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息子による虐待が深刻化してしまうときの心理プロセス

息子による虐待が深刻化してしまうときの心理プロセス

家族による虐待のほうがずっと数が多い

介護における虐待というと、プロの介護職による虐待がイメージに上がってしまいます。しかし統計的にみれば、虐待のほとんどは、介護をする家族が起こしており、プロによる虐待は、数だけみれば、その足元にも及ばないというのが実情なのです。

少し古いデータになりますが、高齢者の虐待に関する統計(平成24年度)をみると、介護のプロ(介護従事者)による虐待が155件であるのに対し、家族による虐待は1万5202件と、プロによるものの100倍近い件数となっています。

介護のプロによる虐待は、同じ要介護者を担当する同僚や家族によって発見されることが多いでしょう。この場合、周囲の監視があるため、比較の問題として、発見しやすい虐待なのです。これに対して家族による虐待は密室で発生し、周囲の監視がききにくいという認識が求められます。

監視がききにくいにも関わらず、件数としては、家族による虐待がプロによる虐待の100倍近い件数になっているところには注目する必要があります。年間1万5千件を超える家族による虐待は、氷山の一角にすぎないということです。

虐待をするのは息子が最多という現実

いまのところ、家族の介護をしている人(介護者)にしめる男性の割合は3割にすぎません。しかし、介護をめぐる殺人においては、加害者の7割が男性です。虐待も、家族の続柄を調査した結果(厚労省, 2016年)によれば、虐待をするのは息子が最多の40.5%で、夫が19.6%となっています。

男性が家族の介護をする場合に、どうしても問題が起こりやすいという認識は、介護業界ではほとんど常識となっています。しかし、そうした常識は、家族の介護をする当の男性は、持ち合わせていないことがほとんどです。この認識のあるなしは、虐待の防止にとって非常に重要なのは、言うまでもありません。

ある虐待の研究は、次の条件がそろうと、虐待の可能性が高まることを明らかにしています。それらは(条件1)介護者が息子か夫である(条件2)介護者が要介護者と同居している(条件3)介護の知識や情報が足りない(条件4)介護を抱え込んでおり支援者がいない(条件5)要介護者と過去になんらかの軋轢がある、です。

ただ、こうした研究結果も、今現在、虐待をしてしまっている人には届かないでしょう。こうした情報が届くには、虐待をしてしまう本人が、介護に関する基本的な知識を求めており、プロによる支援を受けていることが必要になってくるからです。

息子による虐待が深刻化してしまうときの心理プロセス

あくまでも仮説にすぎませんが、息子による虐待が深刻化してしまうときの心理プロセスを、ここで示しておきたいと思います。まず、前提として「男性は困ったことがあっても周囲にSOSを出すことが苦手」という仮説があります。この仮説が正しければ、虐待においては、次のような心理プロセスが推測されるのです。

ステップ1. 介護がうまくいかず困っていてもSOSが出せない
ステップ2. 介護の負担とストレスから、つい、軽めの虐待をしてしまう
ステップ3. 虐待の発覚をおそれ、プロの介護職などに介護がお願いできなくなる
ステップ4. 親も、息子が犯罪者になることを恐れ、虐待の事実を周囲に隠す
ステップ5. 周囲から孤立することで介護の負担は増し、虐待が深刻化していく

仮に、この心理プロセスが正しいものであった場合、虐待が発覚するのは、虐待をしている息子が「自首」をするケース以外にはないことになります。実際には「自首」というのは大げさで、軽めの虐待であれば、地域包括支援センターなどに相談すれば、プロが介入することで、問題が(かなりの程度)解決するものです。

しかし、虐待をしてしまう息子の場合、そもそも地域包括支援センターの存在でさえ、正しく認識していないこともあるでしょう。そうして密室度が高まれば、悲惨な事件にまで発展しかねないのが、虐待の恐ろしさなのです。

親と同居する息子が介護をしているケースには積極的な介入が必要

先の心理プロセスに、いくばくかの真理があるならば、息子による親の介護には、ある程度、積極的な介入が必要ということになります。この介入には(1)虐待リスクの高い介護世帯の把握(2)専門家による介入プロセスの設計(3)虐待リスクの定量的な把握とモニタリング、といったことが必要になるでしょう。

そして、ここにはプライバシーの問題もありますから、どうしても法整備と自治体による指針が必要になってくるでしょう。2025年問題が顕在化してしまう前に、現在の虐待への対応から、1歩つっこんだ対応ができるような調整が求められます。

もちろん、息子による親の虐待がどうして発生してしまうのかという、先の心理プロセスが本当かどうかの検証も大事でしょう。ただ、こうした検証の結果を待っていることもできません。であれば、仮説ベースでも、とにかく動いてみて、現実に虐待件数が減るかどうかで、仮説の検証を進めるような形式も重要だと思います。

介護業界の人間であれば、虐待というのは、根っからの悪人が起こすものではなく、普通の善人が起こしてしまうものだということを知っています。問題は、こうした虐待に関する常識は、介護業界の中に閉じており、世間一般には知られていないことです。

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