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国民皆保険(こくみんかいほけん)の成功と終焉

国民皆保険(こくみんかいほけん)の成功と終焉

国民皆保険(こくみんかいほけん)の成功

日本には国民皆保険(こくみんかいほけん)とよばれる制度があります。これは、国民であれば、病気になって医療が必要になれば、誰もが、その費用を国に負担してもらえる(他の国民の保険料に依存できる)という制度です。当たり前のようになっていますが、世界的には決して当たり前ではありません。

先進国であっても、民間の保険に加入しないと完全に自己負担になるところや、無保険者が多数いるようなところもあります。日本の医療制度は、世界でも成功例として知られており、その結果が、世界でも有数の長寿国というわけです。

そんな日本でも1955年ごろまでは、国民の3分の1が無保険の状態だったのです。貧しいと、病気になっても放っておくしかありませんでした。これが問題視され、1958年には法律(国民健康保険法)が制定されました。そして、誰でも、いつでも、どこでも、保険で医療が受けられる国になりました。

どんどん膨らむ国の医療費

しかし、日本の高齢化にともなって、医療機関の利用が増えていきました。2015年には42.3兆円だった医療費は、2020年には48.8兆円、そして2025年には57.8兆円にもなると予想されています。この約6割を、高齢者の利用が占めているのです。

日本の税収(一般会計の歳入)は、2015年の実績で約55兆円です。今後、税収が劇的に改善しない場合、私たちの納める税金の全てが医療費に消えてしまうことになります。そして2025年には、そもそも医療費さえ支えきれなります。

こうした未来に備えるため、税金の無駄遣いを抑制したり、増税が行われたり、保険料がどんどん上げられています。同時に、上がり続ける医療費も抑制する必要があるでしょう。そこで、国民が医療を使うときの自己負担部分も上がって行かざるを得ないのです。

国民皆保険の実質的な終焉に

そうして、いよいよ手がつけられることになったのは、医療を受けること自体を抑制しようとする動きです。実際に、過剰な診療や通院は、医療費を急増させる原因となります。以下、読売新聞の記事(2018年10月10日)より、一部引用します。

財務省は9日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で、かかりつけの医師以外で受診した場合に患者の自己負担を増やす制度や、新薬の保険適用の際に費用対効果の検証を導入することなどを提言した。少子高齢化で膨張する社会保障費を抑制する狙いがある。(中略)

政府は、医療費を押し上げる要因となる過剰な通院や受診を減らすため「かかりつけ医」や「かかりつけ薬剤師」への受診を推奨している。改革案では「少額の受診に一定程度の追加負担を求めていくべきだ」とした。(後略)

医療の素人は、どこからが過剰な受診なのかを判断できません。そこで、窓口となる「かかりつけ医」を設定し、できるだけ「かかりつけ医」のところで、診療を終えてしまうことを目指しています。他の診察は、そこからの紹介状がなければ、高額な初診料がかかるという形になっていきそうです。

さらに、高額医療品は、保険の適用外となりそうです。高額医療品に頼らないと、生きていられないような人もいるはずで、これはかなり突っ込んだ変更です。こちらに関しては、毎日新聞の記事(2018年10月9日)より、一部引用します。

財務省は9日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会を開き、医療、介護にかかる費用などを抑制する社会保障改革案を提示した。高額医療品への保険適用の除外を検討することや、高齢者の医療費の自己負担増などが柱。(中略)

財務省は、高額化する最新の医薬品や医療技術について費用対効果なども考慮して保険適用の可否を判断するよう提案した。また、75歳以上の後期高齢者について、医療費の自己負担を現行の1割から2割に引き上げることや現役世代と同じ3割負担を求める「現役並みの所得」の判定基準を厳格化する案も示した。(後略)

これは、誰でも、いつでも、どこでも医療が受けられるという国民皆保険の実質的な終焉を意味してもいます。富裕層であれば、高額な初診料は気にせず、同じ状態を維持できます。しかしお金がないと、上昇していく自己負担と合わせて、どんどん医療が受けられなくなっていくのです。

国民皆保険という制度の運命

国民皆保険というのは、制度を導入すれば、長寿化が進み、結果として医療費が高騰し、そうして制度自体が維持できなくなるという運命を持っていたとも言えます。これを維持するためには、子供がどんどん生まれる社会の実現が必要だったのですが、日本は、それには成功しませんでした。

1955年以前の、多くの人が無保険だった時代よりはよいかもしれません。しかしそれでも、日本の社会福祉は、これから大きく後退していくしかありません。「そんなのひどい」と批判しても、納めている税金以上に、使う税金のほうが多い人が大多数になってしまった国ですから、どうにもなりません。

希望があるとすれば、ここから、日本全体の生産性が急増し、多くの国民の所得があがり、そこからの税収も増えて、国民皆保険が維持されていくことです。現代の働き方改革は、ともずれば残業抑制のように見えてしまうかもしれません。しかしその本質は、こうして希望として求められている生産性革命であることを忘れてはならないでしょう。

※参考文献
・健康保険組合連合会, 『2025年度に向けた国民医療費等の推計』, 2017年9月
・読売新聞, 『「かかりつけ医」以外受診は負担増・・・財務省提言』, 2018年10月10日
・毎日新聞, 『高額医療品の保険除外、高齢者の医療費負担増を提案』, 2018年10月9日

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