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認知症の徘徊事故、行政が家族の代わりに保険加入

認知症の徘徊事故、行政が家族の代わりに保険加入

認知症の徘徊事故をめぐる裁判

認知症になってしまうと、徘徊(あてどもなくウロウロすること)をするケースが増えます(注1)。日本における行方不明者の10%以上が、この認知症を原因とする徘徊にあることは、もっと広く知られてもよいことでしょう。

認知症の夫(当時91歳, 要介護4)が起こした徘徊事故の責任が、妻(当時85歳, 要介護1)の管理責任に問われた裁判がありました。この事故の責任は、最高裁まで争われ、結果として、家族の責任はないことが逆転勝訴として確定しています。

この裁判によって、これから、認知症の徘徊事故をめぐる裁判がなくなるわけではありません。今後も、同様な裁判が続いていくことは避けられず、認知症の介護に苦しむ家族のリスクは、これからも継続してそこに存在しています。

訴訟や賠償の費用をカバーする保険

ところが一般には、認知症の介護に、このようなリスクがあるということは知られていません。しかし、今の日本では、介護に苦しむ家族のところに、裁判という負担がのしかかってくる可能性があるのです。このリスクを少しでも低減しようと、動き始めている自治体があります。以下、西日本新聞の記事(2018年6月1日)より、一部引用します。

福岡県久留米市は31日、認知症患者が徘徊(はいかい)中に鉄道事故などに遭い、家族が賠償請求された場合に備え、市が代わって損害保険に加入する事業を10月に始めると発表した。自宅で介護する家族の不安を軽減するのが目的。自転車事故や物を壊した場合にも適用し、保険料は市が全額負担する。(中略)

保険の対象は若年性を含む認知症患者で、医師が日常生活に支障を来していると診断した40歳以上の市民。家族が市に保険加入を申し込むと、事故などで賠償を求められた場合に最大で3億円が支払われる。保険は市が民間会社と契約し、掛け金は1人当たり年約1500円。個人加入に比べ割安になる。(後略)

介護保険の枠内に入れるべきではないか

先の福岡県久留米市の取り組みは、素晴らしいものです。同時に、こうしたリスク回避の施策が、住んでいる自治体によってあったり、なかったりする部分です。しかし、このリスクは、認知症の介護を行うすべての家族に存在しているのですから、これはおかしなことです。

本来であれば、こうした訴訟や賠償の費用は、一括で、通常の介護保険の枠内にあってしかるべきでしょう。集団で加入したほうが割引もきくわけで、財源としても有利なはずです。福岡県久留米市も、この財源の大元は税金なのです。一つの地方自治体にできて、国にできないはずがありません。

日本では、介護をめぐる痛ましい事故や事件が後をたちません。その背景には(多くの場合)構造的な問題があるにも関わらず、日本では、個別の問題として処理されてしまう傾向があるように思います。しかしそれでは、日本はよくなっていきません。今回の保険の話もまた、個別ではなく、国としての対策が求められることの一つでしょう。

(注1)認知症になったからといって、あてどもなくウロウロすることはなく、背景にはなんらかの理由があることが知られています。ですから徘徊という言葉には差別的な問題があることは注意しておきたいです。ただ、他に伝わる言葉が定着していないため、ここではあえて徘徊という表現を使っています。

※参考文献
・西日本新聞, 『認知症患者の保険、市が加入 徘徊中の事故に備え、家族の賠償支援へ 久留米市、九州では初』, 2018年6月1日

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