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「敬老パス事業費」が年間100億円を超える自治体もある

「敬老パス事業費」が年間100億円を超える自治体もある

敬老パス事業費とは?

少なからぬ自治体には、高齢者であれば定額でバスや電車などの公共交通が乗り放題となる「敬老パス」と呼ばれる制度があります。名称や中身は様々ですが、2011年の時点では200を超える自治体で、この制度が適用されています。

自治体からは毎年「敬老パス事業費」として助成金があてられています。古いデータ(千葉県バス協会, 2011年)しか手元にないのですが、東京都は年間157億円、仙台市は年間21億円、川崎市は年間15億円、広島市は年間4億円と、自治体によって助成される金額もまちまちです。

こうした「敬老パス事業費」として、名古屋市は年間140億円、横浜市は年間100億円もの助成金を積んでいるというニュースが入ってきました。以下、日本経済新聞の記事(2018年2月20日)より、一部引用します。

65歳以上の名古屋市民が市バスや地下鉄で使える「敬老パス」。所得に応じ年5千~1千円を払えば乗り放題となる。パス利用者の運賃を肩代わりするためなどの事業費は2017年度は約140億円。その規模を同年度当初予算と比較すると、子供の医療費助成(110億円)や観光施策(90億円)、市民税減税(110億円)を上回る。(中略)

横浜市の場合、市営交通だけでなく民営バスにも使えるが、事業規模は100億円(うち市の負担は80億円)。対象者は70歳以上で、年間の負担金も障害の有無や所得に応じて2万500円~無料と幅がある。(後略)

必要な人に必要なだけ行き渡っているのか

介護職は待遇が全業界でも最悪で、長く問題視されてきました。そこで、介護職の待遇に対して、年間1,000億円が拠出されることが決まっています。イメージとして、勤続10年以上の介護福祉士に対して、月給ベースで8万円の改善になる計算です。

この改善があったとしても、日本の介護業界は、全業界最下位の待遇から脱せるかどうかギリギリです。本当は、年間1,000億円程度では足りず、もっと、ここにお金を流さないとならないのです。さもないと、日本の介護職はより人材不足となり、介護が必要な人のところに介護が届かなくなってしまうからです。

正確な数字がないのが残念ですが、今回取り上げた「敬老パス事業費」を集めたら、国全体では、それこそ年間1,000億円くらいにはなるのではないでしょうか。「敬老パス事業費」には、地元の公共機関を守るという意味もあり、また、高齢者が外出しやすくすることで健康寿命を伸ばすという意味もあるのでしょう。

ただ、こうした「敬老パス事業」を行っていない自治体も多数あるわけで、不公平です。社会福祉の財源が枯渇しつつあるいま、こうした財源の使われ方については、自治体は見直しにかからないとならないのではないでしょうか。それこそ、介護職の待遇をかさ上げするために用いることも検討すべきです。

または、せめて財源を、お金のない人(高齢者に限らず、収入の乏しい母子家庭など)だけに流すなど、本当に必要とする人のところに流せないものでしょうか。一律、高齢者であれば「敬老パス」なるもので、公共交通の乗り放題となることが、本当に良いことなのか、大いに疑問があります。

そもそも自治体の財政は大丈夫なのだろうか

こうした事業費の全てが無駄とは言えません。先にも述べたとおり、高齢者がより活動的になったりすることは、とても大切なことです。地域によっては生活の足として、なくてはならないものであることも理解できます。

しかし、少子高齢化によって、自治体の財源が苦しくなってきていることは明らかです。子育て支援や観光施策といった、自治体の将来の収入を増やすような投資事業とのバランスも考えないとならないはずです。そして介護職の確保もまた、将来のためには大切なことです。

千葉県富里市は自治体職員の給与カットに動きました。横須賀市も人口が40万人を切り、緊急事態であることが内外に示されています。当然「敬老パス事業費」に巨額の予算を積める自治体は、財政的にはより健全なはずですが、であれば、財政の余裕のある自治体から、そうでない自治体にお金を流すといったことも今後は必要ではないでしょうか。

この「敬老パス事業費」だけでなく、他にも、色々と議論すべき予算があるはずです。そうした議論は、自治体が破綻してしまうまでに間に合うのでしょうか。そして、待遇の悪さから介護職が決定的に不足し、介護が受けられない介護難民が続出する前に終わらせることができるのでしょうか。

※参考文献
・千葉県バス協会, 『主要都市での「敬老乗車券制度」導入状況』, 2011年5月27日
・日本経済新聞, 『140億円 名古屋市の敬老パス事業費』, 2018年2月20日

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