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「やりがい搾取」が蔓延する医療・介護業界の限界について

「やりがい搾取」が蔓延する医療・介護業界の限界について

「やりがい搾取」とは?

TBS系列の火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が大ヒットしました。契約結婚をテーマにしたラブコメディで、新垣結衣と星野源の好演が話題となりました。エンディングで流れるダンス(恋ダンス)も流行しました。

このドラマの中(第10話)で、主演の新垣結衣が「人の善意につけこんで、労働力をタダで使おうとする搾取」について糾弾し、これを「やりがい搾取」と名付けるシーンがあります。なんとも、気になる言葉です。

もともとこの言葉をつくったのは、教育社会学者で東京大学教授の本田由紀氏だと言われています。本田氏は、自らすすんで過酷な労働を受け入れる若年労働者は、実は、経営者が仕掛けたワナにかかっているという指摘を、2007年ごろから行っています。

実際に、劣悪な労働条件を、仕事から得られる充実感で相殺しようとするのは、経営にとって都合がよい話です。これが成立すれば、安い賃金で、よく働く人材を確保できることになるからです。

「やりがい搾取」が成立してしまう背景には(1)趣味性=仕事が好きなことである(2)ゲーム性=仕事の裁量が大きい(3)奉仕性=仕事が明確に人の役に立つ(4)サークル性=閉鎖的で独自の文化を築いている、といったことが指摘されています(Yahoo!ニュース, 2016年)。

医療・介護業界に蔓延する「やりがい搾取」

この「やりがい搾取」は、様々な業界に見られるものだと思います。ただ、特に医療・介護業界には、極端な「やりがい搾取」があると感じています。以下、もう少し詳しく考えてみます。

まず、医療・介護業界は(1)その仕事が好きという人が集まってきます。そして、いちいち上司のお伺いをたてることなく現場で決めていくという(2)裁量もあります。その仕事は(3)明確に他者(患者や要介護者)の役に立ちます。そして(4)閉鎖的なので、自分たちの常識がおかしいことに気づきにくい状態にあります。

「やりがい搾取」が成立してしまう4つの条件が、医療・介護業界にはそろっているのです。そして、現実として、この業界の労働条件は劣悪ですし、報酬も悪い状態にあります。

「医師の報酬はいいじゃないか」というのは、かなりの誤解です。たしかに医師の年収は1,000万円を超えますが、それは、労働法を無視した長時間労働が背景にあるからです。

医師の7割以上を占める勤務医の場合、入院している患者の朝食前の採血のために朝6:30ごろには出勤して、午前の新規外来、午後の手術や往診、回診、帰宅は22:00を越えることも普通です。

外来の患者として医師をみると、週2〜3程度の出勤に見えます。しかし、入院している患者からは、午後のほんのすこしの時間だけ見かける白衣の人です。ずっと働いているのです。さらに夜勤もあり、夜勤明けであっても、86.2%が通常勤務をしています(労働政策研究・研修機構, 2012年)。

医療・介護業界の「やりがい搾取」はなぜなくならないのか?

こうした「やりがい搾取」が、医療・介護業界からなくならないのは、この業界が、国によって管理されているからです。個々の労働の対価は、国によって厳密に決められています。社会福祉のための財源が足りないいま、こうした対価は、ますます下げられる方向にさえあります。

しかし、今後は混合診療・混合介護がはじまっていきます。そうなると、医療・介護も、市場で取引されるようになっていき、お金のない人に対する医療・介護のレベルは下がっていくことになるでしょう。

これは、これまで、私たちの社会が、医療・介護業界に「やりがい搾取」をしてきたからと見ることも可能です。私たち自身が、医療・介護業界に、不当に安い賃金での労働を間接的に強いてきたわけです。しかし、それももはや限界なのです。

今後、医療・介護業界の「やりがい搾取」は減っていくはずです。しかしそれは、日本の社会にとっては、望ましくない二極化の進行であり、中流層の下層化にほかなりません。悲しいことですが、限られたお金というリソースをめぐる争いが、この社会と医療・介護業界の間に発生してしまうということです。

※参考文献
・Yahoo!ニュース(日本の人事部), 『「やりがい搾取」~やりがいをエサにして人を酷使する組織 自己実現のわなが新たな働きすぎを招く』, 2016年11月2日
・労働政策研究・研修機構, 『勤務医の 4 割が週 60 時間以上の労働』, 平成24年9月4日

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