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スイス、ベーシックインカム(Basic Income)の国民投票へ(ニュースを考える)

スイス、ベーシックインカム(Basic Income)の国民投票へ

ベーシックインカム(Basic Income)とは?

ベーシックインカム(Basic Income)とは、無条件で個人(世帯ではない)に給付される一定額の所得のことです。お金があろうとなかろうと、仕事をしていようといまいと、年齢が若くても高齢でも、お金が支給されます。金額は、月額20〜30万円程度の、生活するのに十分なレベルで考えられています。そのかわり、年金や生活保護といったものは廃止されます(厳密には、様々な種類のベーシックインカムが提案されています)。

ベーシックインカムに関する議論は、1970年代のヨーロッパからはじまったとされます。初期には、ひとつのユニークな発想(夢想)として認知されていた程度でした。それが、にわかに現実味を帯びてきているのです。この背景になっているのが(1)高まる失業率(2)貧困の拡大(3)社会福祉の機能不全、の3つです。

1. 高まる失業率と失業不安への対策として

たとえば、自動車の自動運転が実現すると、タクシーの運転手は職を失うでしょう。自動運転に限らず、様々な技術革新によって、これから、人間の仕事がロボットに奪われていきます。そうなると、日本でも、かつてないほどの失業率になっていくでしょう。この不安があるだけで、人々は消費を減らし、経済は悪化してしまいます。こうした失業および失業不安への対策として、ベーシックインカムは有効に働きます。

2. とまらない貧困拡大への対策として

貧困が増えていることも、大きな問題です。トマ・ピケティが『21世紀の資本』で明らかにしたとおり、貧困問題は、放置していては解決されません。日本では、シングルマザーを含めた単身の女性の多くが貧困状態にあります。しかし、まだ男尊女卑が色濃く残る日本では、女性の所得は、男性の半分程度にすぎません。これが是正されるには、まだ相当な時間がかかります。ベーシックインカムがあれば、単身の女性を含むすべてのの貧困状態が改善されます。

3. 社会福祉の機能不全への対策として

そして社会福祉の機能不全も深刻です。日本の場合、生活保護を利用する資格のある人のうち、実際に生活保護を利用できている人の割合(=捕捉率)は、2割程度にすぎません。残りの8割は、本来であれば受けるべき生活保護から漏れているわけです。ベーシックインカムになれば、全国民が等しく一定額のお金を受給できますから、捕捉率は100%となり、社会福祉の機能不全が縮小します。

ベーシックインカムは企業の競争力を強くするか?

ベーシックインカムが導入されると、人々から働く意欲が失われ、企業の競争力が低下するという指摘もあります。これはある種の社会主義とも言えますから、この危険性は無視できません。ただ、仕事をしないで、ずっと趣味に生きるという人生、またはそうした時期があってもよいという考えもあります。

実際には、月額20〜30万円という金額では満足できない人も出てきます。働いて得た収入は、ベーシックインカムにより支給されるお金の上に追加されますから、そうした人は働き続けます。とはいえ、週休2日の労働ではなくて、週休3日や4日といった部分的な労働を求める人も出てくると思われます。

このように、ベーシックインカムの導入によって、国全体としての労働力が減ることは間違いありません。そうなると、企業は必要な人材の確保に困るという指摘もあります。しかし、意外にも、それでもいいという意見が、財界に根強く存在しているのです。

その理由は2つあります。一つ目は、非正規社員や派遣社員の利用が、より簡単になるということです。ベーシックインカムがあれば、非正規社員や派遣社員の生活は、不安定なものではなくなります。企業のニーズがあって、働けるときにだけ働くような形式を好む労働者も増えるはずです。企業としても、人件費を抑制することができ、都合がよいのです。

もう一つの理由は、人々が仕事をしていない時間が増えると、消費が増えて、景気が良くなるというものです。毎月20〜30万円というお金が支給されて、なにもしないでいるというのは、逆に難しいことです。ベーシックインカムがあれば将来不安は減りますから、多くの人は、人生を楽しむために、このお金を使うはずです。

いよいよスイスが、ベーシックインカム導入の国民投票へ

本当にベーシックインカムが機能するのか、まだわかりません。それでも、フィンランド、ドイツ、オランダなどではすでに実験がはじまっています。そうした中、スイスが本格的なベーシックインカム導入に向けた国民投票(2016年6月5日)を行うことになりました。

これが成立した場合、支給される金額は、18歳以上の成人に対しては月額約30万円(約2,500スイスフラン)、18歳未満の未成年に対しては月額約7万円(約625スイスフラン)とのことです。両親と子供二人の世帯の場合、月額約74万円の収入になります。

これだけの金額が、仕事をしていなくても得られるとなれば、両親は子育てに集中することもできるでしょう。保育所も、あまり必要なくなります。また、親の介護が必要になった人は、介護に集中できるようにもなります。ときにはレスパイトも必要でしょうが、それでも、今ほどにはプロの介護が求められなくなるでしょう。

とはいえ、スイス国民に対する世論調査としては、今のところは賛成26%、反対71%となっているようです。今回の成立は難しいかもしれませんが、この国民投票によって、ベーシックインカムに関する議論が、国際的に高まることは間違いないでしょう。

いずれはベーシックインカムが成立していく

現代社会は、時間とともに貧富の格差が広がり、社会的な弱者が増えていく傾向にあります。そして、こうした社会的弱者は、ベーシックインカムに賛成します。特に、運悪く失業してしまった人は、ベーシックインカムを求めるでしょう。

その意味で、ベーシックインカムの成立は、おそらくは時間の問題なのです。はじめは、月額10万円程度の金額かもしれません。しかし、選挙では、各政党がこの月額の増加を公約として戦いはじめます。ですから、いずれは、財源的な限界まで、支給される月額が上がっていくでしょう。

いよいよ人類は、大きな自由を獲得する可能性を手にするのです。ただし、それは可能性にすぎず、新たな課題もたくさん出てくることになります。それでもなお、このまま社会的弱者が増えていくような社会を黙認することはできません。

You may say I’m a dreamer. But I’m not the only one. I hope someday you’ll join us, and the world will be as one.

John Lennon(Imagine)

※参考文献
・志賀 信夫, 『ベーシック・インカムの理念と実現プロセス』, 季刊経済理論 50(3), 53-64, 2013-10-20
・NHK, 『国民に毎月一定額を支給 制度導入巡りスイスで国民投票へ』, 2016年6月3日
・TBS NEWSi, 『全員に30万円!?ベーシックインカム導入是非、スイスで国民投票へ』, 2016年6月3日

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