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ガンの特効薬が、日本の社会福祉を破壊する

ガンの特効薬が、日本の社会福祉を破壊する

免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ

これまでの抗ガン薬とは異なる、新しいタイプの薬「ニボルマブ」が話題になっています。肺ガンについては15〜20%の確率で縮小させることができ、その進行を抑えるという効果まで含めると、人類期待の特効薬と言えます(それでも効果の出ないケースもありますが)。今後は、肺ガン以外のガンについても、この薬の効果が確認されていきます。

「ニボルマブ」は、従来の化学療法よりも副作用が少なく、また、効果が認められた場合は、その効果が長続きするという特徴があるとされます。もちろん、これから臨床例が増えていくにつれて、この薬の問題点もより明らかになっていくでしょう。

なにより、この新薬は、世界に先駆けて日本が実用化したという点にも注目が集まっています。日本には、まだ底力があります。

この話だけ聞くと、素晴らしいことのように思われます。確かに、ガンに苦しむ人々にとっては朗報になる可能性があります。しかし、この新薬の登場は、日本にとって恐ろしい結果をもたらし、深刻な社会問題に発展していくことも予想されているのです。

新薬の研究開発費は膨大であるという事実

こうした新薬を開発しているのは、製薬会社です。製薬会社は、日々、研究開発に莫大な資金を投入しています。それでも、研究のほとんどは徒労に終わり、本当に意味のある新薬が生まれるのは、何万という研究開発事例の中の、ほんの一握りです。

世界トップクラスの製薬会社に至っては、年間の研究開発費は1兆円に近づいています。そうした中、日本の製薬会社は、研究開発費においてトップ10にも入らなくなっているのが現状です。こうした不利な戦いの中、日本から「ニボルマブ」が生まれたことは、本当に嬉しい話ではあります。

製薬会社が、激しい競争をしているからこそ生まれるのが新薬です。しかし、新薬の研究開発費は年々高騰しており、製薬会社としては、完成した新薬の販売によってこれまで以上の収益をあげないと、生き残れないという状況になっています。

結果として、新薬の価格も、どんどん高騰しているというのが現実なのです。そして、今回の話に登場しているガン特効薬の可能性を持った「ニボルマブ」の価格は、年間で約3,500万円という、これまでの薬の価格の常識を超えたレベルになってしまいました。

なにが起ころうとしているのか

日本には、高額療養費制度があります。これは、年間の医療費の自己負担額に上限(今のところ年間で約200万円)を設けることで、お金持ちでなくても、できるだけ高度な医療を受けられるようにするという、日本らしい優れた制度です。

ということは、ガン患者に医師が「ニボルマブ」を処方すると、年間でガン患者1人あたり約3,300万円の費用が、国の財源から出るということになります。そして、現在の日本のガン患者は、約100万人います(2015年)。さらに、超高齢化社会に突入した日本では、ガン患者の数は増え続けているのです。

単純計算(3,300万円 x 100万人)で、年間33兆円の費用が国の財源から出るということになります。もちろん、この数字は大げさで、実際には「ニボルマブ」の効果がわかっている肺ガン患者(約13万人)への適用から始まるでしょう。それでも、年間4兆円以上の費用が発生します。

これが、あまり効かない薬であれば、逆に問題は少ないのです。しかし、特効薬になる可能性があると、多くの医師や患者は、この薬に期待をかけて、使い続けるでしょう。そして、今後は、こうした新薬の価格は下がることはなく、むしろ高くなっていくと考えられているのです。

この薬が、一度だけ使えば、それでおしまいというものでないことも、問題を大きくしています。今のところは、使い続けることで効果が持続すると考えられています。使い続けて、効果が持続すると、患者は延命され、長期的に費用が発生するという、恐ろしい構造になっているのです。

繰り返しになりますが「ニボルマブ」の登場は、ガン患者にとっては朗報になる可能性があります。素晴らしい薬です。しかし、すでに財源に苦しむ日本の社会福祉にとっては、財政破綻を早めてしまう事件になっていることは、理解しておくべきでしょう。

いずれはジェネリック医薬品として安く普及することになるが・・・

こうした新薬も、いずれは特許の期限切れ(通常は20年)を迎えます。特許が切れたら、誰でもそれをコピーして良いことになります。すると、今は新薬でも、いずれは安価で、誰でも入手できるものになります(これがジェネリック医薬品です)。

ここで、特許を批判する人も出てくるかもしれません。しかし、企業としては、特許による20年間の独占があればこそ、こうした新薬の製法や特徴について開示するインセンティブが働くのです。

もし、特許のない世界になってしまえば、特に新薬の製法などは、企業秘密として管理されます。すると、こうした新薬の製造と販売は、その新薬を開発した1社が永遠に独占します。価格も当然、永遠に高いままです。

人類史というスケールから見た場合、特許とは、20年の独占期間を与える代わりに、人類が発明した全ての技術を、データベースとして誰でも見られる形で保存するという仕組みなのです。これが、長期的には人類を発展させていきます。そしてガンが恐くない未来は、確実に訪れます。

20年間は十分に儲けることができるからこそ、製薬会社は、年間で1兆円にも迫ろうとする研究開発費を新薬の開発に投入できるのです。この特許という仕組みをなくしてしまえば、新薬の開発には費用がかけられなくなり、特効薬の開発も、極端にゆっくりとしたものになってしまうでしょう。

私たちは、いかに安くても、100年後の新薬を待つことはできません。高くても、今、新薬があることを願う存在です。これが「ニボルマブ」や、それに続く新薬の価格を高騰させる根本的な要因です。そして、この要因は(まず)消せないからこそ、高額療養費制度をはじめとした日本の社会福祉が危険な状態に向かっているのです。

※参考文献
・医学書院, 『コストを語らずにきた代償 “絶望”的状況を迎え,われわれはどう振る舞うべきか』, 2016年3月7日

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