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介護保険の財源確保における「交渉術」を知っておいたほうがいい。

介護保険の財源確保における交渉術

これから日本の介護保険は厳しくなっていく

これから、介護保険の財源が極端に足りなくなっていきます。ですから、近未来に起こることは(1)40歳以上が徴収されている介護保険料の値上げ(2)介護保険料の徴収を40歳以下にも広げる(3)介護保険で受けられるサービスが減少する(4)介護サービス利用時の自己負担部分の割合増加(5)保険適用外サービスの拡張、といった5つのことです。

理論的には、財源の確保ができれば、こうしたことは起こりません。そのためには、公務員の人件費抑制や様々な無駄のカット、消費税・所得税・法人税といったものを一律に上げればよいのですが、こうしたことは政治的には困難なのです。

そのため、政府は、こうした本流のところには手をつけないまま、先に挙げた5つのことが現実化していきます。しかしこれは「弱者の切り捨て」であり、日本国の理念(憲法)に反する活動です。この背景を正しく知り、少しでもあるべき姿に向かうためには「交渉術」の基本を理解しておかないとなりません。

政府は、国民の敵ではありません。しかし、こと「財源の確保」という文脈になると、政府と国民の間で利害が対立します。このとき、国民の側がしっかりと「交渉術」の基本について理解していないと、いいように利用されてしまいます(歴史的には、これが繰り返されています)。

「交渉術」の基本は交渉相手の「分断」にある

2015年8月1日から、収入の多い人(上位20%)については、過去には1割だった自己負担部分が、2割(2倍)に引き上げられています。仮に、消費税が2倍に引き上げられるとなれば、とても通らない話です。しかし、自己負担部分だと、それが通るのはなぜでしょう。

この理由は簡単です。消費税の増税だと、政府は、全国民に不利益を押し付けないとなりません。そうなると、政府は全ての国民を交渉相手にすることになり「はい、そうですか」ということにはならないのです。

ここで「交渉術」における根幹をなす基本があります。それは「特に相手の不利益になる交渉をするときは、交渉相手を分断する」ということです。つまり、先の自己負担部分を2倍に引き上げるという話も、それを収入の多い人(20%)と収入の少ない人(80%)に「分断」しているからこそ、通ってしまうわけです。

感情的にも「お金持ちから多く取るのはあたりまえだよね」となりやすいところが狙われています。しかし、この次はどうなるかというと、収入の多い人からの徴収をさらに増やして3割負担とするのと同時に、収入の少ない人も2割負担というように上げられていきます。

ここで、本来は、国民は団結して「ほかに、財源確保のために削るべき無駄があるはず」と声をあげないとならないのです。しかし、収入の多い人からずれば「自分たちばかりが多くを負担してきたのだから、それが収入の少ない人にも広がるのは当然」という気持ちになります。

先に、収入の多い人に限定して自己負担部分を上げておけば、国内では、収入の多い人と収入の少ない人を「分断」できます。これにより、本来は、政府と国民の間にあるべき健康な対立関係が失われ、収入の多い人と収入の少ない人の間に対立関係が出来上がってしまうのです。

結果として、国民は社会福祉の向上について団結することがないまま、なし崩し的に、社会福祉の悪化を受け入れていくという図式になります。そして、今のままでは、この流れは行き着くところまで行ってしまいそうです。

政府による「分断」が起こる施策には注意したほうがいい

政府を、本来あるべきところに向けるためにも、国民は、こうした「交渉術」に引っかからないようにしないとなりません。その時に、注意しなければならないのは「分断」です。政府が「分断」を狙っていることに気付いたら、それに屈することなく、あるべき議論を盛り上げていかないとならないのです。

厚生労働省は25日開いた介護保険部会で、2018年度の介護保険制度見直しに向けた議論に入った。保険財政の悪化を食い止めるため高収入の大企業社員らの保険料を上げ、一定以上の収入がある高齢者は自己負担の上限引き上げを検討する。

『介護保険、高収入ほど負担 18年度見直しへ議論』日本経済新聞(2016年3月26日)

大企業に勤務する人と、中小企業に勤務する人の「分断」が起こります。「自分は関係ないからいいや」と思うと、いつか自分に不利益となる変更が起こる場合、誰も反対の声を上げてくれない状況が生まれます。

保険料の支払い年齢では、今の「40歳以上」を20〜30歳に引き下げる案を検討する。ただ、若い世代の強い反発が予想され、厚労省幹部は「実現は厳しい」(老健局幹部)と話す。

『要介護軽度者、負担増案並ぶ…18年度報酬改定』毎日新聞(2016年2月17日)

自分は40歳以上で、介護保険を支払っているからといって「若者からも徴収するのは、仕方ない」と思えば「分断」の完成です。今の若者には、そもそもお金がありません。特に、こうした中には、母子家庭のように経済的に困窮しやすい人々も含まれてしまうことは大問題です。

厚生労働省は、介護保険制度で「要介護1、2」と認定された軽度者向けサービスを大幅に見直す方針を固めた。具体的には、調理、買い物といった生活援助サービスを保険の給付対象から外すことを検討する。膨らみ続ける社会保障費を抑えるのが狙いで、抑制額は年約1100億円、約30万人の利用者に影響が出る可能性もある。

『介護保険、調理など軽度者向けサービス見直しへ』読売新聞(2016年1月20日)

「うちは、要介護度が1, 2でないので関係ない」と感じれば「分断」につながってしまいます。自分自身が要介護者になり、自分では調理や買い物が難しくなった未来を想像してみてください。過去には、そこに介護保険によるサポートがあったのですが、それは、無くなってしまうのです。

利害の対立を超えて大きな構造改革をする必要がある

本当は、局所的に「分断」された集団同士が対立をするのではなく、自分の立場という枠組みを超えて、国の財政に関する議論をする必要があるのです。見直すべきところがたくさんあるということは、実は、改善できるところがたくさんあるということです。

日本は、潜在的には、まだまだ強い国家です。しかし、日本という大型船の船底には、すでに穴が空いていて、海水が入り込んでいます。その穴を埋めることをしないで、船に乗っている私たちが、少しでも広くて綺麗な部屋を争っていたら、本来は沈まなくてよい船も沈んでしまうでしょう。

明治維新の例を振り返るまでもなく、社会的な危機は、団結によってしか乗り越えることはできません。そうした団結は、小手先の「分断」によって邪魔されるべきではないでしょう。

少しずつでも構わないので、介護制度の改悪については、直接自分には関係ないことでも、きちんと反発していきたいです。近くに議員がいたら、しっかりと伝えていきましょう。また、投票においては、バラマキのようなものにはごまかされず、社会福祉に真面目で、公約を守る実力のある人物を選んでいきたいものですね。

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