閉じる

表彰制度も良いけれど・・・介護職の待遇改善を進めてもらいたい

表彰制度も良いけれど・・・介護職の待遇改善を進めてもらいたい

乱立しつつある表彰制度

日本全国で、介護事業者の提供する介護の品質や、職場環境の改善などに対する表彰制度が増えてきているようです。これはこれで重要なことですが、介護の現場では、こうした表彰制度に応募するために、ただでさえ足りない人材が駆り出されていたりして、不満も大きくなってきています。

表彰制度を設計し運用する側からすれば、頑張っている介護職に報いたいという善意が背景にあるのでしょう。しかし、今、日本の介護職に必要なのは金銭的な待遇の改善であって、トロフィーではありません。表彰制度の運営資金があるなら、そのお金は、できるだけ賞金にしてもらいたいほどです。

そもそも介護業界は、深刻な人手不足にも関わらず、全63業界でダントツ最下位(40歳モデル年収)の待遇という業界なのです。表彰制度によるガス抜きも大切かもしれませんが、問題の本丸に攻め込まないと、日本は大変なことになります。

表彰制度の弊害については理解されているのだろうか

仕事に関する報酬としては(1)金銭的報酬(2)福利厚生(3)仕事上の経験、の3種類があります。特に近年、世界中の組織では(3)仕事上の経験を重視する傾向が見られます。こうした仕事上の経験の中には「周囲から感謝され、優れた仕事ぶりが認知されること」が含まれています。

この視点から、多数の組織で設計され運用されているのが、優れた仕事ぶりを組織内外に知らしめるという表彰制度です。予算の限られた組織においても、あまり予算をかけずに報酬を増やすことができるため、これまで、多種多様な表彰制度が生み出されてきました。

営業成績などを表彰する「業務に関連する表彰制度」もあれば、勤続年数などを表彰する「業務とは関連しない表彰制度」もあります。ここで、特別な功績を表彰するような「業務に関連する表彰制度」においては、公平性が非常に重要な要素になってきます。

そもそも、表彰制度が報酬としての意味をなすには希少性が重要です。誰でも簡単に手に入る表彰であれば、その価値が低いことは明らかだからです。そうしたわけで、特に「業務に関連する表彰制度」においては、表彰となる対象を絞り込むことが必要になります。

逆に言うなら、ほとんどの人は表彰されないというのが表彰制度のキモとなります。そして、特定の誰かを表彰するということは、大多数の人に対して「君たちはまだまだ」という裏側の意図を伝えることにもなるのです。これは、表彰制度の深刻な弊害です。

この絞り込みが不公平だと、特定の誰かのために、大多数の人のモチベーションを奪うことになります。これを避けるためには、表彰制度においては、対象者の絞り込みの基準を明確にしつつ、その運用については細心の注意を払う必要が出てくるのです。これには、意外とコストがかかります。

介護における表彰制度で注意したいこと

介護の品質を客観的に評価するのは、それだけで非常に大変なことです。それを、すべての介護事業者で行うことは、事実上、不可能です。そうなると、乱立しつつある介護事業者の表彰制度は、自薦と他薦に頼るしかなくなるでしょう。

しかし、ほとんど例外なく人手が不足しており、業績も赤字かそれに近い介護業界において、本当に優れた介護事業者は、こうした表彰制度には(まず)自薦してきません。そうした業務を増やす余裕があるのなら、要介護者(利用者)のために働くからです。しかし他薦だけに頼ると、コネのあるなしで結果が決まってしまいます。

そうして、本来の業務に集中しようとしている介護事業者にとっては、自分たちよりもレベルの低い介護事業者が、自治体のトップから表彰されたりすることになります。これは危険なことです。公平性が担保されないままに、一部の介護事業者に賞賛が集まり、大多数の介護事業者はそれに選ばれないのですから。

介護職の待遇を改善し(金銭的報酬を増やし)、十分な人材が確保されていれば問題ありません。そうした状況が整えば、介護事業者を公平な基準で競わせることで、より良い介護が実現されていくと思われます。自薦する余裕のある介護事業者も増えるでしょう。

しかし、現在の介護業界には、そのような環境は整っていません。そうした事実を前提としてもなお表彰制度を運用するのであれば、運用者には、自薦や他薦を待つのではなく、業界内で尊敬されている介護事業者を見出すような努力が必要になります。そして、そのためのコストは、決して安くはないのです。

※参考文献
・藤井 薫, 『人事制度の”サブシステム”を作り込む 表彰制度』, 労政時報, 第3765号, 2010年1月8日

KAIGOLABの最新情報をお届けします。

この記事についてのタグリスト

PR