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認知症ケアの訴訟リスク対応、自治体の格差が生まれている(葛飾区の優れた対応)

認知症ケアの訴訟リスク対応、自治体の格差が生まれている(葛飾区の優れた対応)

認知症ケアには訴訟リスクがつきまとう

今から10年以上前、2007年の愛知県で、認知症の高齢者が電車にひかれ、亡くなりました。JR東海は、これを家族の責任として(振替輸送などにかかった費用について)損害賠償を求めました。一審(地裁)、二審(高裁)は、この求めに対してJR東海の主張を認め、家族の責任という結論を出しました。

この一審では、電車にひかれた高齢者の夫(当時91歳, 要介護4)の妻(当時85歳, 要介護1)とその家族に対し、720万円の支払いを命じたのです。続く二審では、これを妻の責任に限定し、320万円の支払いを命じています。そして最高裁は、家族の責任を不問とし、JR東海の請求を棄却しています。

最高裁の判決は、家族の責任を問わないものだったので、認知症ケアに関わる人々は、ホッと胸をなでおろしました。しかし同時に、今後こうした訴訟が頻発し、着地として賠償責任が家族に発生する可能性が、認知症ケアのリスクとしてはっきりと認識されることにもなったのです。

東京都の葛飾区が画期的な対応策を打ち出す

こうした認知症ケアに関連する訴訟リスク対応について、すでに福岡県の久留米市は、自治体としての支援策をまとめ、発表しています。そして今回、東京都の葛飾区もまた、画期的な対応を発表しました。以下、日本経済新聞の記事(2019年2月7日)より、一部引用します。

東京都葛飾区は認知症の高齢者を対象に、無料で損害保険に加入してもらう事業を始める。徘徊(はいかい)で鉄道事故を起こし、鉄道事業者から家族に多額の賠償を請求されるケースに備える。万一の事態に備え、家族の不安・負担を減らしたい考えだ。(中略)

加入する保険の補償内容は線路に立ち入って電車を止め、列車の運休を引き起こして営業損害が発生した場合に最大5億円。車道への飛び出しによる交通事故などで、本人の死亡や後遺症が発生した場合に最大50万円など。(後略)

本来は国が対応すべき案件ではないか

久留米市や葛飾区が優れた施策を打ち出している一方で、こうした認知症ケアにおける訴訟リスク対応は、自治体によって格差が生まれてしまっています。このリスクに対応できていない自治体では、認知症の高齢者の隔離や拘束の必要性が高まってしまっているのです。

今回のニュースは、交通機関の周辺における訴訟リスクがクローズアップされていますが、病院内での認知症高齢者の転倒でも、病院側に2,770万円の賠償命令が出ていたりします。今後は、レストランなどでも同様の訴訟が起こされていくでしょう。

これは、国家の一大事です。国が対応してくれない場合、病院やレストランの経営者は、恐ろしくて、認知症の高齢者を受け入れることができません。家族は、企業からの損害賠償の請求が恐ろしくて、認知症の高齢者を外出させることができなくなります。

国を相手取った訴訟が発生していくだろう

認知症になったら、外出することができなくなる社会が、私たちの未来だとするならば、やりきれません。そして認知症に苦しむ高齢者は、2025年で700万人になると予想されているのです。認知症一歩手前の軽度認知障害(MCI)まで含めると、この数字は1,300万人にまで跳ね上がります。

とにかく今後は、認知症に苦しむ人が急増し、その介護を担う家族の負担が大きくなっていくことは避けられません。これは、日本全体で共通して言えることであって、自治体レベルで対応を分けていくような案件ではないと思います。

この先の話なのですが、今後は、このような訴訟の結果として、損害賠償を支払えない家族も出てくるでしょう。そうなると、訴える側は、その責任を国に求めていくというのが当然の流れです。いずれにせよ、国としてどう対応していくのかが強く社会から問われていくのは時間の問題です。

※参考文献
・日本経済新聞, 『認知症高齢者、無料で保険に 東京・葛飾、事故に備え』, 2019年2月7日

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