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介護家族に対する現金給付を(再び)問いたい

介護家族に対する現金給付を(再び)問いたい

介護保険制度には、女性の解放という意味もあった

要介護状態の人の介護をする家族(介護家族)に、介護の対価として、お給料が支払われるとしたらどう思いますか?これは、介護家族に対する現金給付というもので、介護保険制度の創設前に議論になったものです。

実は現在も、家族介護慰労金という制度が存在してはいます。かなり厳しい条件ですが、これをクリアすると、介護家族に現金が支給される制度です。とはいえ、こうした条件をクリアするのは(ほとんどの人にとって)現実的ではないため、あまり注目されることはありません。

介護保険制度は、介護が限られた特別な人だけのリスクではなく、広く国民全体が負うリスクとして認識されたことで生まれました。そして、介護を社会全体で担っていこうという理念のもと、日本の介護保険制度は発展してきたのです。

この背景には、介護家族というのが、妻、娘、嫁といった女性を意味していた過去があります。介護に限らず、女性は、暗黙のうちに、家族の中に縛り付けられてきました。介護保険制度には、女性をそこから解き放つことも意図もあったのです。

現金給付が否定された背景

介護保険制度は、介護保険料という負担を、新たに国民に強いるものでした。このため、国民の反発を回避する必要に迫られた時の政権は「介護家族に対して現金給付を行う」という案を挙げることになります。

そもそも、介護保険制度を導入するにあたり、日本がお手本にしたのがドイツです。ドイツの介護保険制度には、介護家族に対する現金給付が存在していたことも、この議論に大きな影響を与えていました。

しかし、当時の市民団体は、これを「介護保険制度の理念に反する」として、強く反発しました。介護家族に現金給付を行えば、結局、女性が介護労働に従事させられることになると考えたのです。結果、日本の介護保険制度では、介護家族に対する現金給付は(実質的には)実現しませんでした。

いまこそ、現金給付を再議論すべきではないか

時は流れ、介護保険制度も施行されてから20年近くがたちました。要介護者の認定数は増え続け、介護のための国の予算も上昇を続けています。一方で介護の担い手たる介護職は、慢性的に不足する状態が続いています。国は「介護離職ゼロ」という目標を掲げています。しかし、そのためのインフラ整備は、遅れています。

今、どれだけの介護家族が、無償で介護に縛られているでしょう。どれだけ多くの女性が、それに苦しんでいるでしょう。また、介護離職後に定職につくことができず、経済的な不安を抱えながら、介護を続けている介護家族がどれだけいるでしょう。

私は、今一度、介護家族に対する現金給付を議論しても良いのではないかと考えています。とはいえ、介護家族に現金給付をした場合、しっかりと介護を行なっているのかを確認する仕組みが必要になります。管理すべきことは多く、制度を悪用したり、虐待の温床になるという恐れも十分にあり得ます。

しかしながら、再度、社会保障やマンパワー、日本の経済や家庭の構造変化などをとらえ直した上で、介護保険制度を見直す必要もあると思います。この中で、かつて議論になった現金給付について、再考することも大切だと信じています。

そこに選択肢はあるのかを問いたい

もちろん、今では、男性の介護家族も増えています。シングルで、親御さんの介護をしている人も少なくありません。低所得者の老夫婦が、介護保険制度の自己負担が支払えず、介護サービスを削っている現状もあります。

ポイントは、そうした厳しい環境であっても、それは複数の選択肢から選ばれた現在なのかということです。それしか選択肢がないという状態は、介護保険制度の目指すところではなかったはずだからです。現金給付には、問題もありますが、少なくとも選択肢を増やすことには貢献するはずです。

日々、介護の現場に立つ中で思うことがあります。それは、現在の介護保険制度は、制度疲労を起こしているのではないかということです。本来の理念が失われ、制度を維持すること自体が目的化しているような気もします。

介護業界に長くいる者であれば、かつての論争の存在を知っています。同時に、現在の介護保険制度に至ったプロセスも理解しています。だからこそ、過去にいったん収束した議論を再燃させることには、積極的にはなれない部分もあるかもしれません。

しかし、あれから20年がたち、時代は大きく変化してきています。当時の介護家族と、今の介護家族は、顔ぶれも、育ってきた環境も違います。そして、そうした介護の主役たる介護家族は、当時の議論の存在自体を知らないことが多いのです。いまこそ、介護保険制度そのものについて、はじめから議論をしなおす必要があるのではないでしょうか。

※参考文献
・石橋潔, 『介護保険と家族:純粋化する愛情』, 佛教大学総合研究所紀要 8, 115-131, 2001-03-25

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