくつか知っておくべきことがあります。それらを、以下に簡単にまとめてみます。

1. 関係性が30年以上続く人が中心(コンボイ・モデル)

高齢者が「アタッチメント」を感じているのは、家族を中心として、関係性が30年以上続く人だという研究結果があります。ここで、そうした長期に及ぶ関係性が構築されている人と、仕事上の関係がある場合は、むしろ危険ということも指摘されています。

これは、仕事上の関係がある人とは、仕事を引退すると、その関係性が簡単に解消されてしまうからです。こうしたことから、私たちが、特定の高齢者を理解しようとするとき、その高齢者に、仕事を離れた、30年以上続く人間関係がどれくらいあるかという点に注意を払う必要があることがわかります。

2. アタッチメントの大小による人生満足度の違い

高齢者は、自立的で情緒が安定している「安定型」と、依存的で情緒が不安定な「不安定型」に分類することが可能です。そうした分類をした場合、当然のように「安定型」のほうが幸福感が強く、元気でした。

ここで「安定型」は、先に示したような30年以上続く関係性を持っていることが多いということがわかっています。「アタッチメント」を感じる大切な他者の存在があればこそ、自立的に行動できるのは、乳児と似ています。

さらに「安定型」にある高齢者は、危機的な状況においては、自分を助けてくれる人がいて、また、そうした人を逆に助けることもできると考えていました。これが、情緒の安定につながっていることは、容易に想像できます。

「安定型」にある高齢者は、不必要なケアは求めず、それが必要なときは、自らそうしたケアを他者から引き出すこともできるという仮説も研究されています。ここでは、豊かな「アタッチメント」があればこそ、長く、幸福で、健康な人生を送れる可能性が高まると考えられています。

3. 親子のアタッチメント逆転としての介護

「アタッチメント」は、もともとは、乳児が親に対して感じるものとして研究されてきました。これが、高齢者が、自らの子供に対して「アタッチメント」を感じ始めるという逆転が、近年、研究対象としての注目を集めているようです。

まず、親に対して十分な「アタッチメント」を感じてきた(成人になっている)子供は、親の介護に際して、その負担感を感じることが少なく、積極的にケアを行っていることがわかっています。別の研究でも、こうした子供は、介護において感じるストレスや鬱も少ないということが確認されています。

また、文化的な背景についても配慮が必要です。「子供や孫といつも一緒に生活していたい」と考える60歳以上の人の割合は、日本54.2%、韓国54.6%、タイ61.1%なのに対して、ドイツ13.4%、アメリカ4.0%という違いがあります。日本、韓国やタイでは、親子のアタッチメント逆転が正常に発生しない場合、不幸な高齢者が生まれやすいと解釈することが可能なのです。

介護に対してアタッチメント理論が示唆すること

結局、親子の関係性の歴史が、介護のありかたを決めているということです。その歴史の始まりには子供から親への「アタッチメント」があり、歴史の終わりには親から子供への「アタッチメント」があります。

どちらか片一方だけが上手くいくということはないという点が、大事なところです。つまり、子供が小さかったころ十分に子供を愛した親は、自分が介護されることになっても子供を頼れる可能性が高く、それが幸福感につながるということです。

もちろん、親による子供の保護と、子供による親の介護には、たくさんの違いもあります。同時に、生命を保護し、発達を即し、社会に受け入れてもらえるように促すといったことは、立場が逆転しただけと見ることも可能です。

子育てと介護において、違いは違いとして慎重に切り分けたとき、そこに見えてくる共通点となるのが、まさに「アタッチメント」という概念なのです。

※参考文献
・菅沼真樹, 『愛着理論から見た老年期』, 東京大学大学院教育学研究科紀要, 第41巻(2001年)

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