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神奈川県がシルバーベンチャー支援。そのディープすぎる背景を妄想する(ニュースを考える)

神奈川県がシルバーベンチャー支援

高齢者の起業支援(シルバーベンチャー支援)は成功するか?

神奈川県が、高齢者の起業支援(シルバーベンチャー支援)に乗り出します。この試みは成功するのでしょうか。以下、毎日新聞の記事(2016年2月14日)より、引用します。

県は来年度から、高齢者による起業を支援する「シルバーベンチャー」事業に乗り出す。企業を退職した高齢者の間で高まる起業意欲に応える一方、経済の活性化にもつなげようという試み。高齢者の就業支援をメインとする自治体が多いなか、高齢者に特化した起業家育成事業は珍しいという。同事業は15日開会の県議会に提案される。(中略)

国の中小企業白書によると、60歳以上の起業家は年々増えている。2012年は、過去1年間に自営業主になった起業家のうち、60歳以上が32・4%を占め、92年(14・2%)から20年で20ポイント近く増えた。起業を希望する60歳以上も、92年の5・9%から、12年は15・5%まで伸びている。団塊世代の大量退職時代を迎え、県は起業意欲を持つ高齢者のさらなる増加が見込まれることなどに着目したという。

一読すると良い話のように思えます。企業を定年退職した高齢者の退職金とノウハウを活かし、新たな雇用を生み出しつつ、高齢者主導による地域活性化にもつながるイメージもあります。しかし、これは行政の本音でしょうか?もう少し考えてみる必要がありそうです。

起業は「ハイリスク商品」であるという真実が伝えられていない

起業をして成功するのは、本当に一部です。起業しても、10年後には3割が、20年後には5割が倒産・廃業となります(ネットでよく見かける1年で6割が倒産というデータは都市伝説なので注意してください)。若い会社は、倒産・廃業とはならないまでも、零細の状態でギリギリ飛んでいる会社がほとんどです。

起業とは、言って見れば「ハイリスク商品」です。それを買って当たれば大きいのですが、ほとんど外れる金融商品だと考えると、イメージがつきやすいでしょう。個人にとっては厳しい商品ですが、この「ハイリスク商品」が多くの人に購入されることには、社会的な意味があるのです。

「ひと山、当ててやるか!」と意気込んで、そこに退職金をつぎ込む高齢者が増えると、何が起こるでしょう。起業しなければ銀行に眠っていたであろうお金が、従業員の給与や、様々な経費に化けるのです。結果として、お金のある高齢者から若者のほうに資金が流れます(トリクルダウン)。

雇用というのは、天然資源ではなく、顧客のお金と、こうして「ハイリスク商品」を買った人(起業家・投資家)のお金でできています。ですから、高齢者に限らず、多くの人が起業する社会というのは、お金がグルグル回って、雇用が増えていくという良い循環になるのです。この意味では、起業家はもっと感謝されてもいいと思います。

しかし「起業がカッコイイ」ということはありません。そういう空気を政治家や官僚が作り上げ、また、起業家が自らの選択を信じたいがために「起業がカッコイイ」ということにしようとしているだけです。しかし、ビジネスはファッションではないので、そうした空気に流されると痛い目を見ます。

神奈川県による今回の政策を深読みすれば、高齢者の間に「起業がカッコイイ」という空気を作ろうとしているように見えます。特に、退職後は肩書きもなくなり、家にいても暇なので、自尊心をくすぐれば、高齢者(特に男性)が起業に向かう可能性が高いというヨミには、マーケティング的なセンスを感じます。

ただ、賢明な高齢者は、起業で資金を溶かすべきではないことに注意すべきでしょう。起業するにせよ、後の医療費や介護費などを考えて、無理な投資をしないように心がけてください。一旦はじめると、責任感から後には引けなくなって、泥沼化することもあります。

また、起業よりも撤退の決断のほうが難しいので、はじめから1年以内にこれだけの売り上げに行かなければ撤退といった基準を作っておくほうが無難です。とにかく、起業は「ハイリスク商品」です。かけたお金は、まず戻ってこないという覚悟が必要です。

それでもなお(若手には)起業をすすめたい理由

起業をすると「起業がカッコイイ」という幻想がスッパリと消えます。そんなに甘くないからです。また、いわゆるサラリーマンとは違って、一つ一つのビジネスに必死になるので、ビジネスパーソンとしての成長の速度が高まります。

とはいえ、起業をしても、せいぜいが零細で、大成功することは(まず)ありません。だからこそ自分の実力がわかり、真面目に勉強をする気持ちもわいてきます。そこから雇用のありがたさや、過去にバカにしていたような企業の「本当のすごさ」を素直に認められるようにもなります。

自らの青臭い奢りを叩き、成長し、勉強へのモチベーションを高める機会だと思えば、起業には大きな意味があります。結果として成功するかもしれませんし、そのときは、自らの運の良さを喜べばいいだけです。長期的には、起業をして何度か失敗しているほうが、ビジネスの実力はつくでしょう。

ただし、起業するときは(1)資本金をかけすぎないこと(2)お金を借りすぎないこと(3)ちょっと成功したところで人を雇いすぎないこと、を心がけてもらいたいです(自らの失敗体験から書いています・・・)。

可能なら(職場が副業を認めてくれるなら)日中は普通に会社勤務をしながら、夜間と休日を利用して起業してみるほうがリスクを下げられます。

若手のころから起業をしていて、十分な経営経験があるなら、高齢者になってから再度起業をしても、大変なことにはならないでしょう。しかし、経営経験のない状態からいきなり起業をするのは、あまりおすすめできません。

ある意味で、シルバーベンチャー支援は成功するかもしれません。しかしそれは、高齢者による起業が大成功するということではありません。マクロな目線からみたときに、トリクルダウンが起こせるという意味での成功です。

※参考文献
・毎日新聞, 『シルバーベンチャー 県が高齢者起業支援、来年度から事業 経済の活性化にも/神奈川』, 2016年2月14日
・中小企業白書, 『経済成長を実現する中小企業』, 2011年

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