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定年の引き上げによる恐ろしい未来

定年の引き上げによる恐ろしい未来

定年延長における議論の背景

日本の社会保障財源が厳しい状態にあることは、誰もが認識していることでしょう。現状をみると、もはや、社会保障財源そのものを増やしていくアプローチは絶望的であり、沈みゆくタイタニック号で救命ボートを奪い合っているような状態です。

奪い合いだけならまだしも、救命ボートそのものも、削減の対象になっていることは、非常に恐ろしいことです。いうまでもなく、社会保障とはセーフティーネットであり、誰もが、ちょっとした不運によって必要とするものです。そんなセーフィティーネットの品質は、今後、どんどん劣化していくことでしょう。

そうした救命ボートの劣化シナリオのひとつに、定年延長の議論があります。着地としては、定年が75歳になり、年金支給も75歳からになるというところに向かっています。いっけん、定年延長は悪いことではないように思われます。しかしこれが現実となった場合、何が起こるのか、よく考える必要もあります。

定年延長のメリット

現在、国側からは、定年延長のメリットばかりが強調されています。こうしたメリットは、嘘ではありません。問題は、デメリットについての議論が足りていないことです。まずは以下、ロイターの記事(2019年2月8日)より、一部引用します。

政府のマクロ経済運営の基本方針を議論する経済財政諮問会議で、定年年齢を70歳まで引き上げた場合の経済効果に関する議論が始まった。就業者は217万人増、消費が4兆円増加し、社会保険料収入も2兆円超増加という「明るい未来」を描いた試算が提示された。

しかし、企業側からは早速、人件費増への強い懸念が示されたほか、民間エコノミストからは、定年延長による社会保障会計改善の意図が透けて見えるとの指摘もあり、法制化までは紆余曲折が予想される。(後略)

定年延長のデメリット

定年延長のデメリットは、なんといっても、年金支給の年齢が上がることです。それはわかりやすい形ではなく、たとえば、仕事をしている人の年金を大幅に減額するような方法で、実質的にもらえる年金の総額を小さなものにする方向で調整されていくことでしょう。

この点については、国側の立場からすれば、もはや仕方のないことです。社会保障財源が足りないのですから、1人あたり換算でもらえる年金が減るということは、今後避けられないことだからです。この点について、国を批判しても、大きな意味で改善策はありません。

それ以上に問題なのは、定年延長によって確保される高齢者の雇用は、誰かの雇用の犠牲の上にしか成立しないことです。高齢者の定年延長の分だけ、若者のの雇用が減らされ、雇用されたとしても、その雇用条件はいまよりも悪いものになるのは確実です。

限られた正社員のため多くが犠牲に

当然ですが、こうした定年延長の話が適用されるのは、正社員だけです。しかし本当に社会保障を必要とするのは、非正規労働者のほうです。こうした定年延長の議論は、すでに相当守られている正社員を相手にしたものであり、非正規労働者のためのものではありません。

今後はさらに、人工知能(AI)の実用化にともなって、必要とされる正社員の数は減ると予想されています。予測によれば、2030年の時点で、740万人の仕事が人工知能によって奪われるとされています。そんな状態で、正社員だけが75歳まで守られるような状態を維持すべきなのでしょうか。

定年延長の議論は、人手不足が慢性化している社会では、受け入れられるでしょう。しかし今後は、どこかの時点で、人あまりの環境になっていきます。そのとき、定年延長は、限られた正社員のために、その他多くの人を犠牲にする制度になりかねないのです。

定年延長かベーシックインカムか

定年延長に関する法律が、駆け込みで成立してしまえば、ここまで述べてきたようなデメリットは顕在化することになります。これは弱者切り捨ての方向であり、日本を分断する恐ろしい事件となるでしょう。とはいえ、正社員のポストは奪い合いになるため、正社員の雇用条件も悪化します。

ただ、これから不況になっていく中で失業率が高まれば、定年延長という話はたち消えになっていくと思われます。「失業者がいるのに、定年延長はおかしい!」というロジックは、非常に通りがよいからです。定年延長どころか、そもそも雇用がないという未来においては、ベーシックインカムしか対応策がありません

問題は、ベーシックインカムの財源確保です。この財源の確保には、既存の社会保障財源では足りず、公務員の人件費はもちろん、様々な国の歳出をしぼらないと不可能です。そうしてギリギリの改革をしても、ベーシックインカムとしてもらえる金額は、それほど多くはならないでしょう。

ベーシックインカムが保守本流だが・・・

長期的に日本の未来を考えた場合、ベーシックインカムが保守本流になっていくと考えられます。ただ、その未来は、それほどバラ色なものではありません。仮に財源が確保できたとしても、ベーシックインカムへの移行期には、極端な増税によって多くの人の給与が減らされるため、住宅ローン破綻が激増してしまいます。

それを金融機関の負担とすれば、金融機関が破綻してしまいます。だからということで、個人の負担ということにしても、そもそもお金がないところから、お金をとることはできないでしょう。そうなると、金融機関からすれば、ベーシックインカムの導入は、不良債権の激増を意味してしまいます。

個人としてこうした未来に備えるには、資産を防衛しながら、貯蓄を増やすしかありません。それはすなわち、消費が減るということです。消費が減れば、景気はさらに悪化するでしょう。この悪循環により、財源が確保できなくなったとき、ベーシックインカムは夢と消えます。その後に残るのは、極端な貧困社会です。

※参考文献
・ロイター, 『焦点:政府が70歳定年へ効果試算、75歳も視野 にじむ年金改革の思惑』, 2019年2月8日

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