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現時点での外国人労働者の受け入れ、介護業界の改善には逆行となる?

現時点での外国人労働者の受け入れ、介護労働の待遇改善には逆行となる?

移民の受け入れに大きく舵が切られた

日本はこれまで、原則として移民を受け入れてきませんでした。しかし、現在のあまりに深刻な人手不足を受けて、この原則が大きく変更されました。実質的な移民の受け入れです。以下、産経ニュース(2018年6月7日)に掲載された、施光恒准教授(九州大学)による論考より、一部引用します。

政府は5日、経済財政運営の指針「骨太の方針」案を提示した。新しい外国人就労政策が盛り込まれている。介護、農業、建設など5分野を想定し、新しい在留資格を創設する。これまで原則上、認めてこなかった外国人単純労働者の受け入れへと舵を切り、平成37(2025)年までに50万人以上の受け入れ目指すという。(中略)

安価な労働力の確保のため、日本語能力のハードルを下げた。求められるのは、日本語能力試験の「N4」で、これは「ややゆっくりとした会話であれば、内容がほぼ理解できる」水準である。さらに建設および農業の分野では「N4」も求めない。日本語の日常会話もままならない者の就労も認めるというのだ。(中略)

経済的には、大規模な外国人単純労働者の受け入れは賃金の低下を招く。デフレ不況が長らく続く日本経済だが、デフレ脱却に必要なのは賃金の上昇と、それに伴う人々の生活の安定化だ。(後略)

これによって人手不足が解消されたら・・・

人手不足は、解消されなければなりません。しかし、外国人労働者の受け入れによって人手不足が解消されてしまった場合、なにが起こるでしょう。まず、人手不足を補うための生産性向上が鈍化します。また、賃金の向上によって人材を確保しようとする企業のインセンティブも失われます。

長期的には、こうした形での外国人労働者の受け入れは、日本の国力を低下させてしまいます。この失敗は、ヨーロッパなどで観察された現象なわけですが、どういうわけか、日本はこの方向に舵を切ってしまったのです。

もちろん、外国人だからいけないという差別をしたいのではありません。長期的には、移民を進めることは重要です。差別ではなくて、本来は、低賃金な労働が強いられるようなビジネスモデルに構造的な改善がもたらされないままに、外国人労働者の搾取によってなんとかしようとする日本のありかたを問題視しています。

奴隷労働の先にあるのは日本ブランドの消失である

世界168か国が批准している国際人権規約(2015年8月時点)は、日本も批准しています。こうした批准国の人権がどうなっているかを調査しているのが、自由権規約委員会です。この委員会は、これまでなんども、日本に対して、外国人労働者の扱いが奴隷労働であり、それを改善するように勧告しています。

いま、日本は、こうした状況を改めないままに、これまでとは比較にならない規模で、外国人労働者を受け入れることを決めたわけです。これは「日本はひどい国だ」という印象を、より多くの外国人に植え付けることにつながるのは明白でしょう。結果として、これまで築いてきた日本ブランドが失われます。

ブランドの重要性は、あらためて強調するまでもないでしょう。簡単に言うなら、ブランドがあれば、商品はより高く売ることができ、営業する必要が少なくてすむのです。要するにブランドは、利益の源泉という意味をもっています。これが失われることの恐怖を、私たちはもう少し強く認識してもよいと思います。

どう考えても順番が逆ではないか?

介護職の待遇改善のための財源確保、そのための痛みをともなう財政改革がないままに、外国人労働者の受け入れが決まってしまったのです。介護業界の賃金上昇がないままに、そこに外国人労働者がやってきて、なにが解決するのでしょう。

介護現場には、今後、様々な専門性に加えて、異文化コミュニケーション能力まで求められるようになります。追加能力が求められるのに、賃金の上昇はないのです。そうした現場からは、介護労働者が逃げ出していくことも容易に予想されます。結果として、介護人材の労働力不足は思ったほどには解消されないはずです。

結局、介護業界に流れるお金の総量が増えないと、この問題は解決しないのです。まずは、高齢者を一律に弱者として扱うのをやめて、お金のある高齢者からは、より多くの介護の費用を出してもらう(極端には、全額自己負担としてもらう)ことが必要です。そうした変革をしないままに、外国人を受け入れるのは、問題が多すぎると考えます。

※参考文献
・産経ニュース, 『外国人就労拡大 「国民の安寧」への打撃』, 2018年6月7日

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