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物価が安くて、お金がなくても暮らせることは、良いことだろうか?

物価が安くて、お金がなくても暮らせることは、良いことだろうか?

地方暮らしにはお金がかからない?

Uターン、Iターンや、地域活性化という掛け声のもと、少なからぬ人が都会を離れ、地方で暮らすことも増えてきました。このなかには、もちろん、介護のために都会での仕事をあきらめ、親の地元で新たな職を見つけるというケースもあります。

そうして地方暮らしをはじめた人々からは「都会よりも物価が安いので、それほどお金がなくても暮らせる」「ご近所から、おすそ分けとして色々な食材がもらえるので現金が必要ない」「仕事ものんびりしていて、都会で暮らしていたころよりもストレスが少ない」といった話を聞くことがあります。

こうした話は、個別には素晴らしいことです。ただこれは、典型的な「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」となる可能性がある話でもあります。こうして、地方で安く暮らす人が増えるということは、日本の国力にとってはかなりの打撃になってしまうからです。

もちろん、私も安くて良いものが好きです。ただ、本質的には、良いものは高いということに納得できないと、おかしなことになります。それは、優れた仕事が安く買い叩かれるという状況に直結しているからです。この点について、以下、もう少し詳しく考えてみます。

ある地方の地元で愛されていた居酒屋の閉店

ある地方に、地元で愛されていた居酒屋がありました。この地元でとれる良い食材を、とても安価に提供していたため、地元の人は長くこの居酒屋に通っていました。私は、この地元の人々とつながりを持っていたため、地元の人しかほとんど知らない、この居酒屋のお世話になっていました。

この居酒屋は、本当に美味しいし、価格も驚くほど安かったのです。お店は、自宅を改装したもので、ご夫婦で切り盛りしていたので、家賃や人件費も安く抑えられたからでしょう。地元の人々は、この居酒屋を愛しており、よそ者には、この居酒屋の存在を教えたがらない雰囲気でした。

この地方の目抜通りには、他にも、たくさんの居酒屋があります。しかし、こうした居酒屋は、オーナーはすでに地元を離れていたりして、値段はそこそこ高いのに、味は、先の地元で愛されていた居酒屋とほとんど変わらないレベルでした。それで私は、この地方に出張をするときは、決まって、地元で愛されていた居酒屋のほうに行っていました。

しかしこの居酒屋は、昨年末で、閉店してしまっています。その本当の理由はわかりません。ただ、この居酒屋を経営していたご夫婦には借金もあり、後で聞いた話では、ご夫婦はいま、少し離れたところにある会社に雇われ、働いているということでした。それだけが理由ではないかもしれませんが、とにかく、お金は十分ではなかったわけです。

私は「そんなに大変なら、もう少しお金を取ってもよかったのに」と、目抜通りにある高いほうの居酒屋で、地元の人と話をしました。当たり前の話なのですが、利益が出ないと、お店は続けられません。また、利益がでないと、バイトも雇えません。バイトによい時給を支払えない地方が衰退するのも当然です。

安くて良いものを求める人々が、地域を破壊する

結局、安くて良いものを求める人々の空気が、この居酒屋をつぶしてしまった原因の一つなわけです。これは、この居酒屋に限った話ではありません。安くて良いものばかりが求められる社会では、雇用が生まれません。雇用が生まれないと、人々は、その地方を離れていきます。そうして地元の経済は、少しずつ破綻に向かって行くのです。

地方での生活は、東京のように、多くのお金を必要としないというのは、本当は事実ではありません。日本には地方交付税という制度があり、東京で吸い上げられた税金が、日本全国の地方の財源として分配されています。この地方交付税がなければ、地方という社会は、ほとんど成立しないのです。

そもそも、道路、橋やトンネル、電力、病院や介護施設、警察や消防などなど、社会の維持には、多くの税金が必要になります。そうして、国民1人あたりの維持に使われている税金以上に、個人が税金を納められないところは、例外なく衰退することになるでしょう。

一説に、年収900万円程度が実現できてはじめて、その人は、支払っている税金と、使っている税金がトントンということになります(担税力)。「給与はそんなにもらえなくても生きていける」のは、ご先祖たちまで含めて、他の誰かが支払っている税金に依存できているからにすぎません。

現代は、そうして依存する側になってしまっている人が増えています。結果として、税収が足りず、日本の社会福祉は、どんどん劣化しているというのが現状なのです。それを理解した上で、私たちは、自分の人生を考えていかないとなりません。安くて良いものばかりが求められる状況というのは、本当は恐ろしいことなのです。

地域活性化という文脈において、もっとも重要な指標となるのは、その地域の平均年収です。その基礎となるのは、優れた仕事が安く買い叩かれないという労働市場です。そうして十分な年収が得られる場所には、人が集まります。そして条件のよい雇用も生まれ、教育のような長期投資も活発になり、本当の意味で活気のある状態ができるのです。

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