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サ高住の迷走?インセンティブ設計のエラーと考えたほうが良さそうです。

サ高住の迷走?インセンティブ設計のエラーと考えたほうが良さそうです。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は介護施設ではない

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、60歳以上の健常者や、軽度の要介護状態にある人までを対象とした賃貸住宅です。賃料は一般の賃貸住宅よりも高めですが、バリアフリーが義務化されていたりと、高齢者のニーズに特化されています。

サ高住は自治体の認可を受けて営業されています。その多くは民営であり、サービスの中身も多様です。平均的な入居条件のラインとしては(1)自分のことはほとんど自分で管理できる(2)感染症など他の居住者に影響のある病気を持っていない(3)認知症の状態にはない、といったことが求められます。

誤解されやすいところですが、そもそもサ高住は介護施設ではありません。ですから、認知症を含めて、重度の要介護状態になった場合は、退去させられる可能性も高くなります。そもそも設計として、少なからぬ高齢者にとって「終の住処」にはならないことが想定されているという部分は、知っておく必要もあるでしょう。

そんなサ高住は、2017年4月末時点で、約22万戸存在しています。新設されるサ高住も多く、高齢者としては(高めの賃料さえ払えれば)自分の好みに合わせて選べる状態にあります。高齢者にとっては、なかなかに魅力的でしょう。

サ高住が介護施設化しつつある現実の背景

サ高住の多くは、民間企業が経営しています。そして、2011年の「高齢者住まい法」の改正から、わずか6年程度の期間で、約22万戸が整備されたという事実はなにを意味するのでしょう。簡単です。それは「サ高住は儲かる」ということです。

まず、サ高住に義務付けられているのは、入居者の安否確認と生活相談です。これらは1日1回行われればよく、夜間については、緊急通報システムさえあれば、職員を常駐させる必要はありません。介護施設ではないので、ここらへんは、介護施設を運営するよりもコストがかかりません。

極端に言えば、バリアフリー化をして、安否確認と生活相談があれば、サ高住として、入居者から高めの賃料を得ることができるわけです。しかも、高めの賃料を支払える層というのは、それなりのお金持ちです。そこに、生活相談からの提案として、様々なサービスをオプションで購入してもらえる可能性が発生します。

このオプションで販売するサービスの中身を、自社の介護サービスにすれば「囲い込み」の完成です。介護サービスは、入居者からすれば、実際の価格の1〜2割の価格で購入できるので、財布のヒモが緩くなりやすいものです。サ高住にとっては、営業コストを最小にしながら、賃料でも稼げるというモデルになっています。

本来は、深刻な要介護状態になった高齢者は、サ高住の入居対象ではありません。しかし、サ高住を経営している民間企業からすれば、むしろ、要介護状態になっている高齢者にいてもらったほうが(介護サービスのオプションで)儲かるわけです。

サ高住の介護施設化が起こってしまっている

まず、高齢者の立場で考えてみます。高齢者は、一般の賃貸住宅からは、入居を拒否されることが多くなります(大家の6割が高齢者の入居にネガティブ)。しかし、いわゆる介護施設になると、プライバシーなどが心配ですし、まだ元気なうちに入ることもできません。

また、現在、要介護状態にある高齢者の場合でも、民間の介護施設は高すぎます。高齢者は、比較的安くて、プライバシーが守られていて、かつ、いざ介護が必要になってもそのまま住み続けられる賃貸住宅を求めているのです。これがニーズです。

月々の支払いが高い民間の介護施設は、このニーズに合いません。では、サ高住はというと、建前では「終の住処」を想定していないのですが、先に考えたとおり、本音は逆になります。サ高住を経営する民間企業には、こうした高齢者のニーズを満たすだけの合理的な理由があるのです。

さて、サ高住の管轄が国土交通省で補助金もここから出ているのに対して、介護の管轄は厚生労働省です。サ高住の介護施設化は、この2つの管轄のスキマに生まれたポテンヒットと言えそうです。しかしサ高住には、実質的な介護施設として利用するには、安全面での不安があります。

サ高住での事故が問題になりはじめた

サ高住には、介護施設とは異なる義務付けがなされています。建前上は、介護施設ではないので、入居者一人あたりの職員の人数が少なくなるのは当然です。特に夜間の対応が手薄になりがちです。それが、悲劇につながりはじめています。以下、朝日新聞の記事(2017年5月7日)より、一部引用します。

安否確認が義務づけられたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)で、2015年1月から1年半の間に、死亡や骨折など少なくとも3千件以上の事故が報告されたことがわかった。制度上は民間の賃貸住宅に近いが、要介護者が入居者の大半を占める例も多く、国土交通省が改善に乗り出す。(中略)

サ高住は、1日1回の安否確認と生活相談が義務付けられている。夜間は緊急通報システムがあれば、職員常駐は不要だ。事故報告書では、半数以上の1730件が個室で起き、そのうち991件は職員が手薄になりがちな午後5時~翌午前9時。(中略)

制度上は民間の賃貸マンションに近い扱いだが、運営面の報告書では、入居者の88%が要介護認定(要支援を含む)を受け、要介護3以上の重度者も30%と「介護施設化」が進んでいるのが実態だ。民間機関の調査では、入所者の4割が認知症というデータもある。(後略)

インセンティブ設計のエラーとしてのサ高住

ここでまず、真面目に経営されているサ高住も多数あることは強調しておきたいです。多くのサ高住では、こうした事故が起こらないように安全対策がなされています。しかし、サ高住全体としてみた場合、要介護3以上の高齢者が3割もいる、4割が認知症に苦しんでいるとなると、さすがにおかしな話です。

高齢者が暮らしやすい賃貸住宅という、サ高住に期待されてきた社会的役割は、確かに達成されています。問題は、設備面やサービス面では、本来は対応できないところまで、社会的役割の範囲を(合法的に)拡大解釈してきたということです。ここで、悲劇が起き始めています。

しかし、民間の介護施設は(安全レベルなどを十分に確保するため)値段が高過ぎる状態です。実質的に自治体が運営する、安い介護施設としての特別養護老人ホームは、入居待ちの状態が続いており、入りたくても入れません。そして高齢者は、一般の賃貸住宅からは入居拒否されるとすれば・・・。

これが全て合法なのです。やはり、サ高住をめぐるインセンティブ設計(人々の意欲を引き出す方向)にエラーがあったと考えざるをえません。そしてこれは、日本には(まだ)高齢者が求めている生活インフラが存在していないことの証明でもあります。

私たち自身、自分が高齢者になって、一般の賃貸住宅を借りようとし、入居審査で落とされ続けた場合、サ高住以外に考えられますか?サ高住で長年暮らしていて、介護が必要になったとき、サ高住から「ずっとここにいてもらったほうが、こちらも助かるのです」と言われたら、嬉しくなりませんか?

これは、日本の将来を考える上で、かなり難しい問題になっていきそうです。着地としては、サ高住に対する安全管理の規制が強化されつつも、サ高住は、実質的な介護施設になっていくと考えられます。それはそれで、意図しない形での、日本の介護の未来になるのかもしれません。

※参考文献
・朝日新聞, 『サ高住の事故、1年半で3千件超 半数以上、個室で発生』, 2017年5月7日

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