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小規模多機能ケアは、37年前から実践されていた?小規模多機能型居宅介護の本質について

小規模多機能ケアは、37年前から実践されていた?

小規模多機能ケアのはじまりは家族会だった

在宅介護の「切り札」として期待される小規模多機能型居宅介護は、2006年に制度化されました。実は、この小規模多機能型居宅介護というのは「託老所」と呼ばれるところで実践されていた小規模多機能ケアをモデルとしています。

小規模多機能ケアとは、少人数の利用者(要介護者)を対象に、自宅と施設間のケアの連続性を重視して「通い」「泊まり」「訪問」「居住」等のサービスを一体的に提供する形態のことです。しかしこうしたケアは、小規模多機能型居宅介護がはじまるずっと前、1980年から実践されていたものなのです。

小規模多機能ケアの原点は、1980年に成立した、京都府の「呆け老人を支える家族の会」による「託老所」でした。この家族会は、制度内のサービスでは対応できないところを、自発的な会員同士で支え合っていたのです。

その3年後の1983年には、デイサービスとしての本格的な取り組みが始まります。そして、制度内のサービスでは補いきれないところを支援するために、民家等を活用して、制度外の小規模なデイサービスなどを自主的に始める動きが出てきました。その後「託する」という言葉は失礼だという意見により「託老所」は「宅老所」に呼び名が変わります。

小規模多機能ケア、そのはじまりの多様性について

では、制度内のサービスでは補いきれないところを支援する、とは、具体的にはどのようなことだったのでしょう。ここで、どういうことが問題視され、その解決に向けた活動が開始されたのを理解しておくことは、小規模多機能型居宅介護に対する正しい理解につながると考えられます。以下、参考文献(池田, 2005年)の記述から、この点についてまとめてみます。

1. 市民が、現在の公的サービスに不安や不満、限界を感じて開設

まず、市民が自発的に開始した小規模多機能ケアがあります。それらには大きく(1)保健福祉に関する講習会で「宅老所」の話を聞き、受講者たちが始めたケース(2)自らや家族の老後を案じる女性たちが開設したケース(3)公的サービスが「年齢や利用回数などに制限があり、利用者のニーズに合っていない」という理由で始まったケース(4)自らの家庭介護の経験から「介護しやすいように改造した自宅を開放」して始まったケース(5)公的(大規模)施設の限界を感じて、職員が退職して始まったケース、などがあります。

2. 公的施設が、現状での限界を少しでも超えようとして開設

認知症の高齢者に対する理解は、今でもまだまだ進んでいません。1980年代は、なおさら、社会の認知症に対する無知が際立っていた時代です。そうした時代における認知症ケアには、今以上に問題点が多くありました。特に、認知症の高齢者が日々の生活をおくる生活環境の多くが劣悪であり、そうした生活環境に疑問をもった公的施設が、独自に小規模化を目指したり、民家を借りて「宅老所」に近いものをつくりあげたのです。これは、介護の現場から、あらたなサービス開発が自発的にはじまったケースとして注目に値します。

3. 行政が、その必要性を感じて委託あるいは補助事業として開設

行政もまた、介護の現場理解を進めるうちに、制度に問題があることに気づきました。制度からもれてしまう高齢者の生活環境を少しでも良いものにしようと、行政が、小規模多機能ケアを、委託事業や補助事業として開設した場合もあったのです。行政というと、一般的には、頭がかたくて、ルールからの逸脱を許さないというふうに考えられることが多いでしょう。しかし現実には、行政の中にも、サービスの利用者のために柔軟であろうとする人々も多数いるのです。

ここで付け加えておきたいのは、こうした小規模多機能ケアの利用者は、高齢者に限定されていなかったことです。1998年の小規模多機能ケアを実践する事業所への全国調査によると、3分の1以上が、障害児や子供といった人々のためにもサービスを提供していたことがわかっています。地域包括ケアの萌芽もまた、小規模多機能ケアにあると考えることが可能なのです。

小規模多機能ケアの発展について

市民、公的施設、行政など、様々な実践者たちは、1人の利用者の状態やニーズに合わせて、様々なサービスを生み出していきました。それでもまだ、利用者にとって理想的な環境とは言えませんが、それでも、こうして柔軟に対応していくうちに、介護業界のサービスも増えていったのです。

たとえば、開設当初は「通い」だけだったデイサービスが、利用者の重度化に伴い「宿泊」「訪問」「居住」と機能を加えていったケースは多くあります。また、制度外のサービス提供も積極的に行われていました。そして、1993年には、現在の小規模多機能型居宅介護に通じる多機能ケアの原形が、すでに実践されていたのです。

このように、小規模多機能ケアの本質は、現行の制度ではカバーしきれない利用者のニーズに対応することにあります。そのためのサービスを開発し、実践していくというところに、強みがあると言えるでしょう。ある意味で、ルールにとらわれないことが、小規模多機能ケア本来の姿なのです。

小規模多機能ケアの実践をモデルとして制度化された小規模多機能型居宅介護というサービスの形態においても、こうした本質を重視する必要があります。単にパッケージ化された「通い」「訪問」「泊まり」のサービスを提供すればいいのではありません。利用者が、在宅生活を継続するために必要なサービスを柔軟に開発していくことが求められています。

小規模多機能ケアでは、利用者(当事者)、家族介護者、地域住民、介護職員と、誰でもサービスを開発して実践することができます。地域住民が心から求めている介護サービスの開発に挑戦する人が増えることで、日本の介護サービスはより発展をとげていくことでしょう。小規模多機能型居宅介護とは、そのための創造的なプラットフォームなのです。

※参考文献
・池田昌弘, 『全国デイホーム・宅老所・グループホーム-高齢者を地域で支える小規模ホームたち』, 筒井書房, 2005年
・杉山 孝博, 高橋 誠一, 『小規模多機能サービス拠点の本質と展開-認知症高齢者が住み慣れた地域で生きることを支援する』, 筒井書房, 2005年
・平野 隆之, 高橋 誠一, 奥田 佑子, 『小規模多機能ケアの実践の理論と方法』, 筒井書房, 2007年
・平野 隆之, 『宅老所・グループホームの現状とその支援-全国調査からさぐる小規模ケアのあり方』, 筒井書房, 2001年

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