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介護者、5つの心理状態(その傾向と対策)

介護者5つの心理状態

介護者(家族)は、自分自身のことが見えにくい

何かに集中したり、没頭したりしていると、周りが見えなくなるものです。どんなことでも、当事者として渦中で頑張っている時ほど、こうした状態になります。周りが見えなくなるだけでなく、自分自身のことを客観的に考える余裕さえなくなります。

この状態になるのが、介護生活です。

介護生活が、虐待や介護殺人など「最悪の結末」に至ることがあります。この背景にあるのは、個人の資質ではありません。誰もが、介護生活の中で、こうした「最悪の結末」にならないよう、ギリギリの状態で頑張っています。

だからこそ、長い介護生活を続けるうえでは、自分自身のことを客観的に考える時間が大事になります。介護者(家族)としての心身の平穏だけではなく、介護を受ける要介護者にとっても、これは大切なことです。今回は、こうした介護者の心理について考えてみます。

介護をする家族の心理状態を分類してみる

多くの人にとって「家族間でのケア≒世話」という人間関係の中で、最初に思い浮かぶのは、育児かもしれません。育児でも、介護と同じように、心理的に難しいこともたくさんあります。とはいえ、育児と介護は違います。

ここで注目したいのは、介護における人間関係は、育児とは異なり、大人同士の関係だということです。ここから、介護の場合は「役割」「義務」「確執」「恩」「金銭」「圧力」「病気」「傷害」「恨み」などなど、育児とは異なる様々な心理が複雑に絡み合いやすいのです。

『ケアの心理学-癒しとささえの心をさがして』(渡辺俊之著)によれば、介護をする家族の心理状態は、次のように分類できるそうです。

1. 動物としての利他的本能:他人の幸福や利益を第一目的とする行動本能に基づいて介護を行うもの。

2. 同情:要介護状態になり、援助が必要な状態になったことへの憐みの感情を介護の動機づけとするもの。背景に罪悪感や償いの感情が隠されている場合がある。

3. 共感:たまたま今は相手が介護される状態にあり、自分が介護できる立場にあるだけなのであり、大きな違いはないのだという相手の立場や状態を思いやる感情を介護の動機づけとするもの。

4. 愛他的主義:自分を犠牲にして相手に尽くす行動。背景には、介護をしている要介護者本人と一体的な感情を持ち、相手に尽くし、相手が喜んだり、お礼を言ってくれたり、状態が改善する事などを自分の喜びとしてとる感情がある。

5. 役割感情の存在:「長男」「嫁」「配偶者」という家族間での役割によって、自分がその立場であるから介護しなければならない、介護しよう、という感情。

これらのような心理状態について、それぞれの傾向と対策について考えてみます。なお、ここの記述は、複数の介護のプロ(訪問介護、施設介護の現場職員)から聞いた経験談により書かれています。統計的な事実ではなく、あくまでも限られた範囲での意見であることには注意してください。

傾向と対策1. 動物としての利他的本能

それが本能なのかどうかを、外から観察するのはとても難しいものです。しかし、介護のプロの経験では、なんらかの信仰を持った家族には、この傾向が強く感じられるそうです(信仰は本能なのかもしれません)。

家族でありながら、どこか博愛的な関わりをもっており、達観している感じもします。介護生活に苦悩を抱くことももちろんありますが、信仰によって自らそうした苦悩を解消し、前進することが出来ているように見えます。

同時に、信仰を持った家族は、介護のプロの意見よりも、ある意味で「自然の摂理」としての老・病・死を運命として受け入れるようにも思えます。ここから、介護生活が重度化したり、終末期になるにつれて、どこまでも滅私奉公的な対応をして、バーンアウトするケースもあるとのことです。介護サービスのような「他者の力」を借りることにもオープンである必要があります。

傾向と対策2. 同情

この心理状態は男性の介護者によく見られるとのことです。それまで好き勝手やってきた夫が、妻の介護が必要になった時点で、それまでの償いをするかのような行動に出ます。また、苦労して家族を守ってきた親を、幼いころから見てきた子供が介護者になった場合も、こうした状態になりやすいそうです。

「お袋は、ずっと自分たち子供のために苦労してきたのに・・・」といった心情です。要介護者を大事にいたわり、本人が望む生活を全力で応援しようとします。反面、介護を「他人に任せることなんて、できない!」「自分がやるべきだ!」という具合に、介護を抱え込んでしまい、負担に押しつぶされる傾向もあるそうです。

責任感と、要介護者への献身的な意識が強いことは素晴らしいのですが、介護はやはり、1人で抱え込むには無理があります。要介護者にとって良い生活を組み立てるために、周囲の力を上手に利用することも考えてみるべきでしょう。

傾向と対策3. 共感

これは「妻」「娘」「嫁」など、女性の介護者によく見られる心理状態です。要介護者との関係性が良かったり、介護の技術的に複雑なことが少ない場合は、特に強調されてくるそうです。

特徴は、責任や役割分担といったことでギスギスせずに、介護というよりも、共同生活という立ち位置で日々をとらえられていることです。要介護者と介護者という対立関係があまり感じられない状態で、それぞれに自然な感じで動けていたりします。

介護のプロからすると、ある種の理想的な介護とも言えます。唯一、課題があるとすれば、要介護者の状態は、ずっと一定ではないということへの準備が足りないケースが見られることです。

平穏な状態はとても良いのですが、その状態が崩れたときに、大慌てにならないように事前に考えておくことも必要です。将来像やリスクを想定しながら、専門職や家族会、親戚など「いざというときの周りのサポート」を構築しておくとよいでしょう。

傾向と対策4. 愛他的主義

これは、要介護者と介護者の、お互いへの心理的な依存が強い場合に、よく見られるそうです。典型的には、子供がいない夫婦の関係、子供がいない娘とその母の関係、なんらかの理由でずっと2人で暮らしてきた関係などです。

この場合、少しでも要介護者が元気であり、これまでのように、お互いの存在を全面的に肯定しあえる状態が続くことに固執する傾向があります。それも、当然です。だからこそ、要介護者の心身の悪化を正面から受け止められず、病的に「よりよい治療」を探しはじめるケースも散見されます。

怪しい民間療法に傾倒してしまうこともあります。自分がこれと信じる情報に対して、医師や介護職が慎重な立場をとると、不信感を募らせて、病院や介護事業所をしょっちゅう変えたりするようになると、要注意です。

結果として、要介護者が安定したケアを受けられなくなり、振り回され、返って悪いことになるのを介護のプロはたくさん見ています。要介護者も、いずれはいなくなります。要介護者の存在以外にも、少しでも、お互いのことを大切に思える相手を見つけていくことが必要です。

傾向と対策5. 役割感情の存在

責任感が強く、社会常識にうるさい人ほど、この心理状態になります。また、地方のように、古い日本の文化が色濃く残っている場所では「自分がやらなくては」という役割感情を強く感じる人が多くなります。

特に「長男」「長男の嫁」といった役割感情によるプレッシャーは大きく、これが原因での離婚(介護離婚)が発生することも少なくありません。心理状態だけならまだしも、他の家族が全く介護の負担を担ってくれない(そういうものだと思っている)こともあり、介護の難易度は高くなってしまいます。

しかし、こうした古い常識は、もはや通用しないものになっています。役割を固定化するのではなく、家族の皆で、それぞれの負担を客観的に話し合い、より良い形で介護生活を進められるような対話が必要です。

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